現在、韓国映画『パラサイト』の舞台化作品に立ち、7月期はテレビ朝日系ドラマ『シッコウ!!~犬と私と執行官~』で主演を務める伊藤沙莉。この先も注目映画『ミステリと言う勿れ』(9月15日公開)、そしてNHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年前期)の主演も控える、人気実力ともに好調をキープし続ける貴重な存在である。

そんな伊藤が主演の異色作『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』が公開された。監督は『ミッドナイトスワン』の内田英治氏と、『岬の兄妹』『さがす』の片山慎三氏。「宇宙人が紛れ込んだ」という新宿歌舞伎町のゴールデン街を舞台に、バーを営みながら探偵の顔も持つマリコに伊藤、その恋人“忍者MASAYA”に竹野内豊を迎えて、6つのオリジナルストーリーを紡いでいく。

今回は、「面白い試みをしたいという意気込みを感じられること」「一緒に挑戦させてもらえること」がうれしかったと語る伊藤にインタビュー。また初共演で恋人役となった竹野内の印象や、5月に29歳を迎えた伊藤が、「課題は尽きない」と話す仕事に対しての思いから、「母性がダダ漏れ」だという私生活まで、現在の素直な心境を明かした。

  • 伊藤沙莉 撮影:望月ふみ

    伊藤沙莉 撮影:望月ふみ

■マリコは「譲りたくない役」になった

――ユニークな空気感の作品ですが、伊藤さんは最初にどう感じましたか?

内田さんと片山さんらしい作品だなと。台本を読んだときは、「どう撮るの?」と思いましたし、実際、挑戦も多い作品だったと思うのですが、このお二人の作品だと思ったら驚きもおさまりました。実際、お二人とも楽しんで撮っていたと思います。あとシンプルに、「面白いな」と思いました。構成も、1話1話で監督が切り替わるので、もっと連ドラのような作りになるのかなと思ったんですけど、それともまた違う、なかなか私は観てこなかった作風になっていて、面白い挑戦、試みだなと思いました。こうした面白い試みをしたいという意気込みを感じられること自体がうれしかったし、一緒に挑戦させてもらえることもうれしかったです。

――具体的に、どんな部分にお二人ならではの世界観、役どころを感じましたか?

特に内田さんは『獣道』(17)や、その前の『家族ごっこ』(15)もそうですけど、私が「飢えている様」みたいなところを描いてくださることが多いんです。愛に飢えているのか、何かが足りなくて何かを探している、そういう役をくださる。

普段の私を大きく分けると、ニコニコとした「元気のいい後輩」みたいな役が多いんです。でも内田さんの作品は、どの人もみんな何かを背負っていて、でもそういうのを表に出し過ぎない寂しさだったりが繊細に描かれている。そうした表現に挑戦できる作品を与えてくださることがとてもありがたいですし、『獣道』の愛衣と同様に、今回のマリコも、譲りたくない役になりました。

■観終わって「ああ……」となる割り切れない作品が好き

――さまざまなエピソードが出てきますが、特にお気に入りは?

全部好きなので困るんですけど、特に胸が痛くなってしまって気持ちをどこに持っていけばいいんだろうとなるのは、北村有起哉さんが演じた落ちぶれヤクザと、娘の話ですね。もちろん台本を読んで話は知っているのですが、映像を観たときに「うわ……」とかなり胸にきました。相当キツかったんですが、何がキツいのかもわからなくて。切なさとかどうしようもなさとか。

――すっきりしない感じもいいんでしょうね。

私、いい意味で胸クソ映画が好きなんです。いい意味で。「救った」「成功した」「イエーイ!」みたいな作品ももちろん好きですけど、終わってもモヤモヤして、「ああ……」となる作品をよく観ます。人間の割り切れなさのほうが好きだし、リアルだなと思うんです。

■カッコよすぎて直視できなかった竹野内豊

――竹野内豊さんとの共演はいかがでしたか?

なんて言えばいんだろう。お会いする前は、ワイルドなイメージだったんです。でも柔らかい方で、すごく優しくて。スルっとMASAYAとして接してくださっていました。初共演だったので、実際の竹野内さんのことは分からないですし、たくさんお話したわけではないんですが、とにかくMASAYAとして、そこにいらしたんですよね。言葉一つひとつにすごく真実味があった。私、お芝居をする際に、相手を信じることから生まれるものって、たくさんあると思っているんです。それが、竹野内さんには、「信じなきゃ」という第一過程が全く必要なかった。

――通常は、最初にマインドをそうした方向に意識して持っていくんですか?

