“持続可能な街づくり”には、若者の参画やIT技術の導入は欠かせない。
東京・調布市が抱える諸課題の解決に取り組む調布スマートシティ協議会がこの秋、学生を対象とした「テクノロジーで実現する未来の調布を考えるワークショップ」を実施した。
参加した学生たちはチームに分かれ、調布市が抱える直近の課題を解消すべく、約3週間にわたって議論。11月12日には、それぞれのアイデアをまとめたプレゼンテーションの場が設けられた。若者たちは一体、調布市の現状をどう受け止め、調布市の未来をどのように描いたのか。当日の様子をレポートする。
調布市で“スマートシティ”の実現を目指す「調布スマートシティ協議会」
調布スマートシティ協議会は、調布市で“スマートシティ”の実現を目指して2021年に誕生した。
構成メンバーには調布市、電気通信大学、調布市地域情報化コンソーシアム、アフラック生命保険、京王電鉄、日本郵便、NTT東日本、鹿島建設、多摩信用金庫、東京スタジアムが名前を連ねる。
スマートシティとは、デジタル技術を活用し、都市インフラ・施設や運営業務などを最適化し、企業や生活者の利便性・快適性の向上を目指す都市のことで、調布スマートシティ協議会は産学官民が連携し、調布市の持続的成長に繋がる新しいサービス・事業を創出することで、調布市が抱える社会的課題を解決することを目的に活動している。
「移動」「市民」「防災」「ヘルスケア」の4テーマでディスカッション
今回の「テクノロジーで実現する未来の調布を考えるワークショップ」は、調布スマートシティ協議会の発足1周年を記念したイベントの一環として実施された。参加対象となったのは調布市、または多摩地区に在住・在学する高校生、大学生、大学院生である。
調布市が抱える課題としてリストアップされたのは「移動」「市民」「防災」「ヘルスケア」の4テーマ。参加学生はテーマごとに4チームに分かれ、それぞれ課題解決に向けたアイデアを検討した。
各チームには、調布スマートシティ協議会の構成メンバーである調布市、NTT東日本、多摩信用金庫、アフラック生命保険の職員や社員がサポート役として入り、議論や検証に参加したという。
「移動」について検討したチームは、バスとタクシーを融合させたライドシェアサービス「YOSUGA」を提案した。彼らは「調布市には深大寺や味の素スタジアムといった魅力的な観光名所が揃っているものの、観光スポット同士が離れていて移動しにくく、南北に大きな道路もないため渋滞しやすいという課題がある」と指摘。
バスは自動運転技術を用いて最短ルートで調布市内を効率的に移動し、なおかつ車内の窓ガラスなどにMR技術で観光スポットの情報を映し出すことで移動そのものが楽しめるようになると訴えた。
「市民」チームは、調布市の自治会加入率が37%と低水準であることに着目。これが住民同士のつながりの希薄さにもつながっていると考察し、解決には「COCS(調布オンラインコミュニティーサービス)」というスマホアプリの開発が効果的だと主張した。
COCSは自治会と住民をオンラインでつなぎ、自治会からは納税や年金の手続き方法、ゴミ捨てに関する情報などを共有し、住民からは生活する中で感じた意見や改善してほしい点などをチャットで伝えられる双方向性のシステム。同じ趣味を持つ者同士が集まれる機能などもつけることで住民同士の交流を活性化し、自治会の稼働率に応じて地域で使えるポイントを付与することで若者の参画も促したいと語った。
「防災」チームは、「調布市防災グルメ」という非常食専門アプリの制作を提案した。料理レシピサイト「クックパッド」のようなイメージで、「アレンジレシピ」をクリックすると既存の非常食を工夫して楽しむレシピが閲覧でき、「作成レシピ」をクリックすると非常食そのものが作れるレシピを見ることができる。
「食事を楽しむことで精神的なケアも見込めるし、(平常時に)レシピを開発することで、日々の防災意識を高めることもできる」と説明。さらに、アプリに非常食の貯蔵量を把握・管理できるマップ機能も付加することで、非常食の管理にあたる自治体の負荷も低減できると訴えた。
優勝は、ウーバーイーツの人助け版「なんでもcanでも」
今回のワークショップで優勝に輝いたのは、「ヘルスケア」について検討した学生チームだ。彼らが提案したのは、高齢者の日常の困りごとを解決するアプリ「なんでもcanでも」。わかりやすくいうと、“ウーバーイーツの人助け版”だという。
年々高齢化が進む調布市では、ヘルプを求めている高齢者の数に対して相談窓口の数が十分とは言えず、支援が届きづらい現状にある。他方、介護ボランティアに参加したくても参加方法がわからないという若者も少なくない。その両者をマッチングするのが「なんでもcanでも」で、アプリを通じて高齢者が困りごとを依頼し、依頼を受けた若者が利用者のもとに向かう、まさにウーバーイーツのようなシステムを採用した。
高齢者のヘルスケアに寄与することはもちろん、若者が高齢者とふれあい、実際に介護現場を見ることで、高齢化問題への関心の高まりも期待できるという。
懸念点としては、そもそも高齢者がアプリを使えるのかといった問題やアプリの普及方法、サービスの安全性などが挙げられるが、高齢者でも使いやすいようUIデザインを工夫すること、調布市内のスマホ教室や介護系、医療系大学に普及に向けた協力を仰ぐこと、サービス提供者に労働時間の上限規定やサービス研修を設けることで解決したいと明かした。
今回のワークショップで審査委員長を務めた調布市の伊藤栄敏副市長は、学生たちの提案について、「調布の課題をしっかり的確に捉えて分析し、課題解決に向けた実現性のある取り組みを検討してもらった」と大いに評価した。
そのうえで、優勝チームのヘルスケアに関する提案について、「介護とウーバーイーツとを結びつけるアイデアには感服した。実際にボランティアをしたい人はかなり多いので、気軽に参加できるようにするのにはとてもいいアイデアだ。具体的に考える余地が十分にあるし、調布市としても考えていきたい」と絶賛した。