NTT東日本 東京武蔵野支店の協力のもと、東京・調布市に所在するドルトン東京学園で6月から行われている、再生可能エネルギーに関する体験学習の取り組み。9月4日に、4回目となる特別授業が行われた。

NTT東日本とドルトン東京学園は、2022年10月にICTを活用した「探究的な学習」の機会創出と、地域の価値創造を目指して連携した取り組みで連携協定を締結している。

本授業はこれに関連した取り組みの一環で、同学園の中等部の1年生を対象に、2023年6月からこれまでに3回にわたって授業を行われているのだ。

いずれの授業にも、京都大学 農学研究科農業システム工学分野の助教 博士(農学)大土井克明氏が協力。

1回目の授業では「メタン発酵技術」に関する講義、2回目は学園の向かいに立地するNTT中央研修センタのNTTe-CityLabo内に設置されている「超小型バイオガスプラント」の見学、3回目は家庭科の調理実習で廃棄された生ごみを原料にしたメタン発酵装置の自作・実験が行われている。

  • ドルトン東京学園中等部の1年生を対象にして行われている「再生可能エネルギーに関する体験学習」、3回目の授業も京都大学 農学研究科農業システム工学分野の助教 博士(農学)大土井克明氏が協力

中学生たちがメタンガス作成の実験を4回にわたり実施

4回目となる今回は、前回生徒たち自らの手で作成した、ペットボトルによるメタン発酵装置から2ケ月かけて生成されたメタンガスを実際に燃焼させる実験。メタンガスを集めたアルミパックに真空ポンプとノズルをつないで排出させてライターで着火した。

  • 燃焼実験で使用する機器の説明

  • 燃焼実験の手順

  • 7月3日の授業で自作したペットボトルのメタン発酵装置には、2ケ月かけて発生したメタンガスがアルミパック内に集められている

  • コックを開いてチューブの先のノズルにライターの火を近づけると着火し、ガスが発生していることを確認できた

ペットボトルには、メタン発酵により液体肥料(メタン発酵消化液)が生成されている。実験後は、プランターに小松菜の種を撒き、液体肥料を散布。3週間後に、小松菜の生育状況を比較、観察する実習が行われる予定だ。

  • ペットボトルに生成された液体肥料(メタン発酵消化液)

  • プランターに小松菜の種を撒いた上から液体肥料を散布

  • メタン発酵消化液の臭いがどうしても気になる様子の生徒たち

  • 3週間後は小松菜の生育状況の比較・観察を実施、参考用に別の場所で実験した1週間後の様子が紹介された

自分でりサイクル体験できて楽しい

授業終了後、今回の体験学習について2人の生徒に感想を訊ねた。

ドルトン学園中等部1年生・永山智己くんは、「もっとも印象に残ったのは、NTTe-CityLabo内の『超小型バイオガスプラント』を見学したことです。ただ、講義やプラントを見ただけではメタン発酵についてはあまりわかりませんでした。でも、こうして、ペットボトルを使って自分で実際に実験をやってみることで理解することができました。プラントを見学するだけでなく、"循環"のひと通りのサイクルを目で見て、自分で体験できたことでイメージがしっかりとわきました」と語ってくれた。

ドルトン学園中等部1年生・天野凱斗くんも「1回目から3回目までの間は、正直難しくて僕もあんまり理解できませんでした。3回目のペットボトルと残渣を使った発酵実験も何のためにやっているかとかも全然わからず、でもまずやってみようと思って実験したところ、今回こうして実際に肥料となり、それを小松菜に与えて育てるところまで自分が体験し、"循環"のシステムを自分の目で見てようやく理解できました。今日のところまでであんなにもガスが溜まったことにも驚きつつも、今までリサイクルとかもやった経験がなかったので、形になって確かめられるのが楽しかったです」と話す。

