日本将棋連盟は2023年10月3日、『将棋世界2023年11月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)を発売した。

師弟が赤裸々に振り返る藤井-佐々木の十二番勝負

11月号の目玉記事は深浦康市九段×佐々木大地七段による王位戦第5局&十二番勝負 率直振り返り座談会。この夏、藤井聡太七冠と棋聖戦、王位戦と激闘を繰り広げた佐々木大地七段。佐々木七段の師匠で、藤井七冠に勝ち越すその実力から「地球代表」の異名を持つ深浦康市九段の二人が、王位戦第5局とWタイトル戦を振り返った。

圧倒的な終盤力を誇る藤井七冠だが、そもそも藤井七冠を相手に終盤勝負に持ち込むこと自体がすでに大変という、トップ棋士の見解には戦慄すら感じる。

(以下抜粋)
深浦 棋聖戦も王位戦も大地の戦い方は、局面を持久戦にして駒組み勝負に持ち込む骨格になっているような気がしたけど。
佐々木 はい。横歩取りになった王位戦第5局でもそうなんですけど、激しくこられても割と長く指せるような将棋を選んではいました。相手が知っていたら終わり、という将棋にはしたくなかったんで。でも、持久戦にはなったものの若干指しづらい展開が目立ってしまいました。
深浦 王位戦の第2局は先手番の相掛かりだったけど、不出来な内容だったね。
佐々木 封じ手の段階で既に苦しくしてしまったんですけど、全く同じ前例があるのを知らなかったのがヒドかったです。第2局は自分が掘り下げていた形とは微妙に違う展開になってしまい、類似局面で深く考えていた先攻策がうまくいくのかどうかがわからなくなって堂々巡りになりました。無難な形に進むのでは先手の主張がないように見えてしまって、大長考の末に▲4五銀という踏み込んだ手を決行したんですが疑問の一手で、積極性が空回りして大失敗に終わりました。
深浦 以前、ABEMAの師弟トーナメントに出場したとき、作戦会議では何度も「暴発だけはやめようね」って2人で言い合ったことがあったけど、この将棋はまさにそんな感じになっちゃったよね。この第2局以外は横歩取りでもじっくりした持久戦になって、大地らしい戦い方ができていただけに、もったいなかった。
佐々木 2つの番勝負を終えて思うのは、自分のレパートリーの少なさです。相手が直球勝負でくるのはわかっていて的は狭いのに、角換わりの▲6九玉への対応策がなさすぎて迷走してしまいました。
深浦 でも厳しいことを言うようだけど、時間はあったよね。棋聖戦の挑戦決定後、開幕局まで1ヵ月はあったんだから。
佐々木 繰り返しの言い訳になってしまいますけど、用意した作戦が日に日に潰れまくったのがとにかく痛かったです。
深浦 しかし時代が変わったよね。自分が羽生さんに挑戦していたときは、中盤の力でねじ伏せられるケースもあったんだけど一応、充実感はあったから。ここまでの大地の話で、持ち時間の使い方の問題も含め、藤井さんとの序中盤を乗り切るのがいかに大変かがよくわかった。率直に言って、藤井さんという存在は大地にとっても他の若手棋士にとっても、とてつもなく遠い存在なんだろうか。
佐々木 藤井さんの序中盤がいかに優れているかを力説しましたけど、実は自分がいちばん脅威に感じたのは藤井さんの終盤力なんで、さらに困ったもんです。序中盤を五分の分かれか、ちょっと耐えているぐらいで潜り抜けられたとしても、その先の終盤戦が難攻不落ですからね。
深浦 終盤に備えて時間を残しておくことがいかに重要かってことになるけれど、藤井さんにちょっとでも差をつけられると取り返しがつかなくなるという意識が常に働いているから、本当に難儀だね。
(住吉薫「王位戦第5局&十二番勝負 率直振り返り座談会」より)

