Eタイプより居住性がいい!? イギリスの公道で2000GTをテストドライブ

この記事は「「日出る国」のスポーツカー|イギリス人はトヨタ2000GTをどう評価したか?」の続きです。

【画像】イギリス人ジャーナリストが2000GTを試す(写真5点)

Eタイプより居住性がいい!

2000GTはドアが長めで、コンパクトなコクピットにもすんなりと乗り込める。この点は、ドアが短くて乗降性に難があったEタイプとは対照的だ。トヨタが2000GTを2+2としなかったのは慧眼で、このため、快適なシートにひとたび腰掛けてしまえば、5フィート8インチ(約173cm)の私でも、無理なくドライビングポジションがとれる。もっとも、あなたの身長が6フィート(183cm)以上だったら、やや窮屈な体勢となるだろう。

いかにもブリティッシュ・スポーツカー然としたインテリアと、先進的なエクステリア・デザインがマッチしていたかどうかは別にして、チェリーウッドのベニアをあしらったダッシュボードは、楽器を製造するヤマハ(訳註:かつての日本楽器製造で、ヤマハ発動機とは別会社。ヤマハ発動機は1955年に日本楽器製造から分離・独立した)の手で作られたというのは微笑ましいエピソードである。

しかも、同時期にイギリスやアメリカで作られたスポーツカーのダッシュボードが雑然としたデザインだったのに対し、2000GTは計器類が整然と並んでいて美しい。リムがウッド製となるステアリングのサイズも適切で、比較的に高い位置に設けられたハンドブレーキのレバーは、まるでライフルのような操作感が楽しめる。このインテリアはまさしくグランドツアラー用に美しく仕立てられたもので、走りに必要のないものを削ぎ落としたカフェレーサーとは似ても似つかない世界。そしてシート後方のリアデッキには完全な内装が施されており、ソフトなバッグなどを積むことができた。

それでは、このグランドツアラーにどれほどダイナミックな性能が備わっているのかを確認してみよう。排気量1988ccの6気筒エンジンはトヨタ・クラウンのサルーンに搭載されていたものがベースで、ヤマハがデザインしたツインカム・シリンダーヘッドにより武装。混合気はミクニ・ソレックスの40φキャブレターで供給され、燃焼後に美しい曲線を描くエグゾーストマニフォールドから排出される。イグニションキーをひねると、フューエルポンプが作動。キャブレターに「極上のジュース」を流し込む。ここでドライバーがスロットルペダルを適切に踏み込めば、6つのインレットマニフォールドがさらなる燃料を呑み込み、小さな6つのシリンダーにそれぞれ送り込んで燃焼を促進させる。クラッチは軽いけれどダイレクト感に富んでおり、シフトレバーは1速のポジションに小気味よく吸い込まれていく。決して潤沢とはいえない18.0kgmの最大トルクを5000rpmという高回転で生み出すにもかかわらず、2000GTの動き出しが鈍重でないのは、車重が1120kgと軽量なためだろう。いずれにせよ、エンジンが十分に暖機されていない状態で、あまり回転数を上げるのは憚られる。くわえて、ギアボックスもまだ準備が整っていないことを承知しておくべきだ。

往年の車両は、暖機が終わって各部が十分に温まると公差が適正となって、本来の性能を発揮し始める。また、現代の車両と異なり、おとなしく数マイルも走ればウォームアップが終了するのはありがたいところで、都市部の混雑した道を15分ほどドライブすると、齢56の2000GTは現代の車両にも劣らない運転のしやすさを示し始めた。市街地を走り抜けたころにはすべての温度が適正域に到達し、ストレート6の回転数を高める準備が整う。ギアをふたつシフトダウンすれば、空気とガソリンをたっぷり呑み込んだエンジンが美しい歌声を奏で始め、いわゆる「カムに乗った」状態となる。レヴリミットにあたる6600rpmを目指してレヴカウンターが上昇していくと、これにあわせて排気音のボリュームも次第に高まり、メカニカルなサラブレッドは激しく”いななき”ながら加速していった。

ラック&ピニオン式のステアリングを操るのは、大いなる喜びだ。操舵力は軽く、ダイレクトで、ロック・トゥ・ロックは2.7回転しかない。サーボアシストを備えたブレーキも強力で安心感が強い。強固なバックボーン・シャシーとスパンを大きくとったウィッシュボーン・サスペンションの組み合わせは、重心が低く、ロールセンターの高いコーナリング姿勢を実現するとともに、サスペンションストロークは十分で、ピッチやロールもうまく抑え込まれている。乗り心地はしなやかだが、イギリスの痛めつけられたB級ロードでさえコントロール性は良好。

