中学受験の過熱ぶりは子育て世代の親にとって大きな関心事です。わが子を過度な競争に巻き込みたくないからと、「小学校受験」を選択するご家庭も増えているようです。

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高校・大学受験との違いは、親の役割の大きさでしょう。「小受」にせよ「中受」にせよ親がリードする受験に、弊害はないのでしょうか?
臨床心理士の杉野珠理さんと、精神科医の荒田智史さんにお伺いしました。

■「条件つきの子育て」に注意

小学校、中学校の受験に共通しているのは、ある程度、「親が主導する」受験であることです。自分で進学先を決めて中学受験に挑む自律的な小学生はごく一部で、大多数が親の意向や助言を受けて親子一丸となって受験に臨むケースが多いのではないでしょうか。

こうした、親子で並走する受験には注意が必要です。
子どもの成績の良し悪しに親が一喜一憂する状況は、「条件つきの子育て」に傾きがちだからです。

条件つきの子育てとは、成績が良いときには子どもを褒め、悪いときには親が落ち込んだり、不機嫌になったりするなどの態度をとることです。望ましい結果が出たときにだけ愛され、結果が出ないときには愛されないという状況は、子どものメンタルヘルスに悪影響です。

子どもの自尊心(自己肯定感)の基盤は、一番身近な親から「無条件に愛されている」「自分は守られている」と感じることで強固になります。
条件つきの子育てではこの基盤がゆらぎ、子どもは「自分には味方がいない」と受け止めてしまいます。

■思春期にしっぺ返しがくる可能性も

子どもが低年齢(小学生ぐらいまで)だと、親に対して疑いがないので、たとえそのかかわりが条件つきであっても、子どもは従順です。

親の言うことを聞かないと生きていけないと思い込んでいるため、無意識的にも意識的にも必死に親の言うことを聞きます。親が望むような態度や振る舞いをしますし、頑張って勉強もするでしょう。
しかし後々、条件つき子育てのしっぺ返しがくるかもしれません。

子どもが成長して反抗期に差し掛かると、親を疑うようになります。
自分が条件つきで愛されている、と疑うと、子どもは「自分は大切にされていない」→「自分を大切にしない」→「自分を安売りする」という思考パターンに陥ります。これが、パパ活やリストカットを行う心理です。

思春期によく見られる反抗行動(過激なSNS投稿、摂食障害、売春、家庭内暴力など)の根底にも、身近な親への信頼の揺らぎが関係している場合が少なくないのです。

  • 書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』より マンガ/松尾達

■子どもの味方になる親の態度

受験をする、しないにかかわらず、子どもの学習を見守るときに心がけたいのは、結果ばかりにとらわれないことです。
子どもの取り組みに対して、よくできたときだけ褒める"結果褒め"は、よい結果を出すという条件つきで褒めていることになり、子どもの自尊心を傷つける可能性があります。

褒めるときは、子どもの頑張りや取り組む姿勢などに目を向けることです。
「しっかり復習をしたね」「わからない問題に取り組んでえらいね」などと、子どもの取り組みの過程を褒める"プロセス褒め"が理想的です。

子育てで大事なのは、子どもの「味方になる」ことです。
心理学ではこれを「支持」と呼んでいます。具体例としては、傾聴、共感、受容、保証などの支持的なかかわりがあります。

まず親は子どもを否定せずに話をよく聞くこと、子どもの気持ちをそのまま受け止めてあげること、子どもを信じてあげることです。
子どもが話しやすい空気をつくるためには、会話の運び方や内容にも気を配りたいものです。

いつも「どこ行くの?」「誰と行くの?」「宿題は? 勉強は?」といった見張りのスタンスで話すのではなく、「今日なんか元気ないね」「困ったら言ってね」という見守りのスタンスで話すことです。

親の役割はあくまで子どもの「サポート」であることを、くれぐれも忘れないことです。

  • 書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』発行:集英社クリエイティブ 発売:集英社

※本記事は書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』 をベースに構成しています。

文/杉野珠理、荒田智史