2023年7月1日、一定の条件を満たした電動キックボードを「特定小型原動機付自転車」(以下、特小原付)と呼び、16歳以上なら免許なしで運転できるようになった。そこまでは多くの方がご存知だろう。じゃあ、16歳未満の者が運転したらどうなるのか。
同じ7月1日、道路交通法(以下、道交法)の第64条「無免許運転の禁止」と第65条「飲酒運転の禁止」の間に、新たに第64条の2が加わった。第64条の2は、2つの項から成る。第1項はこうだ。
「十六歳未満の者は、特定小型原動機付自転車を運転してはならない。」
特小原付という新たなカテゴリーを設けたのにあわせ、その無免許運転について新たな法条を加えたわけだ。罰則は第118条第1項第2号、「6月(ろくげつ)以下の懲役又は10万円以下の罰金」だ。
でも、少年法により20歳未満は男子も女子も「少年」とされる。少年事件は家庭裁判所へ送致される。16歳未満の交通違反なんか、せいぜい軽い保護処分だろう。ならば罰則は空文か。いやいや、とんでもない。刑法第103条がこう定めてるんだね。
「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」
蔵匿(ぞうとく)とは、隠れ家を提供したり、かくまうこと。隠避(いんぴ)とは、それ以外の方法で捜査機関の発見、逮捕から逃れさせることをいう。16歳未満による特小原付の無免許運転は「罰金以上の刑に当たる罪」だ。したがって…。
たとえば15歳の息子が、特小原付を運転して警察官から停止を命じられ、逃げたとしよう。その息子を、たとえば親がかくまえば、親が刑法第103条により逮捕されかねないのである。
さらに、第64条の2の、第2項はこうだ。
「何人も、前項の規定に違反して特定小型原動機付自転車を運転することとなるおそれがある者に対し、特定小型原動機付自転車を提供してはならない。」
「何人」は「なんぴと」と読む。誰でも、という意味だ。たとえば15歳の息子から「えーっ、いいなあ、僕にも運転させてよ」とか言われた親が「しょーがねえな、ちょっとだけだぞ」などと息子に特小原付を運転させたら、ずばりこの提供罪になる。
提供罪の罰則は第118条第1項第3号、やはり「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」だ。
犯人蔵匿・隠避にも、提供罪にも、違反点数はない。しかし、道交法第103条第1項第8号が「免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」は免許停止処分を執行できると定めている。これを「危険性帯有」による処分という。停止期間は最大180日だ。
もちろん、親がそう簡単に処罰されることはないだろう。多くは不起訴(起訴猶予)だろう。危険性帯有による処分だって、そうそう乱発されることはないはず。
でも、息子が特小原付で無茶な運転をやらかして大事故を起こし、付近の監視カメラに録画された映像が全国報道され、大問題に、なんて場合、一般予防の見地から、つまり見せしめのために親を逮捕、きりきり処罰、処分して報道する、ということはありそうだ。
以上、特小原付を16歳未満が運転したらどうなるか、という話でした。全国の親御さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんは、息子や弟から「えーっ、いいなあ、僕にも運転させてよ」とお願いされても、応じちゃダメですよぅ。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。