スーパースポーツの新たな扉を開けるマクラーレン750S|速さと快適さを両立させた凄いマシンだった!

マクラーレン最新のスーパーカーシリーズ「750S」クーペ/スパイダーをポルトガルのエストリルサーキットをベースにサーキットと郊外で試乗する機会をいただいた。それは緊張感を抱くほどの速さと快適さを併せ持つマクラーレンのスーパースポーツの世界の扉を、さらにもうひとつ奥の扉を開けてしまったような体験となった。

【画像】緊張感を抱くほど速いのに、快適さを併せ持つマクラーレンのスーパースポーツ、750Sに試乗(写真19点)

最大パワー720PSを発揮する720Sの後継モデルとなる750Sはその名の通り750PSに引き上げられた。どこまでも軽量にこだわるマクラーレンはDIN重量でマイナス30kg=1389kg(クーペ)とより軽く、一方でパワーアップもスピードアップもこの750Sで果たしサーキットの走行性能を引き上げただけでなく、その対極にあるようなオンロード(一般道)の快適性能まで向上させてしまっている。

4リッターV8ツインターボエンジンと7ATの組み合わせは720Sと変わらぬものの、パワー/トルクは30ps/30Nmアップの750ps/7500rpm、800Nm/5500rpm。0-100km/h はクーペ/スパイダー共に0.1秒速くなり2.8秒。0-200km/hは7.2秒(スパイダーは7.3秒)、最高速は332km/h。タイヤは標準のピレリP-ZEROのほか、オプションでP-ZEROコルサとトロフェオRのそれぞれが750S専用に開発されている。720Sにも採用されていたPCC(プロアクティブ・シャシー・コントロール)は第二世代から第三世代のPCCIIIに進化。

サスペンションのパフォーマンスを一層引き上げる性能アップをハード/ソフトウエアの両面で行い、サーキット走行の性能を大幅に引き上げているという。

エクステリアデザインはフォルム自体は720Sと似ているが、前述の性能(スペック)向上のためにダウンフォース量を上げ、空力をバランスさせ、エンジンやブレーキのクーリング性能も上げるべく様々な部位が見直されている。特にリアの変更点が視覚的にわかりやすい。エグゾーストパイプは二本からセンターからの一本出しになり、そのデザインと配置により表面積が20%拡大したアクティブ・リアウイングの位置は60mm高くなった。エンジン上のデッキやそれを覆うメッシュ、バンパーなども新デザインに変更され、これらはそれぞれ、または相乗効果として空力や冷却性能の向上に繋がっている。これに付随してフロント部ではアクティブ・リアウイングと空力のバランスを取るためにフロントのスプリッターを拡大。LEDヘッドライトとエアインテークが一体化したユニークな”目”「アイソケット」はフードに覆われる格好になり、フェンダーの奥に内蔵されたような印象が強まり750Sの表情をますます個性的に創り上げているようだった。”機能がカタチを決める”というマクラーレンのパーツ、フォルムは一層、性能向上のため研ぎ澄まされたと言えるだろう。

750SスパイダーでV8サウンドを楽しむ

マクラーレンではお馴染みのディヘドラルドアを開け、車内へと乗り込む。インテリアはドライバーの操作性がますます洗練されている。電動化とデジタル化の進む室内でステアリング調整が電動になり、ステアリングコラムとインストルメントディスプレイが連動して動くようになった。さらにこれまでセンターパネル脇に配置されていたドライブモードのスイッチをディスプレイの両脇(左にハンドリング/右にパワートレイン)に装着。ディスプレイの視認性、操作系の集約による操作性はステアリング裏のパドルも含め、私の手のサイズでも直観的に操作できる。センターパネルの脇には”AERO”、”LAUNCH”ボタンとマクラーレンのエンブレム(ブルースマクラーレンの故郷、ニュージーランドの国鳥に由来し”Speed Kiwi”と呼ばれているらしい)があり、これはドライブモードのカスタマイズをメモリーしておくことができる。日常使いもしたくなるほどの快適性を保つ750Sはモニターの高精彩さも特徴。リアビュー&サラウンドビューカメラによって映し出される画像の見やすさ、それに段差のある駐車場などで便利なフロントノーズアップ機能もわずか4秒で上昇させることができるようになった。Apple CarPlay USB-C USB-Aも標準装備される。

テストドライブはまず郊外を750Sスパイダーで走った。クーペと同様、スパイダーもカーボンファイバー製モノコックを採用することで車体強度は高く、ロールオーバー保護や専用のリア部分の構造パーツを装着する以外、追加の補強材は一切不要だという。

試乗モデルのスパイダーにはシートスライド/リフター/リクライニングを電動で行えるアルカンターラ&ナッパレザーを採用するシートが装着されていた。ちなみに750Sのシートは3タイプから選べるが、すべてカーボンファイバー製シェルを採用するレーシングタイプだ。タイヤは標準タイプが装着されていた。

シートポジションと前述のメーター類が一体となったステアリングを調整し2つのドライブモードを先ずは共に”コンフォート”にセットし、750Sとのファーストドライブのドライブ環境は整った。相変わらずの”スーパ-”級の視界の良さに試乗への期待が高まる。走り出しから実にスムースで滑らかだ。750Sのプレゼンテーションではサーキット走行性能の向上が第一印象にあったけれど、いやいや、滑らかでフラットな乗り心地、走行フィールやステアリング操舵フィールは720Sより洗練されている。

