三菱自動車工業(以下、三菱自動車)の欧州事業統括会社であるミツビシ・モーターズ・ヨーロッパ・ビー・ブイは2024年4月24日、欧州市場向けのコンパクトSUV「ASX」を大幅改良し、2024年6月より欧州の一部市場で販売を開始すると発表した。
ASXは、三菱自動車のアライアンスパートナー、ルノーからOEM供給を受けるCMF-Bプラットフォームを採用した5人乗りのコンパクトSUV。今回、2023年3月に欧州で販売を開始して1年でフロントフェイスの一新や、コネクティッド機能および安全機能の追加など、外形デザインのリフレッシュと、利便性や安全性を高める改良を施す。改良版ASXは従来型同様にスペインにあるルノーのバリャドリード工場で2024年5月より生産が開始される。
今回の改良について、まずはフロントデザインが一新するなど外形デザインのブラッシュアップがトピックとして挙げられる。従来型はOEM供給元であるルノーのキャプチャーをベースに、三菱マークを冠したアッパーグリルを採用した程度のいわゆるバッジエンジニアリング的な仕立てであったものを、より独自色の強いイメージへと転換を図ったのだ。
具体的にはバンパー中央部をブラックアウト化することで三菱自動車のデザインアイデンティティであるダイナミックシールドをより強調するとともに、立体的で奥行き感のあるサテンシルバーのグリルモチーフを組み込みながら一体化させることで、ダイナミックかつ堅ろうさを演出。
LED式ヘッドライトはL字形とスリット状の造形を組み合わせ、洗練されたモダンな印象に仕上げている。
また、ダイヤモンドカットを施したブラックの18インチアルミホイールを新採用。スポーティさとたくましさを演出する。
こうした三菱色をより強めたフロントフェイスのデザイン変更を敢行できたのは、ベースモデルのキャプチャーが登場5年を経てフェイスリフトを伴う大幅改良を実施(2024年4月4日フランス本国発表)したことによるものだろう。
利便性の向上については、10.4インチのスマートフォン連携ディスプレイオーディオを新たに採用するとともに、三菱車で初のGoogle搭載車としてコネクティッドサービスを充実させている。音声で電話やメール、音楽の再生、リマインダーの設定、車内温度調整などができるGoogleアシスタントをはじめ、ナビゲーション機能やリアルタイムの交通情報が得られるGoogleマップ、スマートフォンのように音楽やポッドキャストなどのアプリをダウンロードできるGoogle Playが使用できる。
また、コネクティッド機能を強化する新開発のモバイルアプリ「My Mitsubishi Motors」を展開。スマートフォンから駐車位置の確認などが可能になるなど、日常生活の使い勝手を向上させるものだ。
安全機能については、駐車可能位置を自動で検知し、車庫入れや前向き駐車、縦列駐車などをサポートするパークアシストや、車両周囲の障害物などの確認を補助するアラウンドビューモニターを装備(グレードによる)。駐車時の安全性と利便性を向上させた。
また、後退時交差車両検知警報システム[RCTA]をはじめとした予防安全技術も充実させ、快適で安全・安心な運転をサポートする。
パワートレーンには、ハイブリッドEV(HEV)、マイルドハイルブリッド、ガソリンエンジンの3タイプを用意。HEVモデルでは、1.6Lガソリンエンジンに駆動用と発電用の2つのモーターを搭載。これにマルチモードATを組み合わせている。駆動用バッテリーの容量は1.2kWhだ。
走行モードには、バッテリー残量を温存しながら走行する「Eセーブ」モードを新たに採用。駆動用バッテリーの充電を40%以上に保てるため、EV走行をしたい場面や急坂などでモーターによるエンジンアシストが必要な場面に備えて、電池残量を確保しておけるモードだ。
そのほかのパワートレーンでは、マイルドハイブリッドは1.3L直噴ガソリンターボエンジンに6速MTもしくは7速DCTの組み合わせ、ガソリンエンジンモデルは1Lガソリンターボエンジンに6速MTを組み合わせる。
かつてはRVR=ASXだった
ASXは欧州市場向けのコンパクトSUVとして2010年に初代が登場したが、このモデルは日本で販売する現行型RVRと同型であった。ちなみに欧州をはじめ、オーストラリア、中国、南米などでASXの車名で販売されており、アメリカではアウトランダースポーツを名乗っている。
登場当時はハイパフォーマンスセダンのランサーエボリューションXに代表されるジェットファイターグリルを採用。のちに現在の三菱顔となるダイナミックシールドにフェイスリフトを実施。しかもダイナミックシールドのデザイン進化に合わせて2017年と2019年の2度、アップデートを敢行している。
販売開始から13年を経て、アライアンスパートナーであるルノーのコンパクトSUV、キャプチャーをベースにOEM供給というかたちで2023年にモデルチェンジしたのが現行型ASXだ。
ただ、三菱自動車のSUVラインアップにおいて最新の三菱顔ではないASXのフロントフェイスには少々違和感というか、もの足りなさも感じられたのは事実(三菱自動車ではダイナミックシールドの要素を取り入れたと解説しているが)。先代モデルでダイナミックシールドをまとっていただけに……。そういった違和感が、今回のフロントフェイスの一新でようやく(?)解消されたわけだ。
気になるRVRのこれから……
さて、ASXが大幅改良で話題を振りまくなか、日本のRVRの動向も気になるところ。なぜなら、ASX大幅改良のリリースが公開された2024年4月24日現在で、三菱自動車公式ウェブサイトのRVRの製品紹介ページでは「装備・仕様がご希望に添えない場合がございます。詳しくは営業スタッフにお問い合わせください。」との断り書きがあるからだ。通常は商品改良もしくは新型への切り替えなどによる生産調整が行われている状況だと認識できるのだが、登場から14年が経過した長寿モデルだと、“ついに生産終了か!?”と勘ぐってしまうもの。ちなみに、三菱自動車はRVRの生産終了については現段階では認めていない。
2019年に敢行したフェイスリフトには、登場9年目にしてここまでするか!? と驚いたが、デリカD:5は、2007年の登場から12年目にして大整形手術を敢行しており、さらにその上をいく。なのでRVRもまだまだいける? という期待も抱ける。
だが、最新安全装備の充実や環境負荷低減などによる新法規に対応していくには大改修が必要になりそうだ。販売規模を考えてもそこにコストをかけるくらいなら、いっそASXを国内投入するほうがメリットもありそう? そんなことを想像(妄想!?)できるのが今回のASXの大幅改良だ。
〈文=ドライバーWeb編集部〉