坂の頂点を乗り越えたところで、道の先が急に向きを変えていることに気付いたときにも、瞬間的に荷重が抜けたサスペンションは滑らかに接地性を取り戻し、的確なヨーを生み出してノーズの向きをピタリとあわせてくれた。狭い車線でも狙いどおりにトレースできる2000GTのハンドリングは、よりパワフルながら重く大きなスポーツカーの鼻を明かすことだろう。この点は、現代の標準と比較しても、極めて高い能力の持ち主だと評価できる。

どんな急坂もものともしないパワフルな走りとまではいわないけれど、2000GTはよくコントロールされたマナーで丘陵地帯を駆け抜けていくことができる。試乗車のタイヤは"か細い"ミシュランXZXだが、強大なグリップを生み出すというよりも軽快なステップを踏む感じで、1トンあたり134bhpのパワーに必要なトラクションを紡ぎ出す。

レヴカウンターは、まるでドライバーの心をせき立てるかのように、細かく目盛りが刻み込まれている。5段ギアボックスは素早いシフトが可能だが、繊細な車両ゆえ、そのフィードバックは最小限に留まる。ギア比は1速が低めで、2速との間に大きなギャップがあるうえにシンクロの効きは弱め。ただしシフトストロークは短く、ゲートが正確で剛性感も良好だ。

以下は『Road& Track』誌が 1967年 2月に新車の2000GTをテストした際に記された内容だが、ドライバーが限界的な走りを試していたことは明らかで、当時は同様の反応を示す車両が少なくなかったはずだ。

混雑した道を走っているとき、スロットルペダルへの反応が薄くなったり、反対に急に飛び出すような素振りを見せるのも、エンジン回転数が低いときにキャブレターが示す典型的な症状といえる。6つのバタフライバルブが開くと、エレクトロラックスの掃除機を思わせる吸気音が響き渡るが、キャブレターの同調はもう少し詰めたほうがよさそうだ(編集部註:R&T誌の試乗は米国トヨタの展示用車両であったため、続報でキャブレター調整不良であったことが明らかにされた)。

トヨタ2000GTは1967年から70年までにわずか351台が世に送り出され、うち62台の左ハンドル車がアメリカに輸出された。私たちが試乗したMF10-10129のシャシーナンバーが刻まれたこの車両は、ボディカラーがオリジナルのペガサスホワイトで、インテリアはブラック。そして驚くべきことに、ソーラーレッドにペイントされたもう1台とともに、1968年にモザンビークに出荷された記録が残っている。これは現地でトヨタ・ディーラーを営んでいたサ氏が手配したもので、後年ポルトガルで発見され、イギリスのエセックスに持ち込まれた。走行距離はたったの4万3000kmにすぎず、穏やかな気候のもとで過ごしてきたこともあり、錆はほぼなく、その多くはオリジナルのコンディションを保っていた。

シャシーからボディを降ろすようなレストアは不要で、コンディションを保つための作業が実施されたのみ。エンジンは完全に組み直され、サスペンションやブレーキは新しい部品に交換されたが、オリジナルのインテリアが当時の美しさを失っていないことは奇跡といっていい。こうして仕上がった2000GTは、2020年のロンドンコンコースで「ベスト・イン・ショー」を勝ち取ることとなった。

2000GTは、日本が生み出した史上最高のスポーツカーと呼んでいいのだろうか?1967年にそのプリプロダクション・モデルをテストした『Road&Track』誌は、「我々が試乗したなかで、もっともエキサイティングで喜びに満ちた1台」と評した。シャシーナンバー10129をドライブする幸運に恵まれた私も、彼らに同意しないわけにはいかない。また、スタイリングが魅惑的なだけでなく、高度なエンジニアリングを用いてていねいに作り込まれた車両であることも実感できる。白紙から練り上げられたコンセプトは明快で、”寄せ集め”とは大きく異なるスポーツカーをトヨタは作り上げたのだ。そのゴールはシンプルで、「俊敏なGTカー」というもの。日出ずる国からやってきた100万ドルの価値を持つ希少なスポーツカーは、究極のドライビングプレジャーを私たちにもたらしてくれたのである。

1967年トヨタ2000GT

エンジン:1988cc、DOHC、直列 6気筒、ミクニ・ソレックス・キャブレター×3基

最高出力:150ps/ 6600rpm 最大トルク:18.0kgm/ 5000rpm 

ステアリング:ラック&ピニオン トランスミッション:5MT、後輪駆動

サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー

ブレーキ:ディスク、サーボアシスト 車重:1120kg

最高速度:230km/h、0-60mph 加速:8.5秒

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI

Words:Robert Coucher Photography:Paul Harmer

取材協力:オートフィチーナ(www.autofficina.co.uk