お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、12月5日(月)に予選の千田翔太七段―増田康宏六段戦が行われました。対局の結果、121手で増田六段が勝利して挑戦者決定リーグ進出まであと1勝としました。
角換わり腰掛け銀の定跡形
振り駒で先手となった増田六段は角換わり腰掛け銀の定跡に誘導します。駒組みが頂点に達した局面で後手の千田七段が玉を寄って手待ちした結果、増田六段が右桂を単騎で跳ねて戦いが始まりました。角換わり腰掛け銀の主流定跡のひとつで、先手の攻勢を後手がどうしのぐかがポイントとなります。
定跡化された応酬が続いたのち、8筋に自陣角を打ったのが千田七段の用意した細かな工夫でした。自陣角の受け自体はこの定跡に頻出する筋ながら、千田七段はここに至るまでの細かな形の違いが後手にとって有利に働くと見ています。これを見た増田六段は4筋の歩を取り込んで戦線拡大を図りました。数局あった前例を離れ、このあたりから二人の戦いが始まります。
増田六段の攻勢
攻勢を強める増田六段が5筋の拠点に銀を打ち込んで千田玉に王手をかけた後、千田七段は玉をどの方向に逃げるかの選択に迫られました。3方向ある逃げ道はいずれも有力そうでしたが、千田七段は50分を超す長考で6筋に玉を引く手を選びました。この逃げ方は自玉の深さを主張するものですが、一方で先手に馬を作られるデメリットもあります。
形勢は互角ながら、好位置に作った馬の働きが大きく増田六段がペースをつかみ始めています。千田七段が銀を打ってこの馬を追い返した局面は、反対に増田六段にとっての分岐点となりました。ここは馬を切って攻めを続ける手も有力でしたが、攻めの細さを懸念した増田六段は穏便に馬を自陣に引き上げて満足しました。この手を境に今度は後手の千田七段の反撃が始まります。
勝負手を通して増田六段が勝利
千田七段は中央に据えた銀を中心に、拠点に駒を打ち込んで増田六段の囲いを崩していきます。6筋に銀を重ねて打った局面で、増田六段は素直にこの銀を取って応じましたが、この手が千田七段の攻めにさらに勢いをつけました。形勢は千田七段の有利で、盤上ではお互いが増田玉の周辺に指を運ぶ時間帯が続きます。
受けていてもキリがないと見た増田六段はここで勝負手を繰り出します。飛車取りをかけられた局面で構わずに金取りにタタキの歩を打ったのがそれで、後手玉に詰めろをかけつつ局面を複雑化する狙いがあります。増田六段の勝負手を見た千田七段は残り8分の持ち時間をすべて投入したうえでこの歩を金で払いますが、結果的にこの手が勝敗を入れ替えました。この利かしが入ったことにより、のちの攻めで駒を渡した際に千田七段の玉に詰めろがかかってしまうという仕組みです。
千田七段が増田玉に詰めろをかけたタイミングで、増田六段が千田玉を即詰みに討ち取って熱戦に幕を引きました。勝った増田六段は予選決勝に進出。次局で挑戦者決定リーグ入りをかけて広瀬章人八段―谷合廣紀四段戦の勝者と対戦します。
水留啓(将棋情報局)