「苦言を呈する」は、ビジネスシーンなどでしばしば見聞きする言葉ですが、意味や正しい使い方があいまいな人も多いでしょう。

本記事では「苦言を呈する」について、詳しい意味や、目上の人に使えるのかなど使い方のルール、例文を紹介します。「進言する」などの類語や英語表現に、よく苦言を呈する人の特徴や心理もまとめました。

  • 苦言を呈するとは

    「苦言を呈する」の意味や使い方はもちろん、よく「苦言を呈する」人の特徴も紹介します

「苦言を呈する」の意味とは

「苦言を呈する」の「苦言(くげん)」とは、相手のためを思った、厳しい言葉を意味します。相手にとって嫌な言葉を指しますが、悪口や嫌みではなく、相手のために言うべき指摘や批判という意味を含みます。

「呈する(ていする)」は、差し出す、差し上げることなどを表す言葉です。

「苦言を呈する」とは、「相手の将来のためを思って、相手の聞きたくないであろう内容をあえて伝えて、忠告すること」を意味します。

「苦言を呈する」の正しい使い方は?

  • 「苦言を呈する」の正しい使い方

「苦言を呈する」は、相手の悪癖や良くない行動などについて指摘する際に使います。また、相手のためにあえてする忠告を指します。

つまり「苦言を呈する」は、相手への思いやりが含まれた言葉といえるでしょう。

指摘や忠告をすることは、相手との関係性を考慮して時に避けてしまいがちですが、それでも相手の今後を思って指摘や忠告などをする場面で「苦言を呈する」を使います。

「苦言を呈する」は、立場は関係ない言葉なので、

  • 上司などの目上の人から、部下などの目下の人に対して
  • 部下などの目下の人から、上司などの目上の人に対して

の、どちらの場面でも使用できます。

しかし、目下の自分から「苦言」を言われることに対して、目上の人が気分を害してしまうのではないか、と心配に思う人もいるでしょう。そこで、苦言を呈すべきときは、タイミングや声のトーン、前後の言い回しなどを工夫することをおすすめします。下記の例文も参考にしてみてください。

「苦言を呈する」の例文

  • 「苦言を呈する」の例文

「苦言を呈する」はビジネスシーンで使用することの多い言葉です。ここでは、ビジネスシーンを想定した「苦言を呈する」の例文をご紹介します。

上司が部下に向けて使う場合

「○○さんの今後のために苦言を呈する。」

この例文は部下である「○○さん」の言動や振る舞いなどが、今後悪い方向に作用することを心配したものです。「○○さん」の今後が良い方向に進むようにと、上司から「○○さん」への思いやりが込められています。

「今あえて苦言を呈するのは、あなたの将来のキャリアのためだ。」

この例文は、現状の何らかが「あなた」の将来におけるキャリアに悪い影響があることを危惧して忠告しています。「あなた」が将来、よりよいキャリアを積んでいけるようにとの思いが込められた例文です。

目上の相手に向けて使う場合

「恐れ入りますが、今回の人事について、苦言を呈したいところがあります。」

今後の業務や会社の将来などを考えた際に、「今回の人事」が適切ではない点があることを伝える例文です。

「今回の人事」について、単に不満があることを伝えようとしているのではなく、業務や会社などの今後がより良くなるようにとの思いが含まれています。

「恐縮ながら、現在の部の方針にいくつか苦言を呈したく思っております。」

「現在の部の方針」について、改善すべき点があることを伝える例文です。部の今後が良い方向に進んでほしいとの思いが込められています。

なお「苦言を呈する」は、上記の例文のように相手に向けて直接使用する以外にも、下記のように情景を説明する際に使用することもできます。

・「部長は、○○さんに期待しているからこそ、あえて苦言を呈したんだと思うよ。」

・昨日、課長が部長に苦言を呈しているのを見た。

・私は勇気を出して、部長に対して苦言を呈した。

「苦言を呈する」の類語・言い換え表現

  • 「苦言を呈する」の類義語

「苦言を呈する」に似た意味の表現を紹介します。それぞれの意味や使い方を理解し、正しく使い分けましょう。

諫言する

「諫言する」は「かんげんする」と読みます。目上の人に向けて使う表現であり、目下の人に対して「諫言する」を使うことはありません。

目上の人の過失などを指摘し、改めるように忠告することを意味しています。

「諫」という字は単体でも、「諫める(いさめる)」として使用します。「諫める」は、主に目上の人に対し、その過失や悪い点を指摘し、忠告するという意味です。

進言する

「進言する(しんげんする)」は「諫言する」と同じように、目上の人に対して使う類語表現です。

目上の人に対し、意見を申し述べるという意味を持ちます。

なお注意したいのは、自身が目上の人から指摘や忠告を受けた際、お礼を述べるときには使用してはいけないという点です。

前述したように、「進言する」は立場が下の者から上の者に向けて使う言葉です。「ご進言、感謝いたします」などと上司に使った場合、進言したのは上司という意味合いになります。上司を下げる表現となり、失礼にあたるため注意しましょう。

