11日(21:00~)に放送されるフジテレビ系『世にも奇妙な物語 ’23秋の特別編』。1990年から続くオムニバスドラマの長寿人気シリーズで、タモリが物語の案内役となり、ホラーやコメディ、SFなど、ジャンルにとらわれない”奇妙な物語”の数々を生み出してきた。

今回は、『永遠のふたり』(草なぎ剛主演)、『地獄で冤罪』(北村一輝)、『トランジスタ技術の圧縮』(溝端淳平)、『走馬灯のセトリは考えておいて』(西野七瀬)という“選択を迫られる主人公”をテーマにした4編が放送される。中でも注目なのは、11年ぶりの『世にも』出演となる草なぎの『永遠のふたり』だ。

  • 『世にも奇妙な物語’23秋の特別編「永遠のふたり」』に主演する草なぎ剛 (C)フジテレビ

    『世にも奇妙な物語’23秋の特別編「永遠のふたり」』に主演する草なぎ剛 (C)フジテレビ

■“立てこもり”から“世界を一変”の流れを役者力で突破

研究所の助手である主人公(草なぎ)は、教授殺害の疑いをかけられたことでその秘書(大西礼芳)を人質に立てこもる。そこで、指揮をとる警部(江口洋介)との攻防戦が繰り広げられるのだが、いよいよ機動部隊が突入しようとしたその瞬間、主人公は自らが発明した“とある研究”の成果を発動させ、世界を一変させてしまう……という物語。

“役者・草なぎ剛”の魅力と言えば、誠実と狂気という相反する感情を同居させられることだろう。草なぎのドラマ初主演となった『いいひと。』(97年、カンテレ)ではタイトルの通り、彼のパブリックイメージと一致する誠実さを前面に押し出した造形が功を奏したのに対し、後の『任侠ヘルパー』(09年、フジテレビ)や、今年1月期に放送された『罠の戦争』(カンテレ)などの“復讐シリーズ”では、誠実な一面がありながらも、どこかに狂気がちらつくスリリングな一面も見せた。つまり、誠実と狂気、どちらに振り切ったとしても説得力を持たせられる稀有な俳優なのだ。

そんな誠実と狂気の同居は、今作でも存分に発揮されている。『世にも』は通常のドラマスペシャルと異なり、4編からなるオムニバス作品だ。そのため、約30分という時間の中で物語の発端となる“立てこもり”から、次の展開へといざなう“世界を一変”させるという目まぐるしい振り幅を、短い時間の中で違和感なく見せきらなければならない。

それを解決させているのが、草なぎの誠実と狂気が入り混じる不思議な魅力だ。ともすれば、あまりの展開の速さについていけないとなりかねない流れを、草なぎの役者力によって見事に突破させている。

  • 江口洋介(左)と草なぎ剛 (C)フジテレビ

■星護監督にしか作り出すことができない映像世界

今作で演出のみならず脚本も担当している星護監督とのカップリングも忘れてはならない。星監督と言えば、先述の初主演作『いいひと。』を皮切りに、『僕の生きる道』(03年、カンテレ)、『僕の歩く道』(06年、同)、映画『僕と妻の1778の物語』(11年)と、通称“僕シリーズ”と言われる草なぎの代表作を送り出してきた。

『世にも奇妙な物語』の連ドラ第1作から携わり、これまで30本以上の作品を手がけてきた“『世にも』の礎”ともいえる星監督の特徴は、ファンタジックな映像世界を構築させながら、どこかに温かみのあるリアリティを持たせ、一見明るくポップな印象を与えつつ、人間の重苦しい部分をさりげなく表出させる演出にある。

今作では、“世界を一変”させる部分にその演出力が大いに発揮されており、美しいVFXを多用して荒唐無稽ではなく、どこかもの悲しさが漂う現実感も持たせている。またアナログな演出技法を用いることで温かみもあり、ファンタジックな空間と設定の中で独特の人間ドラマを繰り広げる、星監督にしか作り出すことができない映像世界が構築されている。

ネタバレになってしまうため多くを語れない今作だが、実は『永遠のふたり』というタイトルに気の利いた仕掛けが隠されている。冒頭すぐにその意味を知ることになるのだが、ラストでもう一つその意味が浮かび上がってくるという仕組みだ。それを頭の片隅にいれながら見ていくのも楽しいだろう。

  • (C)フジテレビ

■“らしさ”と最新のVFXが融合

もちろん、他の3編も『世にも』でしか描けない個性的な作品ばかり。『地獄で冤罪』は、おどろおどろしいタイトルから超展開なフィクションになるのかと思いきや、 突如リアリティが襲いかかってくる、怖ろしくも興味深い意欲作。『トランジスタ技術の圧縮』は、実在する『トランジスタ技術』という専門誌の“圧縮”をめぐる珍競技合戦を描くのだが、そのバカバカしさの先にある熱量によってなぜか胸を打たれる佳作。『走馬灯のセトリは考えておいて』は、実在のバーチャルアイドルが出演するという異色作で、その設定とは裏腹に、ハートウォーミングな人間ドラマに仕上がっている。

今回の『秋の特別編』全体を見て感じたのは、VFXの進化だ。かつては表現できなかったであろう奇妙な映像世界が、現在のVFX技術によってより違和感なく実現できる時がきたと実感した。

とはいえ、洗練されたものばかりではなく、あえてチープな部分も残すのも『世にも』のアイデンティティで、その“らしさ”と最新のVFXをうまく融合させたのが今作の特徴になっている。今後の『世にも』への期待も抱きたくなる4作がそろっている。

  • 『地獄で冤罪』 (C)フジテレビ

  • 『トランジスタ技術の圧縮』 (C)フジテレビ

  • 『走馬灯のセトリは考えておいて』 (C)フジテレビ