サーキットを主軸に置いたモデルと聞くと生々しい挙動をイメージするが、720Sでも「これならロングドライブも愉しめる」と思っていたドライブフィールは750Sになりより一層、ドライビングに必要な情報系の感覚以外はそぎ落とされていると言えば良いだろうか。最大で750ps/800Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンはごく僅かなアクセル操作に極めて誠実な加速を行ってくれるし、再加速を強く速く、またはジワジワと行う場合もまるでNAエンジンのようなリニアさでドライバーのイメージ通りの加速を行える。

50km/h以下で11秒で開閉が行えるリトラクタブル・ハードトップを開ければ、今回、より音響チューニングが施されたエグゾーストサウンドを楽しむことができる。一方でずっとV8サウンドを主張されるかと言えば高いギヤでクルーズドライブをしていると振動もボリュームも抑えられ、脇役に転じるようだった。これならますますロングドライブで音疲れもしないだろう。こだわりはエンジンマウントのチューニングによる低周波サウンドにあるようだ。専門用語で「エンジン回転の2次と6次の音を減らし、4次の音が主成分になるようにし、8次の音も際立たせることに成功し、高回転域ではより大きなクレッシェンドを楽しめます」と説明がある。私には理解が難しいが詳しい方にはこの意味、おわかりになるだろうか。とにかく、ハリのある低音系で少しハスキーなV8サウンドがドライバー自身のドライビングモードによって様々なボリュームでドライビングに一体感を与えてくれるのは間違いない。

サーキットで750Sクーペの挙動を体感

クーペもスパイダーと同様、19インチのP-ZEROが装着されていた。クーペはスパイダーより50kg軽い1389kg(DIN重量)以外にスパイダーとの違いはないが、細かいことを言えば、クーペのシートはアルカンターラ張りのシートスライド(手動)調整のみという、より軽いスポーツシートだったことくらいだろうか。走り始めからクーペの方が厳密に言えばやはり軽々と走る感覚がある。足運びのフラットさに加え乗り味にはサラリとした印象を抱いた。

サーキット走行はクーペで行われた。装着タイヤはP-ZEROトロフェオR、シートはレーシングシートが装備されていた。実はこのシート、手動スライド調整のみが可能で、身長162センチの私にとっては高さとリクライニング角度がかなり不足していたのだ。するとメカニックがシートの穴の位置を調整し私の理想のポジションを叶えるクーペを用意してくれたのだった。グラスルーツ系のレーシングカーをレンタルするとしても、バスマットで補正するくらい。マクラーレンのプロフェッショナリズムを感じずにはいられない。

試乗会でヘルメットにハンスまで装着して試乗したのは初めてだった。助手席にはインストラクターが同乗するのがマクラーレンのルールでもあった。

1389kgの車体に4リッターV8ツインターボ=750ps/800Nmである。初めはドライブモードをハンドリングもパワートレインも”SPORT”で走行した。コースを予習してきたつもりだったけれど足りなかった。インストラクターに各コーナーのギヤを聞きながら、加速と減速、そしてコーナリングを繰り返す。加速の瞬発力は圧倒的だ。しかしコーナーの立ち上がりで緩やかにアクセルを踏み込んでいけばオーディオのボリュームを少しずつ上げていくように意のままだ。一方でコーナリング中にロールを感じない、何も起こる気がしない。

やがてインストラクターがメインストレートなど長い加速が可能なセクションではもっとギリギリまで加速して一気にブレーキングをしてみろ、と言う。簡単に250km/hを超える750S。止まれない恐怖を知る大人はホームストレートでの750Sの加速性能ですら若干の恐怖を覚えたほどだ。ちなみに750Sの200km/hからの完全停止距離(スペック)はわずか113m。すると「あらっ?」。躊躇しながらブレーキングを行うよりもはるかに簡単に減速するではないか。このとき、新たな扉を開いた(知った)気がしたのだ。750Sのブレーキ性能は足下だけではない。実は少し前を走る車両がブレーキングを行った際、リヤウイングがバンッと立ち上がったのを見た。それはまるでパラシュートが開くような一瞬のシーンだった。このアクティブ・リアウイングは0.5秒以下でフル展開をし、リアのダウンフォースを増やして制動時の安定性を高め、制動距離を縮める役割を果たす。まさに自分の車でもそれが起こっていることが想像でき、750Sの速さと同じくらい制動性能の高さを体感することができた。

後半の試乗ではドライブモードを”TRACK”にセットし、先ほどよりもアグレッシブな走行を可能な限り試みたつもりだったが、それでも何かが起こる”兆し”すら感じることはなかった。パドル操作で行うシフトアップ/ダウンのリニアさ、アクセルレスポンスのダイレクトさ、それに高精度のブレーキ性能を果たしてどれくらい試せていたのだろう。コーナリングではレーシングカートのようなダイレクトさを感じつつ、コーナリング中のステアリングフィールも乗り心地もタイヤのグリップ感もよりシットリ、ギュギュッと路面を捉えて吸い付くようだった。ずっとずっと前にグループAのNSXを試乗したことがあったけれど、そう言えば、想像に反して乗り心地が良かったことを思い出した。750Sは凄いマシン、あえてロードカーと表現しておこう。

サーキット走行を中心に考えるならクーペにレーシングシートやアップグレードパーツを装着する手もある。一方、オンロード(公道)を中心にこのマシンを選ぶなら750Sのパフォーマンスやクルージングをオープンエアで味わえるスパイダーもおすすめだと思う。緊張感を抱くほどの速さを持ちながら、マクラーレンの開発思想やテクノロジーでしか味わえないであろう快適さも併せ持つスーパースポーツモデルは、乗り手、乗り方によっていくつもの扉の用意があるようだ。

文:飯田裕子 写真:マクラーレン

Words: Yuko IIDA Photography: McLaren