渡辺翔・キタニタツヤ・sanaによるバンド「sajou no hana」が、7thシングル「切り傷」を2023年2月22日にリリース。TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIV 深章 厄災篇』エンディングテーマでもある表題曲は、作品の重たい物語を見たあとでも浄化されるような、王道バラードに仕上がっているという。今回は渡辺翔・sanaのふたりにインタビューが到着した。

  • 「sajou no hana」

実はちょっと敵として認識していました(笑)

渡辺:作曲家を10年以上続けたなかで、楽曲提供というゲストの形ではなく、もっと自分が輪に入った活動ができないかと思うようになったのが、そもそものきっかけでした。その思いを周りのスタッフに打ち明けたところ、「バンドはどうだろうか」という話になりまして。自分がメンバーのひとりとして表に出ることはあまり想定していなかったのですが、挑戦するならこのタイミングしかないかも、と思ったんです。「sajou」として一緒に活動することになるキタニからも「絶対に(表に)出たほうがいいですよ」と後押しされて、決断しました。

――メンバーはどのように決まりましたか?

渡辺: sanaは僕が審査員を務めていたオーディションで見出されたシンガーだったんです。そのオーディション前後と、僕がスタッフに「何かできないか」と相談していたタイミングが重なったこともあって、彼女をボーカルにどうかという話になりました。そこに、同じ事務所だったキタニがベース担当として合流する、という流れです。

――sanaさんはバンドにボーカルとして参加すると聞いたとき、どう思いましたか?

sana:正直、当時は何がなんだか、あんまりよく分かっていなくて。私はオーディションに合格した後、最初にアニメ『モブサイコ100』のオープニングテーマ曲を、名前と顔を伏せて歌唱したんです。それから今後はどういう活動をしていこうかとプロデューサーやディレクターと話していて。確か、そのころに翔さんとも出会ったんでしたよね?

渡辺:まだ「sajou」をやると決まっていないときに、ソロとしてsanaが本格的に動いていくにあたりオリジナル曲があるほうがいいよね、という話があがったんです。そのとき、僕も1曲書かせてもらいました。結果的に世に出ることはありませんでしたが、その曲のプリプロ(仮レコーディング)はやったんですよ。そこでsanaと再会しました。

sana:ただ、翔さんが作ってくれた曲のメロディを歌いこなすのが難しくて。当時、心を折られたんです。「私、渡辺翔さんの曲ぜんぜん歌えないや……」って。なので、実はちょっと敵として認識していました(笑)。

渡辺:知らんかったわ(笑)!

sana:だって、歌えなかったから! それから少し時間が経ったある日、「翔さんとキタニさんというお兄ちゃんがいるから、そのメンバーで何か一緒にやろう」とプロデューサーたちから言われまして。「ひょえ、翔さんの曲を歌うことになるの!?」って、ちょっと身構えてしまいました。

渡辺:まぁ、お互いにちょっと探り合うところはあったよね。僕もオーディションの審査員で、彼女に〇を付けなかったという後ろめたさのようなものがあったので。

sana:私、×を付けられたんです……(笑)。

渡辺:×は付けてないよ(笑)! 彼女は中学生のときにオーディションに参加していたので、僕はまだ若いかなと思っちゃって。まぁ、ただただ僕の見る目がなかっただけなんですよね。僕以外は満場一致くらいの勢いでsanaだったので。そういう経緯もあったので、実は最初の頃はsanaにどういう曲が合うのか、あまり分かっていませんでした。オーディションのときから含めて、結局僕が彼女の魅力に気づけていなかったんです。彼女のボーカルとしての真の魅力に気づけたのは、キタニのおかげでした。

パワフルさと繊細さを兼ね備えた歌声がsanaの魅力

――キタニさんがきっかけで気づいたsanaさんのボーカルの魅力とは。

渡辺:オーディションのときからパワフルな歌声と感じてはいたのですが、彼女は繊細な歌い方もできるんです。キタニが作曲した1stシングルのカップリング曲「夢の中のぼくらは」で、その繊細さが引き出されました。レコーディング時に、僕もキタニも「この歌い方めちゃくちゃいいね」となったんです。これが「sajou」にとって、すごく大きな財産となりました。基本的なボーカル力の高さ、そしてパワフルさと繊細さを兼ね備えた歌声が、彼女の魅力だと思います。

――先ほどおっしゃっていましたが、sanaさんはオーディションを受けてボーカリストになったんですよね。もともとプロとして歌いたいという気持ちは強かったんですか?

sana:私、小さいころからほんとうに何もできなくて。スポーツも勉強もダメ。ただ、唯一褒めてもらえたことが、歌だったんです。小学6年生のころには既に「歌で生きていけたらいいな」という気持ちでいっぱいでした。それと同じくらいのタイミングでアニメにハマりまして。何かに悩んだときの心の支えが、アニメだったんです。その後、ハマっていくなかで、黒崎真音さんやMay'nさんをはじめとするアニソンシンガーの存在を知りました。歌もアニメも好きな私にとって、アニソンシンガーという存在は光り輝いて見えたんです。それから、アニソンを歌いたいと思うようになり、オーディションを受けました。

――もとも音楽を聞くことも好きだった?

sana:うーん、聞くよりもやっぱり歌うでしたね、私は。

渡辺:シンガーって、とにかく歌が好きで歌えるならそれで幸せというタイプと、自分がやりたい音楽じゃなければ歌う意味がないっていうタイプがいると、僕は思うんです。どちらが良い・悪いという話ではないし、どちらも正しいとは思いますが、sanaは前者のタイプなんだろうなと最初から思っていました。歌がとにかく好きでどんな曲でも歌いたいっていうのは、才能のひとつだと思います。

――ここまで活動してきて、それぞれの印象に変化はありましたか?

sana:キタニさんはちょっと丸くなった?

渡辺:そう? むかしのほうが尖っていた?

sana:ちょっと(笑)。

渡辺:これは、本人に要確認ですね(笑)。僕はふたりともそれほど印象は変わってないかな。話しやすくはなった気がするけど。sanaは引っ込み思案でなかなか自分の言葉を発せなかったから。活動をしていくなかで、本来の自分を出せるようになったかな。

sana:そうかも。翔さんは出会ったときから変わってない。ずっと翔さんって感じ。

渡辺:僕はもう大人だったからね(笑)。自分的にはちょっとわがままになった気がする。前より自分の意見を言うようになったかも。文句ばかり言うおっさんにならないか、ちょっと心配です(笑)。