マネースクエアは12月22日、年末恒例の「大予想」を公開しました。今回は「2023年為替相場の回顧」を一部修正してお届けします。

「2023年為替相場の回顧」もご覧ください。


24年の最大のテーマは、「構造的円安 vs 循環的円高」と考えています。21-23年は「構造的円安」と「循環的円安」が重なったことで、大幅な円安が示現しました。

構造的要因とは、少子高齢化など日本経済の地盤沈下に伴う円安圧力です。「日本のGDPが23年にドイツに抜かれて世界4位になる見通し」との報道は象徴的です(米ドル建てのため、円安自体も一因ですが)。

循環的要因とは一般に景気サイクルなどを指しますが、21-23年に関しては主に金融政策の差に伴う円安圧力を指します。23年の循環的要因は、「日銀を除く主要中銀が利上げ、あるいは高金利を維持。日銀は金融緩和を継続」でした。24年は「日銀を除く主要中銀が利下げへ、日銀は金融緩和縮小へ」となるでしょう。23年終盤にすでにその兆候が見られましたが、24年はそれが一層鮮明になりそうです。そして、短期的には「構造要因<循環要因」と考えられ、円は対米ドルで、そしてその他の多くの通貨に対して上昇すると予想します。

以下では、主要国経済の状況を中心として、3つのシナリオを考察しました。

メインシナリオ: ソフトランディング(筆者の定性判断による生起確率55%)     

22年以降の利上げの累積効果がタイムラグを持って表面化し、世界経済の減速は避けられない。米国などは労働市場を中心に景気が比較的底堅く推移。日銀以外の主要中銀が春以降に複数回の利下げを実施、エネルギー価格の下落やインフレの鈍化もあり、長期かつ深いリセッション(景気後退)は回避される。ただ、1~2四半期のマイナス成長など浅いリセッションに陥る国や地域はあり、「ベリーソフト」なランディングもメインシナリオの一部となりそうです。

一方、日本経済も堅調とは言えないものの、過去数年の円安の恩恵もあって、緩やかな回復が続く。コアインフレが2%を上回る状況が1年以上続き、春闘での賃上げ状況を見極めた上で日銀は年前半にYCC(イールドカーブ・コントロール)を修正あるいは撤廃し、マイナス金利を解除します。ただし、主要中銀が利下げを進めるなかで、その後の日銀の利上げは限定的になります。

メインシナリオにおいては、ほぼ全面的に「円高」が示現します。また、主要中銀が利下げを進めるなかで、利下げの頻度や幅(に関する市場予想)が円以外の主要通貨の強弱を決定します。金融市場ではリスクオンのムードが高まり、資源・新興国通貨も比較的堅調に推移します。

サブシナリオ: クラッシュランディング(同上35%)                

英国やユーロ圏など23年中から景気停滞が続く国・地域もあるなか、22年以降の利上げの累積効果からリセッション(景気後退)に陥る国が増えます。インフレの鈍化ペースが遅れ、政策金利が高水準に維持される期間が長引けば、そのリスクはさらに高まるでしょう。メインシナリオとの最大の違いは、景気の強弱もさることながら、大幅な株価下落などにより、市場のリスクオフ(リスク回避姿勢)が強まることでしょう。

そうした状況下では、日銀もマイナス金利の解除まではできても、追加利上げでフォローアップすることは難しくなります。ただ、リスクオフは円高材料となります。株暴落などが起これば、一時的に急激な円高になるかもしれません。米ドルやユーロ、英ポンドなどの主要通貨も比較的堅調に推移する一方で、資源・新興国通貨は軟調になります。

サプライズシナリオ: ノーランディング(同上10%)               

米国を中心に世界景気は予想外の堅調さをみせます。停滞していたユーロ圏や英国の景気も底入れします。インフレ圧力は残存し、2%の物価目標への到達が危ぶまれます。主要中銀は高い政策金利を維持し、状況によっては休止していた利上げを再開します。

日銀もYCCの撤廃やマイナス金利の解除、追加利上げを進めます。当初は日銀の政策転換が円高要因となるものの、日銀と主要中銀の政策金利の差は拡大するため、過去3年に続いて「円安」が示現します。

2つのワイルドカード(潜在的波乱要因)                    

米大統領選挙の行方

予備選が1月15日のアイオワ州での共和党の党員集会(コーカス)からスタート。早ければ、3月5日のスーパーチューズデー(15州で決定)で両党の候補が決まりそうです。短期決戦はフロントランナー(先行者)に有利に働くため、サプライズは生じにくそう。そうであれば、バイデン氏対トランプ氏という4年前の再戦となりそうです。ただし、両者とも高齢であり、さらにトランプ氏は複数の裁判を抱えています。

11月5日の投票日は誰と誰の戦いになるのか、ましてやどちらの党の候補が勝利するのか、全く予断を許しません。民主党から無所属に鞍替えして立候補したケネディ氏の動向も不確実要因でしょう。議会選挙で上院・下院の勢力図がどう変わるかも大きなポイントです。選挙の結果によっては、16年のトランプ・ラリー(※)のように市場が反応することもありえます。

※16年大統領選挙では劣勢が予想されたトランプ氏がサプライズ当選。選挙結果を受けて株高・米ドル高(・金利高)のトランプ・ラリーが起きました。トランプ大統領の就任後は、関税引き上げなど対外強硬姿勢が打ち出されたことで、米ドルに下落圧力が加わりました。

24年の主な選挙は、米大統領の他、1月台湾総統、3月ロシア大統領、4月韓国国会、6月メキシコ大統領、6月欧州議会、9月自民党総裁や衆議院(未定)など。

地政学リスクの高まり

ロシア・ウクライナ戦争は24年2月24日を迎えれば、3年目に突入します。どのような形で決着するのか、それとも終わりが見えないのか、全く予断を許しません。米議会がウクライナ支援金を承認するのか。また、3月17日のロシア大統領選の結果が何らかの形で戦況に影響する可能性もあります。

その他、イスラエルとハマスの戦闘が広域に拡大しないか、そして原油価格に影響しないか。台湾総統選挙に絡んで台湾海峡で何か事態が起こらないか。地政学リスクの高まりには注意が必要かもしれません。