ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は、非接触でクレジットカードの決済が行えるVisaのタッチ決済対応カード発行枚数が、国内で1億枚を突破したと発表しました。2023年3月末時点の大台突破で、2013年5月の発行開始以来、10年での達成となりました。
同社のコンシューマーソリューションズ部長・寺尾林人氏は「大きなマイルストーンを達成した」とアピール。さらなる対応カード発行に加え、対応加盟店の拡大や利用促進に向けて取り組んでいく姿勢を示しています。
女性の満足度も高いVisaのタッチ決済
クレジットカードのタッチ決済は、物理カードをリーダーにタッチするだけで支払が可能なEMV Contactless規格に基づく国際標準の決済手段です。VisaだけでなくMasterCardやAMEX、JCBといった国際ブランドが共通して対応しており、日本だけでなく海外でも同じカードを使ってタッチで決済が可能です。
タッチするだけで決済できるスピードや利便性、コロナ禍でニーズの高まった非接触による安心感、すでに国内外の多くの加盟店で利用できる世界標準である点などがメリットで、海外では店舗などでのVisaの対面取引の59%がタッチ決済になっていると言います。
特にオーストラリアの99%を始め、シンガポール、台湾、スペイン、英国などが9割を突破。アメリカが34%と低いため世界的には59%ですが、アメリカを除くとVisaのタッチ決済の割合は74%になるそうです。
日本でも順調に取引件数が拡大。2021年1~3月と2023年1~3月で比べると、コンビニエンスストアでは約10倍、ドラッグストアでは約12倍、ディスカウントストアでは約100倍と、大幅に利用が拡大。特にコンビニは約2件に1件の取引がタッチ決済だったそうです。
タッチ決済が利用できる店舗の決済端末も、2023年3月末には180万台を突破。カード発行枚数が伸び、利用件数が伸びると、さらに店舗側の対応も促されるため、今後さらなる拡大が続くと見込まれています。寺尾氏は、「日常で行くような店では、多くがタッチ決済対応になっている」と話します。
カードをタッチすれば支払える簡単さから、Visaのタッチ決済利用の満足度が高いという点も特徴です。全世代平均でも81.1%が満足しており、さらに20代女性では87.8%の人が満足していたそうです。「男性の方が決済サービスの満足度、興味度が高い傾向にあるが、タッチ決済の満足度は女性が全体的に高い」と寺尾氏は指摘。利便性だけでなくコロナ禍における非接触という点で支持が高いのではと推測しています。
こうしたメリットを背景に、順調に発行枚数を拡大していったVisaのタッチ決済対応カード。2019年6月に1,000万枚を突破して以降は、さらに伸びが加速。基本的にVisaブランドのカードは新規発行・更新時にタッチ決済対応になっていることから、既存カードの多くがタッチ決済に置き換わっているようです。
交通機関のタッチ決済対応で経済波及効果も
クレジットカードの国際ブランドは、カードを作った国だけでなくそのまま世界中で使えるという点がメリットの1つです。タッチ決済も同様で、同じカードで海外でもタッチ決済が可能です。逆に言えば、海外の人が日本に来ても、そのままタッチ決済で支払えるわけで、インバウンドに対しても有効な取り組みになります。
Visaでは、自宅から電車で移動して買い物をしたり飲食をしたり、飛行機で海外に行ってホテルでの宿泊や買い物、観光をしたりといった一連の行動において、シームレスに同じ決済手段が使える決済体験の提供を目指して、さらなる取り組みを続けていきたいとしています。
その取り組みでの鍵の1つが公共交通機関での対応です。世界では、650以上の都市で交通機関でのタッチ決済対応が始まっており、それ以外に800以上のプロジェクトが進行していると言います。そうした都市では、日本からタッチ決済対応カードを持っていけば、切符を買わずにタッチで電車などに乗車できます。
日本においては、Suicaをはじめとした交通系ICが普及している関係で導入が遅れていましたが、2023年4月末の段階で26都道府県42プロジェクトが進行し、導入が加速しています。Visaのコアプラットフォームソリューションズ ディレクター今田和成氏によれば、「世界でも類を見ないスピードで(導入が)進んでいる」とのことで、海外からは「どのように進めているのか」と質問を受けるほどなのだそうです。
すでに鹿児島市、熊本市、福岡市の各交通局の路線では全駅・全車両でタッチ決済の対応を完了。首都圏初導入となった江ノ島電鉄も全駅でタッチ決済に対応。特徴的なところでは西表島の路線バスでもタッチ決済に対応しています。
今田氏は、特に鹿児島市交通局の鹿児島市電の導入に注目していると言います。これは、SuicaやPASMO、ICOCAなどの相互利用に対応した、いわゆる10カードが未導入の路線で、タッチ決済導入の効果が測定できるからです。
2022年11月から市電の約半数の車両がタッチ決済に対応し、3月28日から全車両に導入。現時点でデータとしては3月末時点のものしかないそうですが、それでも11月のスタート時から決済回数は4倍に増加しました。今田氏は全車両対応で、今後さらなる利用拡大を期待します。
福岡市地下鉄のように、空港路線を抱える事業者にとっては、インバウンドの旅行者が日常利用のカードでそのまま電車に乗れるタッチ決済対応は特に有効です。交通機関のタッチ決済全体で、海外カード会員の決済比率が9.6倍に跳ね上がっており、すでに90以上の国と地域の海外発行カードが公共交通機関で使われているそうです(2022年3月と2023年3月の比較)。
交通機関での利用だけではなく、移動先でのカード利用の拡大、という「経済波及効果」もVisaでは重視しています。これはすでに海外で事例があり、例えばロンドンではタッチ決済で乗車した人は、移動先でカード決済をする件数が2倍、決済金額も70%増加していました。
こうした傾向は他の都市でも見られ、ニューヨークでは駅ナカ・駅周辺でのカード利用件数が15%増、ミラノではタッチ決済で乗車すると決済金額が18%増、ブカレストでは同21%増となったそうです。
日本で見てみると、公共交通機関でタッチ決済を利用した人と利用していない人の決済金額を比較すると、国内ユーザーでは7%、インバウンドのユーザーでは54%の増加となったそうです。
各調査が微妙に異なるので比較は難しいのですが、Visaでは公共交通機関の周辺の加盟店にも波及効果があるとみています。交通機関とそれ以外の加盟店でのタッチ決済導入が両輪となって、ここにインバウンドの増加とタッチ決済の認知度向上が加われば、日本のキャッシュレス化がさらに進展する推進力になる、と今田氏は強調します。
公共交通機関のタッチ決済対応では、今夏には首都圏の大手私鉄である東急電鉄が対応を予定しています。首都圏ではJR東日本、東京メトロ、都営地下鉄、私鉄各社の路線が複雑に絡み合い、相互直通運転が一般的になっています。他社路線に乗り入れた場合にどのように運賃を処理するか、非対応駅でどのように対処するかなど、タッチ決済対応で解決しなければならない問題があり、なかなか解決が難しいというのが現状です。
これは関西圏も同様で、Visaとしては2025年の大阪・関西万博までに関西圏、さらには関東圏での拡大を目指して、現状の課題の洗い出し、オペレーションの整備などを進めていく考えです。