明確なルールやマニュアルとは別に、いつの間にか存在しているものが「暗黙の了解」です。
本記事では、暗黙の了解の言葉としての意味や使い方・例文はもちろん、具体例を会社や日常生活、スポーツごとに紹介します。暗黙のルールを無くす方法や注意点もまとめました。不文律など類語との違いも解説します。
「暗黙の了解」の意味とは
「暗黙の了解」とは、当事者たちや組織に所属している全員が、黙っているが理解し、了承している事柄のことを言います。
「暗黙の了解」の内容について、あえて誰かが説明したり確認をしたりすることは基本的にはありません。
「暗黙の了解」は、マナーや常識のように広く一般に認識されている事柄もあれば、職場内や仲間内など、限定的なコミュニティーで共有されていることもあります。
世の中には、皆が心地良く過ごせる空間を作ったり、互いに気遣い合ったりするための「暗黙の了解」がある一方で、限られた人のみが得するような不合理な「暗黙の了解」も存在します。
「暗黙」には、口に出さず黙っていること、意志を外に出さないこと、という意味があります。
また「了解」には、相手の考えや物事の内容を理解するだけでなく、承認すること、という意味があります。
「暗黙の了解」の使い方と例文
「暗黙の了解」という言葉は、例えば次のように使われます。
- この部署には、伝統的な暗黙の了解がある
- 国によって、守るべき暗黙の了解は異なる
- 電車でお年寄りに席を譲ることは、暗黙の了解である
- どうやら彼は、暗黙の了解を破ってしまったようだ
「暗黙の了解」とは例えば? 具体例を紹介
「暗黙の了解」の言葉としての意味がわかっても、具体的にはどんなものを指すのか、ピンとこないかもしれません。「暗黙の了解」の内容は、状況によってさまざまです。
ここでは、3つの状況下について、「暗黙の了解」の例を紹介します。
日常生活における暗黙の了解の例
まずは、日常生活の「暗黙の了解」の事例を説明します。
- 公共交通機関・図書館・病院などの公共スペースにおいて、大声での会話・携帯電話での通話・化粧・床への座りこみなどの迷惑(ととらえられる)行為はNG
- 公共交通機関では、高齢者・妊婦・乳幼児を連れた方などへ、優先座席でなくとも席を譲る
- 電車では、降りる人を先に通し、その後に乗車する
- エレベーターでは、人の乗り降りの際、操作パネルの近くにいる人が開ボタンを押す
こういったことは、アナウンスが常にされているわけではありませんが、多くの人の共通の認識として理解されています。
ビジネスマナー、会社における暗黙の了解の例
次に、ビジネスマナーや会社においてよくある「暗黙の了解」について紹介します。例えば、以下のような習慣やルールが暗黙の了解として存在するケースがあります。
- 電話は3コール以内に出る
- 食事の場では、上司よりも先に箸をつけない
- 雑務は新人が行う
- 来客時のお茶だしは女性社員が行う
ビジネスマナーも明文化されていないことが多いため、人によって認識や対応が異なるケースがあります。
また会社によっては、なぜそんな暗黙の了解があるのか、人によっては納得感が薄いのにも関わらず存在し続ける暗黙の了解もあるでしょう。
野球などのスポーツにおける暗黙の了解の例
最後に、スポーツにおける「暗黙の了解」の代表的な例を挙げます。
【野球】
- 点数に大差がついている場合、勝っているチームは盗塁しない
- 捕手のサインを盗み見しない
【サッカー】
- 負傷者が出た場合は、敵味方に関係なくボールをわざとタッチラインの外に出し、試合再開後、スローインの権利を得たチームはボールを相手に返す
同じスポーツであっても「暗黙の了解」は国や地域によって異なることがあります。
「暗黙の了解」の注意点
「暗黙の了解」には、広く一般的な常識やマナーを指す場合と、特定のコミュニティーの限定的な共通理解を指す場合があります。つまり同じシチュエーションでも、職場や居住地など環境が変われば「暗黙の了解」の内容も変わる場合があります。
例えば、以下のようなケースがあります。
- 前職で暗黙の了解として通じていたことが、新たな職場では通用しない
- 社内では◯◯することが暗黙の了解だが、一般的にそうすることはおかしいとされている
また、マナーを守ることを示唆するための「暗黙の了解」はポジティブな慣習とも言えます。
しかし、残業や過度な指導などが「暗黙の了解」とされている場合は、ネガティブな慣習といえるでしょう。ネガティブな「暗黙の了解」をやみくもに引き継ぐことにはリスクがあります。
暗黙の了解を守れない人は損をする?
