東京・墨田区のすみだ北斎美術館で、企画展「歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能」が始まりました。天才浮世絵師・北斎が描いた“江戸の芸能”をモチーフとした作品を、前期、後期あわせて約125点展示。デビューしたばかりの若き北斎の作品や初公開の役者絵、さまざまな踊りをユーモラスに描いた作品などが楽しめる貴重な機会となっています。
かの有名な「冨嶽三十六景」シリーズを発表する約50年前。19歳で浮世絵師・勝川春章に入門、翌年から歌舞伎の役者絵などを発表し、勝川春朗(しゅんろう)として浮世絵師の第一歩を踏み出した北斎。まずはそんな駆け出し時代の春朗期役者絵が紹介されます。デビュー当時に発表した歌舞伎の役者を描いた錦絵は残っている数が少なく、希少な作品群だそう。
勝川派を離れてからの北斎は、役者絵をほとんど描いていないとされ、実際に春朗期のような歌舞伎の役者絵は、今のところ確認されていないそうですが、勝川派離脱後も音曲や舞踊など、芝居に関連する作品を多く描いています。
北斎は、様々な芸能のお披露目会の招待状として作られた、摺物(すりもの)と呼ばれる私的な非売品の印刷物も、多く手がけていました。ここでは音曲のおさらい会や、襲名披露の案内のために作られた大きなサイズの摺物を前期、後期で12点ずつ展示。摺物は片側に絵を、もう片側に文字情報を摺ったもので、二つ折りにしたものをさらに三つ折りにして配られていました。絵と文字情報がともに完全な形で残されている作品は大変希少とのこと。
また芸能にまつわる画題として、踊りを描いた作品も紹介されています。吉原の芸者たちが即興で演じて見物人の目を楽しませた踊りから、庶民が楽しむ盆踊りまで、さまざまな踊りを描いた北斎。
たとえば雀踊りの行列を描いた「すずめ踊り」は、北斎の肉筆画。行列でありながら、1人が軽やかに踊りながら進んでいくアニメーションのコマのようにも見えます。この雀踊りの図柄は人気のモチーフであったようで、皿や椀などの日用品の図柄にも取り入れられています。
また、絵手本の「悪玉おどり」は、滑稽でチャーミング、しかも身体の動きの的確さに思わず惚れ惚れ。踊りの教則本だけあって、ところどころに動きの指示も入っています。会場では1分ほどの悪玉踊りをユーモラスにアニメーション化した映像も流れていました。
90歳の長寿を全うし、生涯で約3万点もの作品を残したといわれる北斎。その多彩で幅広い画業の中で、“江戸の芸能”をモチーフとした貴重な作品を展覧する企画展は、5月26日まで開催しています。
■information
企画展「歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能」
会場:すみだ北斎美術館 3階企画展示室
期間:3月19日~5月26日(9:30~17:30)/月曜休、4/30、5/7休 ※4/29、5/6、6/10は開館/※前後期で一部展示替えあり 前期:~4/21、後期:4/23~5/26
観覧料:一般1,000円、高校・大学生および65歳以上700円、中学生および障がい者300円、小学生以下は無料