6月4日に行われた第14期加古川青流戦トーナメント戦にて、立石径アマが現役奨励会三段に勝ち、公式戦初勝利を飾りました。実は立石アマは、約30年前に17歳という若さで三段リーグを退会した「伝説の三段」であり、「将来のA級候補」と多くの関係者から認められる存在でした。将棋世界では2006年9月号の記事を再録した『将棋世界ノンフィクション “元奨”の真実 あの時の決断に後悔はない』を有料販売いたしますが、本稿では才能あふれる彼の奨励会時代の偉業をご紹介します。

舞台は第59期棋聖戦五番勝負第1局。 南棋聖(当時)ー谷川竜王(当時)の一戦は、南棋聖が追い込みを見せるも谷川玉が詰まず、谷川竜王勝ちとなりました。感想戦でも谷川玉に詰みはないという結論が出ましたが、それを覆したのが立石三段でした。

以下、『週刊将棋1991年12月18日号』より抜粋

  • 立石の偉業を報じる記事。プロ入り前の三段としては異例の扱い

    立石の偉業を報じる記事。プロ入り前の三段としては異例の扱い

記録係の指摘

(前略) ところが、推理ドラマのような大ドンデン返しが待っていた。名探偵は記録係の立石径三段。村山六段に続く逸材と期待を集める16歳の少年が、10人の棋士の出した結論をひっくり返したのである。

感想戦が終わり報道関係者も含め20人近くいた対局室は谷川ら7、8人になっていた。 南も立ち去っていた。

「そういうことはもっと早く教えてくれんとなあ」

副立会人の脇の声に一同が振り向くと、脇と立石少年が1枚の棋譜を見詰めていた。

「立石君が詰みがあるって言うんですわ」

一瞬けげんな顔をした谷川だが、脇が詰め手順を言い始めると、すべてを了解したようだった。無言だった。 詰め手順は南にも伝えられた。浴衣に着替えていた南は二度、三度とうなずいた。 笑顔を浮かべて表情は変えなかった。

打ち上げの宴で原田九段が「立石四冠王」とほめたたえていた。 南二冠王、谷川二冠王を合わせた実力、というわけ。少年は照れくさそうにはにかんでいた。

森安秀光九段(立会人)のコメント 「控室に7人もいて詰みを発見できなかったのは情けない。立会人を助けてくれなくては困ります(笑)。ともかく立石君をほめたい。彼は大きく育つ可能性を秘めている素材です」

脇謙二七段(副立会人)のコメント 「(略)立石君は村山君に続く大器。これから分からないことは立石君に聞くことにします」

(週刊将棋1991年12月18日号 第59期棋聖戦5番勝負第1局より)

タイトルホルダーも含めたプロ棋士10人が見落とした詰みを、立石三段は見事に発見しました。 原田泰夫九段の「立石四冠王」という言葉は、これ以上ない誉め言葉だったでしょう。

突如として将棋界に現れたかのように見えた立石アマには、数々のプロ棋士をうならせた確かな実力があったのです。 今後、立石アマがどういった活躍を見せるのか、注目です。