また、「家庭菜園でも肥料を使ったことがありますが、そもそもそれがどこから来ているのかを知らず、ただ買って使っているだけでした。今回、汚泥を使った肥料を使って、それで育った作物は汚くないのかが気になり、大土井先生に質問したところ、成長に必要な成分だけを吸うという説明に納得できました。ただ、吸わなかった分はどこにいくのかが逆に気になりました。今回は小松菜の種を撒きましたが、それ以外の野菜や花など他の植物でも育つのかも知りたくなりました」と永山くん。

「たくさんの生ゴミが結構捨てられてしまっている状況ですが、生ゴミだったものが最終的に肥料になって、こういうふうに循環できるんだったら積極的に活用したいと思います。たくさんの種類の異なる食べ物をミックスしたら、違う食べ物に変わったというのも面白かったです。肥料を土に撒いて育てた小松菜は汚くならないということを知って、土に対する疑問や、これから知りたいと思うことが増えるきっかけにもなりました」と天野くん。

  • 授業後に感想を話してくれた、ドルトン東京学園中等部1年生の永山智己くん(右)と天野凱斗くん

素直に感想を言う生徒たちが新鮮だった

最後に、これまでの体験学習授業を振り返って、大土井氏と、ドルトン東京学園 理科主任教諭の和田達典氏にも感想を語ってもらった。

―生徒さんの反応で印象的だったことは?

和田氏: 印象的だったのは、プラント見学や大土井先生の講義が終わった後に生徒に質問をすると、難しい話なのにしっかり聞いていて、自分のことに置き換えてちゃんと考えているんだなと感じました。

プラントで出たガスで発電しているという説明をした時に、『エネルギー効率がどれくらいなのか?』という鋭い質問をした生徒がいて、こちらも気づかされることもありました。生徒たちもふだんリサイクルやSDGsといった言葉は聞き慣れているのですが、何かからガスや電気を作ったりしてエコだねではなくて、それをやること自体でもっとエネルギーを消費することもあるわけで、そこまでちゃんと見通せて質問できていて鋭いなと感心しました。

もう1つは実験としては火をつけるとか何かを混ぜるだけという決して高度なことではないのですが、中学1年生だとそれだけでも感動できるんだなと。裏を返せば日常生活の中ではいろいろな経験が乏しくなっているのかもしれないですね。

大土井氏: 今回驚いたのが、ドルトン学園の生徒さんたちは先入観がないということです。メタン発酵消化液の臭いを嗅ぐと大学生だと既にイメージがあるので臭いと言う反応しかしないんですけど、「そんなに臭いがしない」という反応の子が結構いたのが印象的でした。先入観がないと、素直に感想を言えるっていうのが今回初めて思いましたね。

  • 京都大学 農学研究科農業システム工学分野の助教 博士(農学)大土井克明氏(右)と、ドルトン東京学園 理科主任教諭の和田達典氏

―こうした体験学習の意義をどのように感じられていますか?

大土井氏: 座学だけではなく実体験で学ぶのが大きな意義だと思います。でも、やっている本人としては結構ドキドキなんです(笑)。今回も火が付かなかったらどうしようかなとか、次は3週間後に枯れたらどうしようとか、生育に差がつかなかったらどうしようとか。こればっかりはやってみなければわからないんですけど。

ただ、たとえ実験が失敗したとしてもそのこと自体には意義があります。なぜ失敗したのかを追求したり、次はこういうふうに変えてみようというように探究していって結果にたどり着いたりすることもあるので、失敗が必ずしも悪いってわけではありません。がっかりはしますけどね(笑)。でも、そういうことでどんどんのめり込んでいって、理科が好きになってくれればいいかなと思いますね。

和田氏: 教科書に載っているような既習事項を確認するような実験を行うことも大切ですが、なんらかの現象について疑問をもったときに、仮説を立てて、その仮説を証明するような実験を自ら考えて行えるようになってほしいと思っています。今回の体験学習には生徒たちが疑問を持ち、そのような活動につながるきっかけとなるポイントがいくつもあり、意味のあるものだったと思います。