第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、挑戦者決定トーナメント1回戦の大橋貴洸七段―斎藤明日斗五段戦が5月11日(木)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、150手の熱戦を制した斎藤五段が2回戦進出を決めました。

斎藤五段の定跡外し

振り駒で先手となった大橋七段が角換わりの出だしを採用したとき、後手の斎藤五段は角交換をせずに銀を上がる工夫を見せます。先手に飛車先の歩交換を許すのは妥協点ですが、最先端の研究勝負を避けて自身の得意な矢倉系の力戦形に持ち込みたい意図が見て取れます。斎藤五段の意表の作戦提示を受け、大橋七段は自陣を雁木囲いに構えました。

ともに攻めの右桂を素早く中央に活用する急戦調の駒組みが進展しています。4筋に突き捨ての歩のジャブを放った大橋七段は、立て続けに1筋の歩も突いて端攻めから戦いを開始。これに対し素直に応じても受けがないと見た斎藤五段が盤上中央の銀ぶつけで応じた結果、局面は激しい攻め合いに突入しました。

取るべきだった飛車

攻めの要の右桂を五段目に跳ね出した先手の大橋七段は、やがて後手玉近くの急所にクサビの歩を打ち込むことに成功。形勢は難解ながら、「攻めは飛車角銀桂」の格言通りに攻め駒をすべてさばいた大橋七段が主導権を握って局面は終盤戦に近づきます。大橋七段が角を打って王手飛車取りをかけた局面が、本局の終盤における分岐点となりました。

王手をかわした後手玉に対して先手の大橋七段は飛車を取る手を保留しながら寄せを探りますが、結果的にこの構想が逆転を招くことになりました。非勢を認める後手の斎藤五段から飛車を逃げて「玉を寄せてみろ」と開き直られてみると、大橋七段の方にあと一歩の寄せの決め手がありません。本局では斎藤五段のギリギリの粘りが功を奏した格好です。

終局時刻は21時32分、受けに回って手にした豊富な持ち駒を生かした斎藤五段が最後は大橋玉を寄せきって勝利。勝った斎藤五段は2回戦で羽生善治九段―久保利明九段戦の勝者と顔を合わせます。

  • 斎藤五段は予選で佐藤天彦九段や松尾歩八段らの実力者を制して勝ち上がってきた

    斎藤五段は予選で佐藤天彦九段や松尾歩八段らの実力者を制して勝ち上がってきた

水留 啓(将棋情報局)

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