大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)は超有名偉人・徳川家康(松本潤)と彼を支えた家臣団にフォーカスされている。歯の少ない鳥居忠吉(イッセー尾形)、息子の彦右衛門(音尾琢真)、厳格そうな石井数正(松重豊)、えびすくいの踊りが得意な酒井忠次(大森南朋)、薄毛の色男・大久保忠世(小手伸也)、腕っぷしの強い本多平八郎(山田裕貴)、その叔父で酒好きの忠真(波岡一喜)、ムードメーカー的存在・平岩七之助(岡部大)、書物の好きな榊原康政(杉野遥亮)らが家康を支えている。

  • 『どうする家康』本多正信役の松山ケンイチ(左)と服部半蔵役の山田孝之

第5回「瀬名奪還作戦」(演出:加藤拓)では、そのなかに本多正信(松山ケンイチ)と服部半蔵(山田孝之)が加わった。この2人は家康の家臣団のなかではやや屈折した人物たちで、まっすぐ家康に使えるのではなく、少し距離を置いてつきあっていくような印象である。

彼らのような人物がいることで、家康には、一筋縄ではいかない者たちもそばに置く心の広さがあることが感じられる。第5回では、瀬名(有村架純)を助けたい一心もあるとは思うが「命がけで働いておる者を笑うな!」と正信や半蔵たちを馬鹿にする者たちをきつく叱る場面もあった。

正信役の松山ケンイチと半蔵役の山田孝之は映画やテレビドラマ、舞台等で主演を張る実力派である。松山は『平清盛』(12年)で主人公を演じていて、松本にとっては大河主役の先輩でもある。

画面の密度をあげる実力派の松山と山田には共通点がある。それについて説明するまえに、まずは2人の初登場を振り返ろう。

正信は、口は達者だがなんだかんだいって働かないため鶏の世話係に降格されていたところ瀬名の奪還作戦に駆り出される。じつにふてぶてしい態度で、ときどき、鶏のモノマネもするふざけた人物を松山は扇子を小道具にして、個性を出す。なにしろ、家康のまわりに家臣がたくさんいて、皆、個性的だからいるだけでいいとはいえ、戦のシーン以外だと立つか座るしかないため、扇子でポンポン叩くと間がもつといういいアイデアである。だからといってひとりひとりが特殊な小道具をもっていてもノイズになりかねないので、正信ひとりがそれを担っているのがほどよかった。

松山は、ブレイク作である映画『デスノート』のころから技巧派ではあったが、今回、家臣団の集まりのなかで大久保忠世の股をくぐるという軽やかな動きも見せ、停滞しがちな部屋のシーンに風を入れるのも見事であった。ミザンス(配置)にすきのない栗山民也演出の舞台を経験したからか。また、簡単に権力になびかないが、ときどき、まっすぐな目をしたり、冬の海岸で凍えているときの横顔がセットで背景がCGであろうにもかかわらず本気で心身共に寒く感じさせたりと、表現力もさすがであった。

正信が協力を求めたのが服部半蔵である。松平家(家康の祖父や父の家)に代々仕えた諜報活動も行う武士で、忍びではなく武士であるというプライドをもち、武士は食わねど高楊枝的な生き方をしている。正信に丸め込まれ、かつての服部忍群を呼び出し(呼び出し方がピタゴラスイッチのようとSNSで話題になった)瀬名奪還を行う。が、失敗し、ひとり生き残る。暗い目をして誰ともつるまないが実力は人一倍、という役は山田の得意ジャンルといっていい。『クローズZERO』の芹沢多摩雄や、『どうする家康』の脚本を書いている古沢良太氏が手掛けた『コンフィデンスマンJP』の、ハリウッドもうならせた天才特殊造形師・ジョージ松原など、孤高の天才みたいな役が山田には似合う。

動きのいい松山と比べると山田はどっしりと構えて動かない(動かざること山のごとしは、阿部寛演じる武田信玄なのだが)。何もしなくても異様なまでの圧があって、場を制してしまう。だからこそ短い出番でも目立つ。『どうする家康』でも、半蔵はうつむいてぼそぼそしゃべり、任務のときはマスクをして目しか見えないにもかかわらず、十分過ぎるほど感情が伝わってきた。

正信と半蔵、共通点は、斜に構えて、悪ぶっているけれど、瞬間、ものすごく清らかな瞳をするところである。家康はきっと彼らの本質に気づける人なのであろう。

魅力的な人物を演じて、『どうする家康』の今後を楽しみにさせた松山ケンイチと山田孝之には共通点があると感じる。それは「自由」である。松山は近年、二拠点生活を行っていて、地方で農業をやる傍ら、俳優業をやっている。そのせいなのか、正信の野生味を帯びた、どこででも生きていけるようなたくましさが滲むような気がするのだ。

一方、山田は、仕事のチョイスが独特である。前述した天才特殊造形師はほんのちょっとしか出なくて、「僕は仕事は選ばない主義だから」と言うと「あんたは絶対に仕事を選んだほうがいい」と言われるという場面があり、山田自身に当てはまるとSNSで話題になるほどだった。モキュメンタリーや、伝説のAV監督の自伝的ドラマ『全裸監督』主演や、NHKのミニドラマ『◯◯のスマホ』シリーズに出たり、『ダーウィンが来た!』のアニメ『マヌールのゆうべ』でマヌルネコの声をやったり、一風変わった作品に好んで出ている。

松山も山田も、20代の頃は様々な作品に出ていて、いわゆる「イケメン俳優」枠にカテゴライズされそうになるところを素早くすり抜け、時代に乗り遅れないように矢継ぎ早になにかに出ているうちに消費されてしまうという悪循環にハマることなく、個性と技術を磨く、堅実な生き方をしているように見える。そんな2人だからこそ、徳川家臣団にどっぷりハマらない、独自の道をゆく役がハマるのではないだろうか。

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