藤井聡太棋聖への挑戦権を争うヒューリック杯第95期棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は決勝トーナメントが進行中。3月14日(木)には1回戦の藤井猛九段―佐藤天彦九段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、四間飛車対居飛車の対抗形から抜け出した佐藤九段が53手の短手数で勝利。快勝で2回戦進出を決めています。

「振り飛車党のバイブル」の類型

後手となった藤井九段が四間飛車に構えて対局開始。居飛車側の穴熊志向を見て向かい飛車に振り直したのは用意と思われる作戦で、藤井九段は類型の研究を専門誌に発表した経験を持ちます。直後の飛車ぶつけに佐藤九段が交換で応じたことで盤上は早くも戦いへ。

手番を握った先手の佐藤九段は手筋の自陣飛車で局面を鎮静化。直後に控える桂取りの歩打ちに期待した一手で、後手に攻めを焦らせる意味合いがあります。桂頭の守りを省略しながら飛車交換を挑むという振り飛車側の欲張った構想が成立するかが焦点になっています。

一瞬の切れ味で終局

1時間の長考に沈んだ藤井九段は玉側からの反撃に手段を求めますが、ここから佐藤九段の鋭い反撃が火を噴きます。桂跳ねの王手で美濃の急所に狙いをつけてから飛車切りで質駒の角を入手したのが教科書通りの囲い崩し。直後に寄せの決め手が待っていました。

飛車切りに続いて、取られそうな角を端に飛び出したのが藤井九段の見落とした佐藤九段の決め手。タダ捨てに見える角ですが、これを取ると後手玉に即詰みが生じます。終局時刻は15時59分、この局面で藤井九段が投了し佐藤九段の勝利が決まりました。

投了図で後手は飛車を自陣に投入すればすぐの寄りはないものの、反撃の手段がなくなるため逆転の期待が薄い局面でした。勝った佐藤九段は2回戦で佐々木勇気八段―西田拓也五段戦の勝者と対戦します。

水留啓(将棋情報局)

  • 1時間ほど続いた感想戦では仕掛けの成否から終盤の攻防までの検討が行われた

    1時間ほど続いた感想戦では仕掛けの成否から終盤の攻防までの検討が行われた