消えた「鎌スタの夢」。ドラ1吉田輝星のトレードから浮かび上がる、球団の…

ファン感参加3日後のトレード

 ファン感謝デー「エフ フェス(F FES)」の翌日、驚天動地のトレードが発表になった。日ハム・吉田輝星―オリックス・黒木優太の1対1トレードだ。僕も寝耳に水だったが、もっと驚いたのはエスコンの「エフ フェス」に行って、ボアジャケット姿のクリスマスデート・コーデに拍手を送ったりしたファンだろう。僕もあわてて輝星関連の「エフ フェス」動画をチェックした。球団公式Xアカウントで香水をおススメしたりしている。「契約更改3日後の電撃トレード」と報じられているが、果たしてこの動画の時点で輝星はトレードを知っていたのか。それともイベント終了後に知らされたのか。すべて飲み込んでいたにしてはあまりにも屈託ない笑顔なのだ。両球団から正式にトレード成立のリリースが出て、火の球ストレート・吉田輝星は正式にオリックスの選手となった。

 

 僕がトレードの一報を受けて最初に思ったのは「あぁ、これで輝星―裕涼のバッテリーをエスコンで見ることはないんだなぁ」であった。2018年のドラ1、吉田輝星はプロ5年、1軍通算成績は64試合、3勝9敗5ホールド、防御率6.23だ。主戦場はイースタンリーグ、本拠地は鎌ケ谷スタジアムだった。そこでいちばんバッテリーを組んだのは田宮裕涼じゃないかと思う。いいときも悪いときも輝星には裕涼がついていた。今年はシーズン終盤、その田宮裕涼がブレークした。バッティングも肩も絶好調、好捕手の揃ったファイターズにあって「自分も忘れちゃ困る」とばかりに猛アピールした。僕は来季こそ輝星―裕涼のバッテリーがエスコンで見られると小躍りしたのだ。それは「鎌スタの夢」みたいなもんだった。

 

 入団5年目の「トレード放出」は高卒ドラ1史上最速なのだという。僕は「トレード放出」という言い方が好きじゃないので、そこに与(くみ)したくないが、3勝9敗5ホールドの投手はそういう報じられ方になってしまうのかと思う。輝星は昨シーズン(2022年)、51試合に登板して1軍の戦力になるきっかけを手にしていた。キャンプの藤川球児臨時コーチの指導でストレートが走るようになっていた。それが今季(2023年)たった3試合登板に終わる。いいときのピッチングを忘れてしまった。輝星はうなるストレートがなければ並の投手なのだ。そうか、今年は大事だったんだなぁと今更のように考えてしまった。

 

 トレード発表を受けて輝星が発したのはまるで謝罪コメントだった。「ドラフト1位でファイターズに獲得してもらって、5年間優勝に貢献するような活躍ができず申し訳ないですし、すごく悔しいです」。「ですし」口調が気になるが、球団広報を通したコメントは全員「ですし」になるので、そこは気にしなくてよい。輝星は色んなものを背負ってたんだなぁと感じた。「ドラフト1位」も「甲子園のスター」も、プロ入りしてからは相当な重荷になっていたに違いない。僕もコラムで「新球場のエースに」と書いて、先発という重荷・縛りを与えていた一人かもしれない。ショートイニングをやらせた方が「1軍の戦力」としてはずっと近道だったのに。

「親心」報道に複雑な思い

 それにしても5年でトレードとは判断が早すぎると思う。新庄剛志監督の「3連覇してるチームで、山本(由伸)君と山崎(福也)君が抜けるポジションをね、彼がオリックスに行ってつかんでもらえたらすごくチャンスですし、球団が変わることで全然化けてくる選手はすごく多いので。マイナスは考えずプラスと考えてもらって」というコメントは、またも「ですし」口調が気になるが、そこはいいのだ。字句通りにチームが変わって気分一新、ポジティブに頑張ってほしいと受け取るのは可能だけど、率直な問いとして、なぜファイターズでは「全然化けてくる選手」になれないのか? 上沢だって抜けそうなのに、ファイターズで「すごくチャンス」がないのか?、が生じてしまう。

 

 電撃トレードを報じる各社のトーンは「投手育成に定評のあるオリックスにドラ1、輝星を託す親心」だ。あー、「親心」かと複雑な思いになる。日頃、チームと接している各社の番記者さんは「親心」と表現したのだ。それは言い方を変えるとこういうことになる。甲子園の星、吉田輝星はファイターズでは育成できないという見立てだ。育成できなかったから「育成に定評のあるオリックスに出した」、という認識だ。

 

 ファイターズはずっと「スカウティングと育成」を看板にしてきたが、それが看板倒れになってしまった。これで来季以降、輝星が例えば山﨑颯一郎、宇田川優希のように1イニングをビシッと締めるセットアッパーとして名を成したとき(由伸が出て、2人のどちらかが先発転向ってこともあり得るだろう)、「親心ですし」で目を細めていられるのかという話だ。

 

 まぁ、僕はファイターズの(これまでの)トレードにはあまり異論を言って来なかったつもりだ。大原則として「見切る/見切られる」みたいなネガティブな事柄ではないし、新庄コメントのような移籍のプラス面を考えた、両球団ウインウインの関係が望ましいと思う。だけど、輝星にはファンの思い入れがある。それを切断したのだと球団は知るべきだ。「鎌スタの夢」が消えた。そしてもっと大きな問題、「ファイターズの育成は機能不全に陥っているのではないか?」は検討してもらいたい。実際問題、選手の供給は止まっているのだ。これは「吉田輝星ショック」として宿題にすべきところだ。

 

 例えばの話、今年のドラ1、細野晴希(東洋大)は1試合投げて四死球8つくらい出す制球難のピッチャーだ。その代わり、積んでるエンジンはものすごい。150キロ台の剛速球、しかも荒れ球をガンガン投じてくる。魅力ある素材だが、大成させるには投手部門の育成が不可欠だと思う。「吉田輝星ショック」はそこに暗雲を投げかける。大丈夫なのかなぁ。ホント頼みますよ。

 

追記 トレードでやってくる黒木優太投手のことに触れる紙幅がなかった。どうもすいません。実績もあり、復調すればもちろん戦力になってくれる選手だと信じている、偶然だが、僕は2012年夏の神奈川大会、保土ケ谷球場で橘学苑の黒木優太投手を見ている。3回戦、東海大相模に敗れはしたが、ストレートの伸びに目を見張ったのだった。これは縁があったのかなぁと思う。活躍を大期待している。