東京・目黒のホテル雅叙園東京で、企画展「昭和モダン×百段階段 ~東京モダンガールライフ~」が始まりました。モダンガール、通称モガは、大正から昭和初期に颯爽と登場した、新時代を象徴する女性のこと。軽薄だなんて批判をものともせず、洋服姿にボブヘアで街を闊歩し、仕事に就き自由恋愛を実践するモガは、“自立した女性”像の先駆者でもありました。
展覧会の舞台となるのは1935年(昭和10年)に建てられた、同ホテルで現存する唯一の木造建築、東京都指定有形文化財「百段階段」。当代屈指の画家たちによって趣向を凝らした絵や彫刻で装飾された7つの部屋を、99段の長い階段廊下がつなぎ、その絢爛豪華さで“昭和の竜宮城”とも称されていたそうですが、そんなレトロ建築が今回、同時代のモガたちが生きた“昭和モダン”な空間に大変身。
モダンガールの装いとおめかし
モガを象徴するファッションといえば、洋装に断髪。ですが、実際に洋装ができた女性は限られていて、当時はまだまだ着物のほうが多かったそう。とはいえ幾何学模様やアール・デコ調のデザインを取り入れた着物に、帽子やレースの手袋など洋風のエッセンスを交えた和洋折衷のコーディネートも、オシャレ感度抜群なモガの代表的なファッションです。
ちなみに当時、社会進出した女性の職業の代表例が、“着物にエプロン姿”でおなじみのカフェの女給、それからデパートガールにエレベーターガール、バスの車掌といったサービス業。技術や専門知識が必要なタイピストや電話交換手、事務員などは、職業婦人の中でも花形の仕事だったよう。文化財「百段階段」の最初の部屋、十畝の間では、職業婦人・夜会・銀ブラという3つのテーマで、モダンガールたちの華やかな装いを紹介しています。
繁華街を華やかに闊歩する際のメイクアップも、モガにとって大切な要素。彼女たちは映画女優や雑誌のグラビアから最新のトレンドを取り入れ、ファッションに合わせてメイクや髪型も西洋風に進化していきました。文化財「百段階段」で一番豪華といわれる漁樵の間では、こうした当時の流行最先端のデザインを取り入れた香粧品、ダンスをするときに邪魔にならないサイズ感のハンドバッグや、口紅やコンパクトを入れるための小さなポーチ、アクセサリーといった手回り品、そしてポスターや広告など、女性たちの“おめかし”を華やかに彩ったアイテム約50点を紹介。
化粧品は色付きの白粉や液体・クリーム状のもの、外出先でもお化粧を直せるコンパクトなど、時代の変化に合わせた様々な形態のものが登場。輸入品をオマージュして生まれた国産の化粧品や香水瓶は、意匠やラベル、パッケージなどの外観にアール・ヌーヴォー調やアール・デコ調のデザインが施され、今も色褪せないエレガントさと洗練された魅力を放っています。
続く草丘の間は、昭和初期のノスタルジックな世界をイメージした“文化財Bar”に変貌。ステンドグラスを配したレトロモダンな“夜の社交場”として、バーカウンターもテーブル席も自由に座れる格好のフォトスポットに。ちなみに当時発行されていた雑誌『婦人世界』1929(昭和4)年7月号には、「モダンガールの資格十ヶ条」として、第四条に「洋酒と名のつくものはひと通り飲んで、しかも名前を覚えなければならない」と書かれていたそうで、モガたちは大胆かつ真剣に、洋酒文化に挑戦していたのかも。
描かれたモダンガール-竹久夢二と小林かいち
独特の情感をたたえた美人を描いて一世を風靡した画家、竹久夢二。今年は生誕140年かつ没後90年という節目の年であり、美人画はもちろん、雑誌や楽譜の表紙などのグラフィックデザイナーとしても再評価されています。静水の間には、従来の竹久夢二と聞いてイメージする儚げな美人画よりもデザイン性のグッと強い、モダンガールを描いた作品が集結。さらに廊下を奥に進んだつきあたりの星光の間には、“京都のアール・デコ”とも称される、小林かいちの作品60点以上が登場しています。
京都の土産物店の木版刷り絵封筒や絵葉書の図案を手がけて、少女たちから熱狂的な人気を集めたというかいちは、20年ほど前まで、本名も性別も出身地さえ分からなかったという謎に包まれた作家です。今回、夢二とかいちのコレクションを出展した画廊・港屋の大平龍一さんは、かいちについて「この小さな画面の装飾性の高い色彩と構図、デザインだけであればおそらく夢二以上のデザイナーだと思います」と、その類まれな才能を評していました。
最後の頂上の間には、「モダンガール その先の時代へ」というテーマで、画家の加藤美紀さんの新作が登場。ここ文化財「百段階段」で開催されている夜会から抜け出して佇む女性のもとに、天井画の鳳凰が舞い降りてきて何かを告げる。そんな幻想的なモダンガール像が描かれているのですが、実はこの取材内覧会の前日まで制作を続けていた、完成ほやほやの作品。絵の横には女性と同じ着物が用意され、空想と現実が交わるような不思議さを醸していました。
世界大恐慌、戦争――そんな暗い時代の足音が近づいてくる前のほんのつかの間、開放的で自由な時代をキラキラと駆け抜けたモガたち。当時の東京の人口を占める割合としてはごくわずかでしたが、装いも生き方も魅力的。そんなモダンガールと、大衆文化が開花した昭和モダンを体感できる同展は、6月16日まで開催です。
■information
「昭和モダン×百段階段 ~東京モダンガールライフ~」
会場:ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
期間:6月16日まで(11:00~18:00)
料金:当日券1,600円、大学・高校生1,000円 / 小・中学生800円