フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、13日に放送された『生きる歌 ~三角公園の歌姫とわたし~ 前編』。大阪・西成の通称「三角公園」で、命の叫びを響かせるジャズシンガー・坂田佳子を追った作品だ。20日にはこの後編が放送される。
波乱万丈な生き方と魂の歌声で人々を魅了し、人生相談もされる彼女だが、なぜ多くの人たちを引き寄せるのか。取材した蜂谷時紀ディレクター(テレビマンユニオン)が「一緒にいて飽きないです」と、その魅力を語ってくれた――。
■相次ぐメディア出演に焦りも「全然違うものに」
今回の企画は、きゃりーぱみゅぱみゅが1年前に同番組でナレーションを担当した『彼女が旅に出る理由 ~すれ違う母と娘の行方~』(22年8月21日放送)で、わずかな時間の登場ながら強烈なインパクトを残した坂田の姿を見て、「今後は佳子さんを主役にした『ザ・ノンフィクション』を見たいなと思いました」と言ったことがきっかけで実現。その縁で、きゃりーは今回も語りを吹き込んでいる。
蜂谷Dが坂田に出会ったのは21年12月だったが、それから『街録ch』(22年7月・YouTube)、『アウト×デラックス』(同年12月・フジテレビ)、『ロケバナシGP』(23年1月・TBS)、『ハートフルワールド』(同年2月・CBC)、『アンタッチャブるTV』(同年5月・カンテレ)とメディア出演が相次いだため、「どんどん抜かれていく感じがありました」(蜂谷D、以下同)と焦りがあった。
そこで、今回の『ザ・ノンフィクション』で意識したのは、他の番組でよく映し出された三角公園で歌って暴れる姿だけでなく、素顔の坂田を見せること。そして、彼女のもとにやってくる人たちの物語を知った上で歌を聴かせることで、「全然違うものにできると思いました」と、より深掘りする作品になった。
前編では、坂田がSNSやメディアへの露出が増えるにつれ、歌手としてではなく“見せ物”になってしまった現実に葛藤する姿があったが、今回の取材に対して消極的になることはなかったのか。
「佳子さんは『ザ・ノンフィクション』のファンで、最初に取材するときからノリノリでした。僕は佳子さんのありのままを撮影しているだけで、何かをお願いすることもないので、“楽やな”と言っていただいて、取材者と取材対象者の距離を保ちつつ、受け入れてもらって本当に感謝しています」
■しつこく誘っていたファンが“No.1舎弟”に
なぜ、彼女は多くの人々を虜(とりこ)にするのか。長期間にわたり近くで接してきた印象を聞くと、「本当に裏表がなくて思ったことを全部言うし、ありのままで接してくれるから、みんな相談したくなるんだと思います」と分析。
さらに、「繊細ですごく気を使う人なんです。連絡は小まめにくれるし、時間も守るし、結構きちんとした人だということを周りは知っているから、お酒を飲んで手がつけられなくなっても、放っておけなくて助けてあげるんですよね」といい、「必ず何かが起こるから、一緒にいて飽きないです。すぐケンカするし、面倒くさいところもあるんですけど、本当に面白い人です」と、その魅力を語った。
そんな彼女の人間としての面白さを象徴するようなシーンが、前編にあった。酒を片手に「歌が聴きたい」としつこく絡んでくる男性に、ついに坂田が「お前帰れや!」とブチ切れて追い払ったのだが、歌い終えると、視線のずっと先にいた先ほどの男性のもとに駆け寄り、「出会ってくれてありがとう」とハグを交わしたのだ。
この行動について、蜂谷Dは「本当に急に抱き合って、もう感情の起伏がエグいので僕もびっくりしたんですけど(笑)、佳子さんは笑顔がめっちゃ好きなんです。すごく視野が広いんで、歌いながら公園の奥でさっきケンカした相手が、友達と何か食べながら笑っているのを見て、愛おしくなるんですよ。仲良くするためには本音で言い合うのが筋だと思っているようなところもあるんだと思います」と推察した。
今回の番組では紹介していないが、かつて坂田をしつこく誘っていたファンに、「来んな!」と強く当たっていたものの、排除することはなく、付き合い続けた結果、そのファンは仕事を辞めて西成に引っ越してきて、今や“No.1舎弟”になったそうだ。