オンライン配車サービス Uber は、2023年5月29日~6月2日の期間限定で、東京・浅草の人気スポットを人力車で周遊できる「Uber 人力車」を提供する。体験期間中、Uber アプリ上に 「Uber 人力車」 が現れ、画面のタップだけで簡単に人力車が呼べるようになる。

Uberは、世界各地でユーザーの旅をより良くするためのさまざまな試みを行っており、今回のUber人力車はその一環。オンラインでの人力車の配車は、これが日本初の試みになるという。

訪日旅行者の8割が「訪日中に伝統的な日本体験がしたい」

2022年10月以降、コロナ関連の入国制限が段階的に緩和されたこともあり、日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2023年1月~3月の累計で470万人を超える外国人旅行者が日本を訪れている。

多くの訪日外国人が日本滞在中にUber を利用しており、2023年だけでもすでに80カ国以上からの旅行者が日本国内での移動にUberアプリを利用した。Uberが依頼した外部調査では、インバウンド旅行者の81%が「訪日中に伝統的な日本体験がしたい」、55%が「日本に旅行したいが、言葉の壁に不安を感じている」と回答している。

そんな中、世界50言語に対応しているUberアプリは、目的地の選択から配車依頼、決済、さらには乗車前の乗務員とのチャット会話まで、全てユーザー母国語で行うことができ、スムーズな訪日体験に寄与しているという。

また、日本人による国内旅行者数もコロナ前の水準まで回復していることから、今回Uberは、国内外の旅行者がこれまでにない形でローカル体験が楽しめるよう、日本初となる人力車のオンライン配車を実現した。

期間中は無料で人力車体験が可能に

体験期間中の午前11時から正午まで、浅草エリア限定で計2台の人力車が1度につき約30分間配車される。Uber アプリを開き、車種選択画面で「Uber人力車」を選択するだけで配車が完了する。乗車は先着順。

なお、体験期間中のUber人力車の乗車料金はUber負担となり、ユーザーは無料で利用できる。

どのようなルートで目的地に向かうかは、時間が許す範囲でリクエストに応えてもらえるという。移動距離との兼ね合いもあるが、「途中、人力車に乗っている自分たちの姿を写真に撮りながら移動してほしい」といった希望にも可能な限り応じてもらえる。

個性豊かな俥夫とのコミュニケーションが醍醐味

今回筆者は、メディア関係者向けの体験会に参加し、一足先に「Uber人力車」を体験してきた。

当日は、朝から元気な俥夫(しゃふ)たちが威勢よく出迎えてくれた。あいにくの雨模様だったが、悪天候をものともしない彼らの様子を見ているだけで、元気が湧いてくる。

乗車したのは浅草~上野区間で、にぎやかな雷門通りをはじめ、六区通りやたぬき通りなど、個性豊かな浅草の通りを巡った後、かっぱ橋道具街通り、浅草通り(田原町~稲荷町)などを経て、上野公園の手前でゴールを迎えた。

台東区に通算5年以上住んでいる筆者だが、都内で人力車に乗るのは初めて。普段と違う目線で台東区の街を眺める体験は実に新鮮に感じられた。自動車が通れない狭い道に入っていけるのも、自転車と同じく軽車両に該当する人力車ならでは。

それに加えて、「浅草の人力車の俥夫は、人が好きな変わり者が多いんです」と話す俥夫とのコミュニケーションも人力車の醍醐味だ。

筆者の人力車を引いてくれた「えびすや」の大淵さんは、歴史検定1級を保有する歴史好き。観光案内を希望する人には、歴史の知識を生かして各スポットを紹介してくれる。教科書に載っているような話だけでなく、エリアに詳しい人だからこそ知っている小ネタや、地元の人に愛されるグルメの名店まで、会話の引き出しが豊富なので、色々と聞いてみたくなる。

人力車のオンライン配車でローカル体験をより身近に

浅草を観光する日本人の中には、「人力車は訪日外国人の観光客が多く乗っているもの」とイメージを持つ人もいるようだが、大淵さんの体感では年平均で日本人客が6割を占めるという。すべての俥夫が外国語に対応しているわけではないという関係もあり、意外にも日本人の割合が多いのだ。

人力車に興味はあっても「乗り方がよくわからない」と敬遠している外国人がいる可能性を考えれば、Uberで人力車の配車ができることで、「人力車に乗る」という日本ならではのローカル体験のハードルを下げることにつながるだろう。

今回の「Uber人力車」の背景には、「日本ならではのローカル体験を楽しんでもらいたい」という想いがあるそうだ。外国人旅行者を意識した取り組みであることは確かだが、人力車に乗ったことがないという日本人も決して少なくない。この機会にUber人力車を体験することで、日本人が「観光人力車」という日本ならではのアトラクションの魅力を再発見することにもつながるはずだ。

今後、「Uber人力車」が恒常的なサービスとして提供されるかどうかは未定だそうだが、今回の取り組みを通じて、国内外のより多くの人が人力車の魅力に触れ、浅草、そして台東区をもっと好きになってくれることに期待したい。

実際に乗ってみて、人力車は「一期一会のエンターテイメント」だと強く感じた。