2024年1月末にワールドプレミアされた2世代目ポルシェマカン。タイカンに続くポルシェのBEV(電気自動車)第2弾となるモデルだ。
【画像】ポルシェBEV第二弾、ポルシェマカン4とマカンターボにフランス・ニースで試乗(写真14点)
2023年のポルシェの世界販売台数をみると、マカンは8万7355台と、トップのカイエンの8万7553台にせまるセールスを記録している。これほどの売れっ子をBEV専用車にスイッチするというのだから、いまポルシェが目標として掲げている2030年までに80%以上をBEVに、という話の本気度がうかがい知れるというものだ。
4月下旬、新型マカンの国際試乗会が地中海性気候で1年をとおして温暖な気候で知られるフランス・ニースで行われた。実はフランスは新車販売におけるBEVの割合は15%超、PHEVを足し合わせるとおよそ21%にまで伸びている。一方で日本はBEV が2%、PHEVを足しても3%にとどまっている。ニースの街を走る車に目をやると、フィアット500eやルノーゾエ、テスラモデル3などコンパクトBEVを多く見かける。また公共交通機関であるバスも電気自動車になっており、街中のバス停に大きな充電設備が用意されていた。コロナもあけ多くの観光客が訪れ、道がせまく朝夕とかなりの渋滞をするニースのような街には、排ガスのない電気自動車はやはり似つかわしいのだと感じた。
試乗の発着地点となるニースのヨットハーバーにずらりと並んだマカンは実にカラフルだった。標準色が13種類、スペシャルカラーは59種類を用意する。今回の試乗車はワールドプレミアで発表されたマカン4とマカンターボの2種類。この時点ではまだアナウンスはなかったが、追ってSやGTSなどといったモデルが登場するのは想像にかたくない。
まずはマカン4とターボのエクステリアでの差異を見極めるとする。新型パナメーラからターボモデルには、メタリックグレーの”ターボナイト”エンブレムの採用が始まっている。もちろんマカンも同様だ。そしてフロントバンパーでは、ヘッドライト下の横桟がターボはボディ同色に、マカン4はブラックアウトされている。ちなみにここでいうメインのヘッドライトユニットは、バンパーの中央の位置にある四角いもの。一般的なヘッドライトの位置にある特徴的な4本のLEDライトは、実はデイタイムランニングライトになっている。ヘッドライトを2つのパーツに分けてデザインしているというわけだ。リアバンパーは、ターボモデルにのみ左右にスリットが備わる。
ボディサイズは全長4784mm、全幅1938mm、全高1622mmで、ホイールベースは2979mmと先代モデルより86mm延伸。そのためCd値は0.25とクーペのようなスタイリングから想像していたよりも室内空間にはゆとりがある。前後シートともに先代モデルより着座位置が低くなっており、後席は身長180cmの大人が座ってもしっかりとヘッドクリアランスが確保されていた。
そしてラゲッジスペースも先代モデルよりも広くなっている。リアスペースは通常540リッターで、背もたれを倒すと最大1348リッターに拡大。そしてボンネットの下には”フランク”と呼ばれる容量84リッターのセカンドラゲッジコンパートメントがある。
インテリアは、タイカンにはじまった最新のデザインの流れを汲んだもの。ダッシュボードは12.6インチの自立型メーター、10.9インチのセンターディスプレイ、オプションの10.9インチ助手席用ディスプレイが一体化したブラックパネルとなり、タイプ930の911のインテリアを彷彿とさせるT字型を強調している。BEVだからとすべてをデジタル化するのではなく、スタート/ストップボタンをはじめ、エアコンのスイッチ類、オーディオのボリュームなど、アナログのコントロールエレメントを残しているのもポルシェらしいところ。
新骨格はアウディとの共同開発によるBEV専用のプレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)。アウディはこれを用いてQ6 e-tronを発表済み。今度はVWグループの他ブランドにも展開されていくはずだ。
パワートレインは、前後アクスルに永久励磁型PSM電気モーターを配置した2モーター式で4輪を駆動する。800Vアーキテクチャーを備えたPPEのフロアには総容量100kWhのリチウムイオンバッテリーが効率よく敷き詰められている。
マカン4は、最高出力285kW(387PS)で、オーバーブースト時には300kW(408PS)のパワーを発生。最大トルクは650Nm。0-100km/h加速は5.1秒、最高速度は220km/h。一充電走行可能距離は、613km。一方のターボは、最高出力430kW(584PS)で、オーバーブースト時には470kW(639PS)を発揮、最大トルクは1130Nmと4桁に到達している。0-100km/h加速は3.3秒、最高速度は260km/h。一充電走行可能距離は591kmとなっている。
試乗1日目はマカン4に乗った。ポルシェの試乗会としては珍しくサーキット走行がセットされていなかった。ナビゲーションにしたがい夕方の渋滞するニースの市街地をぬけて、モンテカルロ・ラリーもかくやのワインディング路を走る。足回りにはオプションの22インチタイヤ+エアサスが装着されており、路面の荒れた街中では少々硬いかなと感じる場面もあったが、こうした山岳路では重さを感じさせず軽快な身のこなしをみせる。ブレーキのフィールにまったく違和感がないのも、ポルシェらしくていい。マカン4で十分だとこのときは思った。
翌日の朝、ターボに乗る。走りだしてすぐに、ああ、これはいいわと思った。過激とか俊敏すぎるのではなく、しかしアクセルペダルに対するとてもリニアだ。ほんのわずかに加速したい、そんな瞬間に答えてくれる。飛ばすわけでもなく普通に流していて、運転が楽で快適だ。そして足回りはマカン4と同様に22インチタイヤ+エアサスの組み合わせだったが、乗り心地もこちらのほうが洗練されていた。昨日と同様に山岳路での試乗だったが、さらに車との一体感が味わえた。
のちに確認したところ、マカン4とターボでは、モーターの大きさだけでなく、取り付け位置なども含めてリアアクスルまわりがまったくの別物という。エアサスペンションも機構としてはマカン4と同じものだが、ダンパーのセッティングが異なり、またリアアクスルの電子制御式ディファレンシャルロックであるポルシェトルクベクトリングプラス(PTV Plus)や最大操舵角5度のリアアクスルステアリング(オプション)も装備していた。ゆえに前後重量配分は、マカン4では50:50のところ、ターボでは48:52とより後輪へのトラクション重視のセッティングになっているという。
実は当初マカンは、既存のICE(内燃エンジン)とBEVを併売するとアナウンスされていた。しかし、欧州域内でサイバーセキュリティ法が施行されることになり、それに対応できない(不可能ではないが、相当な労力とコストを要するという)ICEは、欧州のほとんどの国で販売終了になるという。ちなみに日本においても、2022年からOTA(Over The Air)対応の新型車への規制が始まっており、2026年5月には規制対象が継続生産車にも拡大されるという。ICEマカンがいつまで生産されるのかについては正式な発表はないが、残された時間はそう長くはなさそうだ。
ICEかBEVか、両方が選べる日本市場にいるわれわれはラッキーだ。悩む楽しみがある。最終的にどちらを選んでもポルシェであることは間違いない。
文:藤野太一 写真:ポルシェAG
Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche AG