茨城県内のインフラ事業者8社10組織が、災害時の情報連携および不安全設備の早期解消に向けた相互協力協定「IICA」を締結した。平時からインフラ事業者の連携・協力を進めることで早期把握・早期復旧を目指す取り組みは、全国からも注目を集めている。
「IICA」が目指すのは茨城県民の安心・安全
2月20日、茨城県水戸市でインフラ事業者8社10組織による「Ibaraki Infrastructure Collaborative Activity」の締結式が開催された。愛称は頭文字を取って「IICA」。ロゴには茨城県の形といばらきブルーをイメージしたシンボルカラーが使用される。
IICAは、2022年5月の「茨城インフラマッチングプロジェクト」を具体的な施策に落とし込むための連携協定だ。
この協定にはふたつの要点がある。ひとつ目は、災害発生時における被災状況の早期把握、被災設備の早期復旧のための情報連携。
災害発生後、自社設備の巡視点検時に発見した被災情報を共有することで、最短点検ルートの把握や、自社設備の早期復旧につなげるもの。これは8社が協定を結ぶ。
ふたつ目は、不安全設備解消のための相互協力に関する協定。地域住民の安心・安全の確保を目的とし、自社以外の設備で不安全状態を発見した際に可能であれば一時措置を行い、不可能であっても、設備保有会社に不安全状態と発生場所を連絡するというものだ。こちらは5社が協定を結んだ。
締結後は速やかに実行段階へ移行し、6月までに各社間の情報を見える化、その後、共通プラットフォームでの情報共有の検討を進める。
NTT東日本 茨城支店長の長野公秀氏は、「東日本大震災や台風15号・19号では想定外の災害等々がありました。災害時の連携は大きな課題であり、真っ先に考えなければならなかった。茨城県は広いエリアにたくさんの人が点在しており、インフラにも高効率が求められます。茨城県民の安心・安全、そして幸福度向上を目指して頑張っていきたい。」と、取り組みに向けての抱負を語る。
NTT東日本、東京ガスネットワーク、東京電力パワーグリッドの3社は、2022年11月に社会課題の解決に向けた連携協定を結んでいる。だが本社間で連携しても、実務を伴わなければ絵に描いた餅。逆にボトムアップで全社を動かすことも難しい。本社と支店の動きは、相互に補完関係にあると言ってよいだろう。
協定締結までの長い道のり
構想段階を追え、実務に向けてついに動き出したIICA。締結からこれまでの道のり、そして今後の展望について、NTT東日本 茨城支店の村山直之氏、菊池勇貴氏に伺ってみたい。
「昨年5月の基本協定締結以降、6月より各社の実務者と毎月会議を行いました。ノウハウ・課題相互共有、愛称・ロゴの公募、各社の検討課題、対策の確認、情報連携、相互協力についての具体的検討などを計8回、そしてトップ協議による取り組みテーマ選定と進行の合意形成を行い、ようやくここまでこぎ着けることができました。」(NTT東日本 村山氏)。
インフラ企業という括りはあれど、それぞれ勝手の違う組織同士。初めは互いの業務の確認から始まり、徐々に課題や困りごとの深掘りへと会議は進んでいったという。
4回目以降は災害時の対策によりフォーカスを当て、取り組みのプライオリティを決めていった。そしてトップ協議を終えた後は、具体的な時期や情報共有の手段などに議題が発展していったそうだ。
「各社それぞれが課題に向き合い、徹底的に議論が尽くされたので、想像以上に時間を要しました。とはいえ、各社とも最優先は自社。すでに課題解決に向けて走り出している会社もあり、そこに障壁があります。秘匿に当たらない部分をどれだけ出して、見える化していくか。ここに一番時間が掛かりました。それだけ各社の思いも強かったと感じます。」(NTT東日本 村山氏)。
産官学連携によってさらなる業務の効率化を目指す
IICAに今後求められることは、連携協定の具現化とさらなる深化だろう。そのためには、自治体との連携も緊密化する必要がある。すでに茨城県や水戸市と話を進めており、今後は茨城県本庁の土木部道路維持課や茨城大学などとの産官学連携も検討されているそうだ。
「DXもそうですが、世の中をどんどん効率化して、違うことに目を向けられる余裕を作る。それがインフラ事業者の責務でもあります。自治体と一緒に世の中にどんどん情報を発信し、未来に向かうイメージ作りをしていきたいと思っています。」(NTT東日本 村山氏)。
また自治体との連携を強める中で、NTT東日本 茨城支店は道路占用許可申請のWeb化も狙っている。
「申請のシステム自体はすでにNTT東日本で運用しております。これを自治体の道路占用許可申請に利用できれば、煩雑な手続きが簡略化されるでしょう。現在は各社がバラバラに申請しており、また紙書類に必要事項を記載する仕組みですから、自治体さんの負担も大きいと思います。IICAでこれを半分でも拾えたら、業務の効率化につながるのではないかと期待しています。」(NTT東日本 菊池氏)。
インフラ事業者という組織の枠を超えて連携を強め、地域の安心・安全への貢献を進めている茨城県。このような発想が生まれるのは、どこまでも地域社会に寄り添うインフラ事業者だからこそなのかもしれない。
「以前、千葉支店で台風を経験し、これからは災害情報をもっと可視化しなければと身にしみました。自治体が被害を確認しにいくには時間が掛かりますが、我々であれば素早く行動できます。また被害状況が住民の皆さんに伝われば、一人ひとりが対策を取りやすくなります。そういう発信力を我々が持ち、一分一秒でも早く救助できるように役立てる。IICAが目指すのは、そんな現場を実現する仕組みです。茨城のインフラ事業者が災害に強い街づくりに取り組んでいることを、広く知ってほしいと願います。」(NTT東日本 村山氏)。