横顔を眺めながら ---爪 切男の助手席ドライブ漂流--- 第2話「反則な彼女」(日産エクストレイル ✕ 柚乃花)

久しぶりの再会を果たしたメガネっ娘の“彼女”は、すっかり大人になっていた。日産エクストレイルのハンドルを握る姿を横目で見ながら、いつしか思いはあらぬ方向へ。ダメ男的人生を作品に昇華した著作が話題の作家、爪 切男が描く、助手席からのちょっぴり切ないストーリー。

【画像】大人になった幼馴染

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 とにかくクルマと縁のない人生だった。

 その日暮らしの気ままな文無しフリーターにクルマを維持する余裕などあるわきゃない。されどクルマはなくとも高楊枝。アイアムペーパードライバー。身分証代わりのゴールド免許とちょっとのおカネ、心にゃでっかい野望と「なんとかなるさ」と根拠のない自信、あとはときどき可愛い女の子。これだけあれば人生は上々だ。そんな感じで私は今までうまくやってきた。アイアムプロフェッショナルペーパードライバー。

 私は何も間違っちゃいないはずだ……よな。車窓から見える夜景をぼんやり眺めていると、自分の行く末が俄かに不安になってくる。まあ明日になれば全部忘れてしまうのだけど。各駅電車に揺られて向かう先は、千葉にひとりで暮らす叔父の家。高校生ぐらいまでは、盆暮れ正月と毎年欠かさず顔を出していたのが、大人になってからはとんとご無沙汰となっていた。海と自由を愛し、海が見える田舎町で悠々自適な人生を歩んできた叔父、そんな叔父が急に腰を悪くしたそうで、一泊二日の予定で東京から様子を見に行くことになったのだ。

 線路は続くよどこまでも、目的地である千葉県最西端の駅「浜金谷」に電車は到着。すっかり寝坊をしてしまい、お昼ぐらいに到着する予定だったのが現在の時刻は夜の10時、もう辺りは真っ暗。ガランとした駅の待合室にこの場に似つかわしくない可憐な女の子がひとり。こちらの姿を確認し、ぱあっと笑顔が弾けたのも束の間、その微笑みは親の仇に向けるかのような怒りの表情へと変わる。

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「もう、久しぶりに会えると思ったのに大遅刻! バ~カ!」

 かれこれ十五年振りの再会になるが、お互いの顔を見るだけで、空白の時間は一瞬にして埋まってゆく。それが幼馴染ってやつだ。この子は叔父の家の近くに住んでいた女の子、いわゆるお隣さんである。歳が近かったのと、私も彼女も一人っ子だったこともあり、まるで兄妹のように仲良く遊んでいた。

 だが、久しぶりに会った彼女は妹ではなく、立派なオトナの女性に変貌を遂げていた。

「この辺もすっかり変わったからさ、道がわかんないかもって思ってわざわざ迎えにきたのに! ま、いいや、一緒に帰ろ♪」

  彼女のクルマに乗り込み、叔父の待つ家へと一緒に帰る。ちょっと窮屈そうにシートベルトを締める彼女が「一泊していくんだよね?」と聞く。

 一泊というキーワードだけでよからぬ妄想がとめどなく溢れ出てきてしまう。子供のころの面影を残したままファンキーグラマラスな体つきに育ちやがって。反則だ。こちとら長旅で疲れてるんだよと居眠りをするフリをして気持ちを落ち着かせるしかない私だった。

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「ふわ~~~~~」

 翌日、彼女のクルマの助手席にスタンバイして、私は大きなあくびをひとつ、ふたつ、みっつ。結局昨夜は一睡もできなかった。理由は推して知るべし。幸いなことに、叔父の腰の具合はそこまでひどくはないらしく、「ワシはいいから、久しぶりに二人で遊んでこい」という叔父の提案に素直に従うことにしたわけなのだ。「お客さん、どちらまで?」とタクシードライバーの真似事をする彼女。「ウザい」を「かわいい」に変える天真爛漫で人懐っこい性格も昔とまったく変わっていない。私は苦笑しながら「運転手さんのお任せで」とリクエスト。

 彼女の愛車は日産エクストレイル。まだ幼さが残る彼女のイメージにはちょっと似つかわしくない大きなボディ。だがそれとは裏腹にコーナリングはとても滑らかだ。なんでも電気モーターを使っているかららしい。クルマ音痴の私には詳しいことはわからないが、乗り心地は上々だ。