常に意識してやっているわけではないんです。それに誰に対してというわけではなく、状況とか環境とかに対してのほうが多いです。ただ今回振り返ってみて、竹野内さんに対して改めて考えを巡らせてみると、竹野内さんって、そういう人だったなと思います。「忍者やってる人だな」と素直に思えました(笑)

――忍者やってましたね(笑)

そうなんです。現場にも忍者の先生がいらっしゃってたんですけど、竹野内さん、空き時間は日々、忍術を教わって鍛錬されてました。

――そうなんですか!?

その先生も決して甘い先生じゃなかったので、すごく厳しく教わってたんです。それにも全くへこたれず、真剣に「先生、この時の型はこれでいいですか?」みたいに、本当にずっとやっていて、なんてステキな役者さんなんだと思いました。

――恋人役としてはいかがでしたか? 年齢も離れていますが、すんなり入れました?

そこに関しては、なにせ竹野内豊さんなので、やはりかっこよくて、現場ではあまり直視できなかったです。あんまりカッコいいから、見ると目がおかしくなっちゃう。でも恋人役ということに関しては、マリコとMASAYAのバックボーンがちゃんとあるので、違和感を持つといったことは特になかったです。

■30歳になることへの期待感「本当に大人になる」

――5月に29歳になりました。来年、30歳になるときには、いわゆる朝ドラ『虎に翼』の放送も控えていますが、「もうすぐ30歳だね」と言われたりしますか?

しますね。私、30歳になるのが、すごく楽しみだったんです。だから「ついに来た」と。20歳のときも、「大人になるんだ」と思いましたが、30歳のほうがいよいよ「本当に大人になる」という感じが勝手にしています。いい加減ちゃらんぽらんじゃダメだなと。いや、別にちゃらんぽらんに生きてるつもりはないんですけど。なんかもっと、しっかり軸を立てなきゃいけない時期だな、と。いま、本当にありがたい日々を過ごさせていただいているので、課題は尽きないんですけど。

――プライベートでは、やりたいことなど何かありますか?

今年、姪が生まれまして。

――おめでとうございます。SNSで拝見しています。

ありがとうございます(照れ)。姪が1歳になるまでには家族旅行に行きたいなと思っています。朝ドラが始まっちゃうと忙しくなっちゃうんですけど、夏休みに家族で遠出したいなと。本当にありがたいことにバタバタしていて、旅行ができる感じではないんですが、どうにか一度、家族で旅行をして過ごしたいです。

――楽しみですね。いま母性がダダ漏れですよね。

はい、ダダ漏れです。連れて帰りたい(笑)。会うたび、玄関まで一緒に行って「ダメ」と言われて姉に返して帰ってます。

――最後に改めて仕事の面で、「課題は尽きない」とのことですが、30歳を前に意識していることを教えてください。

現場での在り方です。いろんなことに冷静に対応できる人になりたいです。私はまだまだ全然動揺してしまうので、何が起きてもどっしりと。この『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』もそうですが、真ん中に立つという役割をいただけたときは特に「頼ってもいい」「頼りたい」と思っていただけるような役者でありたいですし、「みんなで作っているのだ」ということを、より大切にしていきたいと、強く思っています。

■伊藤沙莉
1994年5月4日生まれ、千葉県出身。2003年にドラマデビュー。2020年以降、確かな演技力と出演作品の活躍を評価され、ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、エランドール賞新人賞、ブルーリボン賞助演女優賞、山路ふみ子女優賞、文化庁芸術祭放送個人賞、橋田賞新人賞ほか受賞歴多数。近年の出演作は映画『ちょっと思い出しただけ』『すずめの戸締まり』(22)、『宇宙人のあいつ』(23)、ドラマ『ミステリと言う勿れ』『拾われた男 LOST MAN FOUND』『ももさんと7人のパパゲーノ』(22)、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』(主人公の声)など。今年は舞台「COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』」に出演し、テレビ朝日系ドラマ『シッコウ!!~犬と私と執行官~』が7月4日からスタートするほか、映画『ミステリと言う勿れ』(9月15日公開)を控える。また2024年度前期NHK連続テレビ小説『虎に翼』で主役を務める。

(C)2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会