大きな話題を呼んだNHKのドラマ『岸辺露伴は動かない』の第3シーズン(第7話・第8話)がいよいよ、12月26日・27日(総合 22:00~22:54)に放送される。今回のエピソードは「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」という趣の違う2つの題材が選ばれた。演出を担当する渡辺一貴氏が、この題材に挑む思いや、原作者の荒木飛呂彦氏が「凄みが増した」と話していたという岸辺露伴役の高橋一生の変化について語った。
■「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」を選んだ理由
荒木飛呂彦氏の人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部「ダイヤモンドは砕けない」とスピンオフ『岸辺露伴は動かない』に登場する岸辺露伴を主人公にした本シリーズ。2020年、2021年と高橋を露伴役として実写化されると、作り手の“露伴愛”が真摯に伝わり、原作ファンからも大きな称賛を浴びた。
満を持しての第3シーズンで実写化されたエピソードは、今年3月に読み切りとして刊行された「ホットサマー・マーサ」と、「ダイヤモンドは砕けない」の中のエピソードである「ジャンケン小僧」の2つ。
渡辺氏は「ホットサマー・マーサ」について、「以前から最新作が出たらやらせていただきたいという話はしていたのですが、この作品は、コロナ禍の現在を彷彿とさせる設定で、これまで我々が描いてきた、完全フィクションというよりは『もしかしたら存在するかもしれない』という世界により近い物語。大きな災厄が起こったとき、人間がとる滑稽さや愚かさ、表現する側の極端な自主規制や、過剰なファン心理など、極めて今日的なテーマがいっぱい散りばめられた題材だと思ったんです」と語る。
一方、テイストがガラリと変わる「ジャンケン小僧」については「私自身が『ジョジョ』の世界を映像にしたいと思ったきっかけになったエピソードで、ずっとやりたかった題材。3年目で満を持してやらせていただきました。メッセージ性の強いものと、娯楽性の強いものという両極端の作品を並べることで、岸辺露伴のふり幅みたいなものを感じていただけるのかなと思います」と狙いを明かした。
■高橋一生と「一番作品について話をした」
「3年目で満を持して」という渡辺氏の言葉がファンにとっては何とも心強いが、この3年間で主演を務める高橋に、なにか変化を感じることはあるのだろうか――。
「第1シーズンから第2シーズンになったときも、露伴の見え方は違っていると思います。チームとして積み重ねてきた経験、さらに『岸辺露伴は動かない』以外にもいろいろなお仕事をされてきたものが、どんどん上乗せされ、露伴を通して表現していただいている。感覚的にはあまり変わったなと感じることはないのですが、昨年、一昨年の映像を観ると、やっぱり変わっている。そこは視聴者の方にも見比べて欲しいです」
そして渡辺氏は「荒木先生の言葉を借りるなら『凄みが増した』という部分かもしれません」と高橋の変化を表現し、「今回の話は2つとも、露伴が追い詰められていくストーリー。命の危険にさらされながらも、自分から危険に突っ込んでいく。ダイレクトに敵と対峙する露伴というのは、本当に凄味が増していると感じていただけると思います」と述べた。
高橋とのやり取りも「過去を通して、一番今回が作品について話をしたかもしれません」と証言する。「『ホットサマー・マーサ』は時間が飛んでいく話であり、すごく細かいメッセージが詰まっている。それを読み解くことがすごく難しいので、シーン一つ一つを一生さんとすり合わせながら進めました。『ジャンケン小僧』は物語自体、とてもシンプルなのですが、『ジョジョ』の世界でいうスタンドバトルを『岸辺露伴は動かない』の映像世界に落とし込むための微妙なアレンジは、話をしながら丁寧に取り組みました」と語った。
■第3シーズンのゲスト・古川琴音と柊木陽太の魅力
「ホットサマー・マーサ」には、古川琴音が、「ジャンケン小僧」には柊木陽太がゲストとして出演する。古川は、露伴に関わるイブという女性、柊木は露伴ファンで、執拗に露伴にジャンケンを挑む少年・大柳賢を演じる。
「古川さんは僕たちの中ではシリーズ最強の敵と呼んでいるんです(笑)。『生身の人間であるイブに追い詰められていく露伴』というのがこのエピソードの肝になっていると思うのですが、イブの愛情とその裏返しにある嫉妬みたいなものを、古川さんはとても素敵に表現してくださっています。一方『ジャンケン小僧』は、まず演じられる役者がいなければ成り立たない物語。いろいろな方とお会いしたのですが、柊木君しかいないと感じられました。彼に出会えたので、このエピソードをやろうと思えたんです」
コロナ禍でスタートした企画のため、原作者の荒木氏とは直接会って挨拶する機会はないという。渡辺氏は「この企画は、僕の妄想を形にさせていただいている」と語り、「演出家としてはとても贅沢な進め方をさせていただいているのですが、ありがたいことに温かい反響をいただいており、やってきたことが間違いなかったんだなとホッとしています。荒木先生とは直接お話はできていませんが、第3シーズンまでやらせていただけているということは、映像化に否定的ではないのかなと思っています。最初に企画に取り組んだときの思いを忘れずに、という合言葉で、第3シーズンも制作しました」と楽しみな言葉で締めくくった。
(C)NHK