 彼女に連れてこられたのは、廃校となった小学校を改装して作られた道の駅。その名も「保田小学校」だ。土産物屋も充実しているが、二宮金次郎の銅像に、学校給食を模したメニューが食べられる食堂にと、ノスタルジーとエンタメが融合した一種のテーマパークのようだ。

「じゃじゃ~ん、どう? 懐かしいっしょ? 泣けるっしょ?」

 おもむろに彼女は黒ぶちメガネをかける。ああ、そうだ。小学校のときに「お前アラレちゃんみたいなメガネしてんな」ってよくからかったっけな。あのアラレちゃんが今ではあげぱんを食べる仕草ですら艶のある大人の女になってしまった。子供のころは何も考えずに走り回っていた学校の廊下を、胸をドキドキさせながら幼馴染と一緒に歩く。「廊下を走るな!」と学校の先生にはよく怒られたもんだが、この胸に芽生えつつある確かな恋心はもう誰にも止められない。

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 空腹を満たした私たちは海へと向かう。浜金谷に遊びに来るたびに、叔父さんの車に乗って一緒に見に来た青い海。長い時を経て、妹分の運転するクルマに乗って思い出の海を見に来ることになるなんて。助手席専門の私だけが、ガキンチョのまま時が止まっているようで少々情けなくなる。

 海岸の突堤の先に車を停め、聴こえてくる波音、窓から差し込む太陽の光、鼻をくすぐる潮の匂いを楽しむ。クルマの中から眺める海ってのもいいもんだ。ちょっとしたホームシアター感覚だ。

「ねぇ?」

 郷愁に浸りボンヤリしている私を彼女が呼ぶ。「うん?」と目をやると、そこにはなぜか水着に着替えた彼女がいた。いったいいつの間に? これはアレか、また私の妄想が暴走しているに違いない。しかし、なんと生命力と野性味に溢れたけしからん体つきだ。すべてを包み込む海のような雄大さを感じるボディ。「女は海~♪」とはまさにこのことだ。私は今、海に抱かれるより、お前に抱かれたい。そう、これが俺だけの海物語だ。

「ね、東京でダラダラしてるならこっちに住むのもアリじゃない?」

「ああ……いいかもね。あと二、三年ぐらい頑張ってダメならそうしようかな」

「今まで頑張ってない人がこれから先、何を頑張るの?」

 少し期待をもたせる言い方をしたつもりだったのに、彼女はがっかりとした顔で「残念、時間切れだよ、帰りは歩きでどうぞ」と私をひとり突堤に残し走り去っていく。

 彼女が、親に決められたお見合いを受けると叔父から聞いたのは私が東京に帰ってからのことだった。

 人は誰にでも生まれたふるさとがある。ただ、それとはちょっと違う心の中のふるさとってやつを失ったような悲しみだ。さようなら、私のアラレちゃん、ああ、どこでもいいから無性に海が……海が見たい。誰か私を海へのドライブに連れていってはくれまいか。ただし、当方、助手席専門です。

(※)ストーリーはすべてフィクションです。

<今回の”彼女”=柚乃花 ヘアメイク=小笠原菜瑠 写真=ダン・アオキ 文=爪 切男>

■今回のデートカー

日産 エクストレイル

オーテック e-4ORCE アドバンスドパッケージ 532万9500円

世界初の可変圧縮比機構を実現したVCターボエンジンに、日産自慢のeパワーをドッキング。静かでパワフルな走りが自慢だ。e-4ORCEの高度な4輪制御で、滑りやすい道でも安心。

■柚乃花(ゆのか)

1997年、神奈川県生まれ。グラビアアイドル。趣味はアメリカンコメディ、ヘアメイク、アフタヌーンティー。特技は雨の予測。昭和と古着を愛するほか、休日は喫茶店と神社巡りをしている。身長160cm、B88、W61、H95。

”彼女”をもっと見たい方は、こちらをご覧ください。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CRXQSR7R

■爪 切男(つめ きりお)

作家。1979年香川県生まれ。

2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。同作はドラマ化もされ大きな話題を呼ぶ。現在集英社発のWebサイト『よみタイ』で、美容と健康に関するエッセイ『午前三時の化粧水』を連載中。