戒める

「戒める」は「いましめる」と読みます。間違いを起こさないように前もって注意することや、再度同じ間違いを犯さないように叱ること、してはいけないと命ずること、などを意味する言葉です。

「苦言を呈する」には相手に対する思いやりの意味合いが含まれています。一方「戒める」には思いやりのニュアンスは含まれておらず、単に間違いを予防したり注意したりするための言葉です。

耳が痛いことを言う・耳の痛いことを言う・耳が痛い話をする

「耳が痛いことを言う」の「耳が痛い」とは、他人の言葉が正論であり、自分の弱点をついていて、聞くのが苦痛だということを表します。

つまり「耳が痛いことを言う」「耳の痛いことを言う」「耳が痛い話をする」などの意味は、相手にとって耳障りかもしれない内容を言うことです。

自制を促す

「自制を促す」の「自制(じせい)」とは、自分の欲望や感情を抑えることを意味します。

よって「自制を促す」は、欲望や感情を自分で制するように促す言葉です。

「苦言を呈する」は人の欲望や感情に限らず、先に紹介した例文のように、人事や方針などの物事に対しても使えます。一方で「自制を促す」は、物事には使えません。

また「苦言を呈する」は相手への思いやりを含みますが、「自制を促す」は単に「改めてほしい」と望む意味合いが強い言葉です。

「苦言を呈する」の英語表現

  • 「苦言を呈する」の英語表現

「苦言を呈する」の英語表現には、以下のような例が挙げられます。

・Let me give you a piece of advice.
(一言アドバイスをさせてください)

・I'm saying this for you.
(あなたのために言います)

・I'm telling you straight, just for your benefit.
(あなたのためになるように、ストレートに言います)

・I'm being strict so that you can be better.
(あなたがより良くなるために、厳しくしています)

よく苦言を呈する人の特徴・心理とは

  • よく「苦言を呈する」人の共通点

指摘や忠告は相手に不快な感情を抱かせる可能性があり、誰かに「苦言を呈する」ことは難しいと感じる人も多いでしょう。逆に自分が苦言を呈される側で、「なぜこの人はよく注意してくるの?」と思ったことがある人もいるかもしれません。

苦言を呈することができる人、またよく苦言を呈してくる人には、どのような特徴があるのかを解説します。

正義感が強い

苦言を呈する人には、曲がったことや不正を見逃せない、正義感の強い人が多くいます。正義感が強いからこそ、相手に対して厳しいことを言います。

受け手は不快感や拒否感を抱くこともありますが、正義感が強い人からの厳しい指摘や忠告は、相手のためや周囲のためを思っての言葉であることがほとんどです。悪意があって厳しく接しているわけではなく、まさに「良薬は口に苦し」と言えるでしょう。

お節介焼き

お節介焼きの人も、部下の世話や他者に対する気配りの延長で苦言を呈することがあります。

指摘や忠告をして嫌われたり疎まれたりすることを意に介さず、相手に踏み込んでいきます。時には余計なお世話だと感じさせるケースもあるでしょう。

単に重箱の隅をつつくタイプで、マウンティングをしている

苦言を呈する人の中には、単に重箱の隅をつつくタイプの人もいます。他人の小さな失敗が気になったり、中にはわざと粗を探したりして、口うるさく指摘します。そのことにより、自分の優位性を誇示している、つまりマウンティングをしていることもあります。

先に紹介した正義感の強い人やお節介焼きな人は、善意に基づく指摘・忠告をしています。したがって、その苦言のおかげで個人や組織がより良くなることも多くあるでしょう。

一方で重箱の隅をつつくタイプの人は、善意や正義感からではない過度な批判をし、職場の雰囲気を壊す危険性があります。「あなたのためにあえて苦言を呈するけど…」と前置きしていたとしても、実際には「苦言を呈する」という言葉の意味に沿っていないわけです。

「苦言を呈する」を適切に活用しよう

「苦言を呈する」の意味や正しい使い方を紹介しました。「苦言を呈する」は、思いやりがあるからこそ、あえて指摘や忠告をする場面で用いる言葉です。

「苦言を呈する」の意味や使い方を正しく理解し、適切に活用しましょう。