若武者が満を持して大舞台に臨む 伊藤匠七段インタビュー

合計年齢最年少というトピックで注目を集めている第36期竜王戦の挑戦者・伊藤匠七段から話を聞いた。将棋に全精力を傾ける20歳は、同学年の七冠王に対し、どういう気持ちで挑むのか。シリーズ開幕前の前知識として入れておきたい情報だ。

(以下抜粋) 
――七番勝負では各地を転戦しますが、今回の舞台で特に行ってみたい場所などはありますか。
「最近は旅行をしていないので、どこも楽しみです。なるべく多く対局できればと思います。慣れないことはいろいろあるのでしょうが、旅先でも対局の前日に、しっかりと睡眠時間を取ることが大事だろうと考えています」
――どちらが封じるかはともかく、1日目の夜は寝られそうですか。
「目が冴えてしまう可能性が割と高そうですね。体調管理はいちばん大事なので、寝られるに越したことはないのですが」
――2日制8時間という舞台設定については、どのようにお考えですか。
「想像することができない世界ですが、やりがいも大きいと思うので、何とかよい内容の将棋を指せればと思います」
――兄弟子の本田奎六段は、既にタイトル戦の舞台を経験されていますが、そのことに関して話などはされましたか。
「本田さんからまだそういう話はあまり聞いていないのですが、これから伺おうかなと思っています」
――伊藤さんは四段昇段時に「3年以内にタイトル挑戦」を目標に挙げました。結果として有言実行になりましたが。
「まだまだ実力が伴っていない部分が大きいので、できすぎの結果ですね。3年前にそれを話したことは全然覚えていないのですが、そういった形になったのはよかったです」
――今回の七番勝負は、お二人が小学生時代から、大きな舞台で対戦していたこともあり、その点でも注目されています。伊藤さんご自身が小学生時代に、特に意識していた相手などはいたのでしょうか。
「どうなんですかね。藤井さんはやはり地域が離れていたので、そこまで意識していたということはなかったと思います。大会でも1度しか当たっていないはずです。三軒茶屋将棋倶楽部(宮田八段主宰の道場)に同世代が多く、そこで川島さん(川島滉生さん。22年学生名人。小学3年時に、伊藤2位、藤井3位の大会で優勝している)らと、切磋琢磨していました」
――藤井竜王の印象をお願いします。
「やはり、デビューから圧倒的な終盤力で、勝ち星を積み重ねてきて、タイトルを取られるようになってからは、中盤の難しい局面での指し手の正確性も上がっています。序盤の研究も深く、精度が高い。全くスキが見当たらないという印象です」
――そのような相手と、どのように戦いますか。
「藤井さんと戦うときに、相手の経験が少ない形を掘り下げて戦うというのは、有力な考え方だと思います。でも自分は、得策ではないかもしれませんが、これまでのスタイルをあまり変えずに、普通に戦おうかと思っています」
――今期の七番勝負で、ファンに見てもらいたい点はどのような部分でしょうか。
「藤井さんは現在七冠を持たれていて、そういう絶対王者に、同世代の自分がぶつかっていく構図です。自分の今後の人生において大きなシリーズになると思うので、同世代の対決でどういう戦いができるかということに、注目してもらいたいですね。将棋の内容でいうと、中盤から終盤にかけて、均衡のとれた熱戦を指せればと思います。圧倒的な実力の持ち主なので、対局時に八冠になっていてもおかしくはありませんが、自分は挑戦するだけの立場なので、その点は意識せずに、精度の高い将棋を指せればと思います」
(相崎修司「伊藤匠七段インタビュー・人生において大きなシリーズ」より)

数多くの棋戦で将棋界が最も盛り上がる秋。11月号はほかにも八冠挑戦記念読物「将棋界の一強時代」、第71期王座戦五番勝負第1局、第2局などのタイトル戦、井田明宏四段、中澤沙耶女流二段のインタビュー、早石田をテーマにした戦術特集など、充実の内容だ。

『将棋世界2023年11月号』
発売日:2023年10月3日
価格:870円(本体価格791円+税10%)
判型:A5判244ページ
発行:日本将棋連盟
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