マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の長期金利について解説していただきます。


米国の長期金利は低下基調に

米国の長期金利は10月23日に一時5.00%を超えましたが、その後は低下基調が鮮明になっています。ここでいう長期金利とは一般に10年物国債の利回りを指します。長期金利は、コロナ禍の深刻化によって世界の株価が急落した2020年3月に0.31%と過去最低水準に低下しました(※)。その後、危機の後退によって長期金利はジリジリと上昇。22年春以降、インフレが高進すると、日銀を除く主要な中央銀行がインフレ対策としてアグレッシブな利上げを続け、長期金利は大きく上昇していました。

(※)世界の資金が安全資産を求めて米国の国債を購入したので、国債の価格が上昇。価格が上昇すると、利回りは低下します。

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    米国の長期金利

なお、日本の長期金利も23年は上昇が目立ったとはいえ、日本銀行が金融緩和の一環としてYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)を行っていることもあって、1%未満で推移しています。

長期金利の低下が意味すること

米国の長期金利はなぜ重要なのでしょうか。そして、それが低下することはどんな意味を持つのでしょうか。

まず、米国の長期金利は、住宅ローンの金利や、外国の国債を含む様々な債券の利回りに強い影響を与えるベンチマーク(指標)となっています。また、株価などの金融資産の価格を評価する際にも重要な役割を果たします。そして、米ドル/円をはじめとする為替レートの変動要因ともなっています。

上述したように、危機に際して安全資産を求めて米国債に資金が流入し、長期金利が低下するケースもあります。ただ、足もとでは、経済成長ペースやインフレ率の鈍化や、それらが鈍化するとの市場参加者の予想、近く利下げが実施されるとの予想などを反映している面が強いでしょう。そして、そのことは、ここ数年みられた米ドル高円安のトレンドがいったん終息する可能性を示しています。

長期金利はピークアウトしたか

果たして、米国の長期金利はピークアウトし、一段と低下に向かうのでしょうか。過去の長期金利と政策金利の関係から考察してみましょう。


2000年以降、利上げ打ち止めから利下げ開始に至る局面は3回ありました(図中のI、II、III)。足もとでもそうなる可能性があるので暫定的にIVの局面とします。

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    米政策金利と長期金利

4つの局面それぞれについて、長期金利のピークアウト、利上げの打ち止め、利上げ開始のタイミングを表にまとめました。

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    米長期金利のピークアウトと金融政策のタイミング

過去3回のうち2回の局面(I、III)では、長期金利は利上げ打ち止め前にピークアウトしました。(II)の局面でも、長期金利はダブルトップに近い形状をしており、仮に07年6月12日より06年6月28日の方が少しでも高かったなら、利上げ打ち止め直前に長期金利がピークアウトしたことになります(あくまで仮定ですが)。今回(IV)の局面で今年7月26日の利上げがサイクルの最終であったならば、それに3カ月遅れて長期金利がピークアウトしてもおかしくはなく、むしろ遅すぎるくらいかもしれません。

過去3回は、長期金利のピークが政策金利のピークとほぼ同じか、それを上回りました。今回、長期金利のピークが政策金利の水準を下回っているのはやや気がかりです(長期金利に上昇余地あり?)。ただ、コロナ発生以降、インフレ率(PCEコア前年比など)を下回っていた長期金利がインフレ率の鈍化により今年8月以降はそれ上回っているので(=実質金利がプラス)、長期金利は妥当な水準に達したと判断できるかもしれません。

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    米長期金利とインフレ率

過去のパターンに則れば、利下げ開始は24年5-6月か

過去3回は、長期金利のピークが利下げの開始に3カ月-11カ月先行しました(平均7.3カ月先行)。平均値を当てはめると、長期金利が今年10月にピークアウトしたとして、利下げ開始のタイミングは24年6月ごろになります。同様に、過去3回は利上げ打ち止めから利下げ開始まで7カ月-15カ月、平均10カ月でした。平均値を当てはめると、今年7月の利上げ打ち止め(暫定)から10カ月後の24年5月が利下げ開始のタイミングになります。それらは、現在の市場が織り込む金融政策のシナリオにほぼ沿っています。別の言い方をすれば、金融市場の予想通りに24年5-6月にFRBが利下げを開始するならば、長期金利がすでにピークアウトしたと考えて無理はないでしょう。

インフレが順調に鈍化するかが大きなカギを握る!?

過去3回の局面と今回が大きく異なっているのはインフレ動向。過去3回はインフレが相対的に落ち着いていたので、景況が悪化すれば利下げの判断は比較的容易だったかもしれません。今回はインフレが当局の期待するように順調に鈍化するのか。その辺りが早い利下げが可能になるかどうかの重要なカギを握りそうです。