「暗黙の了解」には一般常識やマナーが含まれていることもあるため、守れない人は「常識がない人」「マナー違反をする人」「空気を読めない人」などと悪印象を持たれることがあります。
「暗黙の了解」の内容に疑問を抱いたとしても、勝手な判断で「暗黙の了解」を破るような言動を取ることはリスクにもなりかねません。故意でなくとも誰かに迷惑を掛けたり不快感を与えたり、自分の評価に影響したりしてしまう可能性があります。
その一方で「暗黙の了解」があしき習慣になっているにもかかわらず、引き継がれていることもあります。この場合、「暗黙の了解」を改善すべきだと思うかもしれません。
ただし、独りよがりに突然「暗黙の了解」を無くす動きをすると、あなたが孤立したり、問題視されたりするかもしれません。周囲の人の意見を聞いたり、協力を求めたりしながら、徐々に改善を図れると理想的でしょう。
職場での業務を妨げる、暗黙の了解・ルールを無くす方法
皆が従っている「暗黙の了解」に一人で異議を唱えるのは勇気が要ることなので、ネガティブ要素が強いものであっても根強く存在し続けてしまいがちです。
しかしより良い環境を作るためには、ネガティブな「暗黙の了解」は無くした方がいいはずです。ここでは職場での「暗黙の了解」を無くす方法を紹介します。
意見を出しやすい環境作り
「暗黙の了解」に疑問や不快感を抱いたとしても、一個人がそれを口にすることには勇気が必要です。一人で声を上げても「そんな暗黙の了解は存在しない」「別に強要していない」などとかわされたり、「チームワークを乱すやつだ」と思われたりするのではないか、と恐れてしまうからです。
そのため、「暗黙の了解」に疑問を感じながらも、渋々従い続けている人が複数いる可能性もあります。
しかし疑問に感じたことを安心して言い合える関係性や雰囲気があれば、「暗黙の了解」に対する疑問を呈しやすくなります。
皆が意見を出しやすくするには、上に立つ人間が、組織内のコミュニケーションが活発になるよう日頃から促したり、部下に意見を聞いてみたりするなど、自由な発言やボトムアップを歓迎する雰囲気作りをすることが大切になります。
暗黙の了解や暗黙のルールを洗い出す
そもそも「暗黙の了解」があるのかわからず困っている人もいるはずです。そこで、良しあし問わずあらゆる「暗黙の了解」を洗い出すこともいいでしょう。洗い出しとは、表には出ていない事柄を明らかにすることです。
洗い出し作業は一人でも始められますが、職場に存在する「暗黙の了解」を一人で無くすことは困難です。他人の意見や協力を得た上で洗い出し作業を行えると理想的です。
業務の妨げとなっている暗黙の了解や暗黙のルールは明文化する
「暗黙の了解」を無くすためには、洗い出しだけでは不十分です。議論に発展させられるように、明文化する必要があります。明文化とは、明確に文書に書き表すことです。
明文化することで「暗黙の了解」の実態がより見えるだけでなく、それを基に勤続年数や年齢が異なる職場の人たちの意見を聞くことで、個々人の認識のずれを把握できるでしょう。
また悪いと思っていた「暗黙の了解」が他の人にとってはメリットがあったり、「暗黙の了解」が作られた背景や意図を理解すれば許容できる内容であったりすることを知る場合もあるかもしれません。
本来の意図とはズレて、暗黙の了解が独り歩きしているケースが判明する可能性もあります。
さらに、以前は役立っていた「暗黙の了解」が、今では時代に合わずお荷物状態になっていることを皆で確認し合える場合もあります。
皆で「暗黙の了解」について考え直すことは、より良い職場環境を整える機会になるでしょう。
「暗黙の了解」の類語・言い換え表現と違い
ここからは、「暗黙の了解」の類語や言い換え表現をお伝えします。それぞれ微妙にニュアンスが異なるので、違いを理解し適切に使い分けましょう。
不文律
不文律(ふぶんりつ)は、不文法とも言い、文書として明確に記されていない法律や掟(おきて)のことです。法的、公的な場面で用いられることが多いです。
「暗黙の了解」と同じく、お互いの心の中で了承している決まり事という意味もありますが、「不文律」には前述の意味がある分、より規則としての意味合いが強い場合に用いられることが多いようです。
阿吽の呼吸
阿吽(あうん)の呼吸とは、他者と何かをする際に言葉にしなくてもタイミングを合わせられたり、気持ちを理解し合えたりすることです。
「彼が何を言いたいか、私には阿吽の呼吸ですぐにわかった」といった使われ方をします。
「暗黙の了解」は、本当は嫌だけれど仕方なく従っているという場合も実態として存在しますが、「阿吽の呼吸」は当事者の人たちの気持ちが一致しているという違いがあります。
暗黙のルール
暗黙のルールは、ニュアンスとしては「暗黙の了解」に最も近い言葉です。類語というより言い換え表現といえます。
「了解」ではなく「ルール」、つまり規則や決まりという言葉が入っているため、前述した「不文律」の言い換え表現としても使える場面があります。そこが「暗黙の了解」との違いです。
紳士協定
紳士協定は、個人間や小さな組織だけでなく、国家間や団体間といった大規模な場面でも用いられる「暗黙の了解」の類義語です。
互いのことを信用して、公式な手続きを経ずに決めた協定や約束を指して使われます。互いに信用を裏切らないという暗黙の了解の下で、紳士協定が成立しているといえるかもしれません。
なお「紳士協定を結ぶ」「紳士協定を破る」という表現があることから、誰と誰の間で存在しているものなのかや、どのような内容なのかは、当事者間では比較的明確になっていることが多いです。
「暗黙の了解」の英語表現
「暗黙」の英語表現には「tacit(暗黙の、言葉に表さない)」「unspoken(口に出さない、無言の)」「silent(静かな、無言の)」などがあります。「了解」は「understanding(理解、了解)」「agreement(協定、同意)」などです。
この2単語を合わせて、「暗黙の了解」は以下のように表現できます。
- a tacit understanding
- a tacit agreement
- a silent understanding
- an unspoken agreement
【例文】
There was a tacit understanding between us.
(私たちには暗黙の了解が存在した)
「暗黙の了解」は至るところに存在する
「暗黙の了解」の内容はどこに行っても共通しているものもあれば、地域や職場特有のものもあります。
内容に良しあしはあるかもしれませんが、「暗黙の了解」は、その場の決まり事になっていることが多いでしょう。
新たな環境に行く際には特に、その場にはその場の「暗黙の了解」があることを事前に理解しておきましょう。