第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、決勝トーナメント1回戦の渡辺明名人―藤井猛九段戦が3月15日(水)に東京・将棋会館にて行われました。対局の結果、98手で勝利した渡辺名人が2回戦進出を決めました。
藤井印の角交換振り飛車
振り駒で先手となった藤井九段は初手から飛車を振って三間飛車の姿勢を明示します。角道を止めずに駒組みを進めたのは藤井九段が近年採用している戦い方で、角交換型の向かい飛車に振り直して左銀を中心に攻めを組み立てる構想です。この銀を使って7筋での歩交換を目指した手に対し、後手の渡辺名人が突き違いの歩で応戦して中盤戦が幕を開けました。
藤井九段の左銀が歩を取りつつ後手陣に向かったのを尻目に、渡辺名人は8筋にたたきの歩の手筋を放って飛車先突破を目指します。我が道を行く攻め合いが続いた結果、お互いに敵陣に竜を作り合って戦いは一段落を迎えました。盤上は駒の損得こそないものの、藤井九段の打った9筋の角を遊び駒にさせることに成功した渡辺名人がペースを握っています。
渡辺名人堂々の指し回し
手順に先手陣にと金を作ることに成功した渡辺名人は、ここから自然な指し回しで優位を拡大します。このと金で桂香を拾う手を見せて藤井九段の焦りを誘いつつ、持ち駒の銀をじっと自陣に投入したのがプロ好みのメリハリある受けでした。駒台に歩を3枚持つ藤井九段ですが、盤面右方の一帯には自陣の歩が控えているためと金作りによる攻めが利きません。
巻き返しを図る先手の藤井九段は遊び駒の角を再活用して後手玉にプレッシャーをかけますが、ここで再び自陣に手を入れたのが優勢を主張する渡辺名人の丁寧な指し回し。手順に先手の竜を捕獲して最後の反撃に向けた準備を整えます。終局時刻は19時0分、手にした桂香を盤上に放って先手玉に照準を合わせた渡辺名人が一気に藤井玉を寄せきって勝利をものにしました。
勝った渡辺名人は2回戦で羽生善治九段―斎藤明日斗五段戦の勝者と対戦します。
水留 啓(将棋情報局)