10月13日、Google Pixel Watchが発売された。Apple Watch発売時には「2016年の売上高がロレックスを抜いた」との報道から、「スマートウォッチが機械式時計のシェアを奪っていくのではないか」とも言われ、話題をさらった。

今回のGoogle Pixel Watchの発売は、高級時計市場にどのような影響を与えるのだろうか。「買取大吉」を運営する、エンパワー大吉事業部の木村健一本部長に聞いた。

  • 10月13日に発売された『Google Pixel Watch』が高級時計市場に与える影響は?

■Apple Watchの登場で「高級時計のニーズは高まった」

――Apple Watchが発売されたとき、高級時計市場に影響はあったのでしょうか?

影響はほとんどなかったと言われています。

Apple Watchは携帯電話の機能の一部を代替して、日常生活を便利にしてくれる商品なので、「時計」という概念を超えて購入する人が多いと考えられていました。そのため、発売前は「高級時計市場のシェアを持っていかれるのでは」との予測もありましたが、フタを開けてみるとそんなことはなく、むしろ高級時計のニーズが高まっているというのが実態です。

――むしろ高級時計のニーズが高まっているというのはなぜでしょうか?

最近は高級時計の「資産性」を重視される方が非常に増えており、言ってしまえば"投資対象"のひとつになっています。

Apple Watchが発売された当初は、いわゆる「時計好き」の方々が高級時計を購入していましたが、Apple Watchの登場によって、改めて高級時計の存在価値を見直す人が増えました。それに伴って、単なる「時計」として見るのではなく、高級時計の資産性を意識して購入する方が多くなってきています。

Apple Watchの発売によって「腕時計」全体への注目が高まり、もともとあまり時計に興味のなかった層も高級時計に目を向けるようになったという状況ですね。

――Apple Watchと高級時計がシェアを食い合うというより、両方持っていて、使い分ける人も多いのでしょうか。

両方持ってる方も多いですね。Apple Watchは実用品、高級時計は鑑賞用といったように、まったくの別物としてとらえていらっしゃる印象です。

スマートウォッチのユーザーは若年層が中心で、スマホを使いこなすネットリテラシーのある方が多いのが特徴です。一方、高級時計はステータス性や資産性、美術的要素を求める人が多く、年齢層は若い方から年配層まで幅広くいらっしゃいますね。「年齢層」という点では、高級時計のほうがユーザーの幅が広いです。

――Apple Watchを入り口に高級時計に興味を持った人も多かったということでしたが、その逆の動きもあったのでしょうか?

はい。もともと高級時計が好きで、Apple Watchを購入された方もたくさんいらっしゃったようです。やはり時計好きな方は、新しい時計に対して敏感なので、新発売の情報が入ると見に行ってみたり、買って身に付けてみたりという動きをする方が多いと感じています。

最近ではApple Watchとエルメスがコラボするなど、高級時計とスマートウォッチの中間的な市場も生まれていて、こういったコラボ商品はブランド好きな方が購入する傾向があります。

スマートウォッチの登場で時計のあり方が多様化し、その人のライフスタイルに合わせた腕時計が選べる時代になってきています。

■Google Pixel Watchは腕時計市場を活性化する火付け役の一つに

――今回のGoogle Pixel Watchの発売によって、高級時計市場に何か影響はありますか?

今のところはありません。むしろいまは円安の影響の方が大きいです。

特に高級時計は海外でもニーズがあるため、海外での販売価格が上がると、それに伴って国内での買取価格も上がります。ですので、「今だ」と考えて買い取りを依頼される方が増えていますね。

さらに、高級時計には「資産」としての側面があり、いつでも換金できるという安定性から、投資のような感覚で購入する方も年々増えています。需要の高まりから、正規店では在庫不足が続いているのが実情です。

――Google Pixel Watchが発売されても高級時計市場に影響がない理由は?

Apple Watchの発売時と同じで、Google Pixel Watchの発売によって「腕時計」という分野が今まで以上にクローズアップされています。スマートウォッチの登場によって、腕時計市場全体が活性化したと言っても過言ではありません。

その意味で、「影響がない」というよりは「腕時計そのものに注目が集まることによって、高級時計もスマートウォッチも、両方とも市場が上向いている」というのが正しい表現かもしれません。

少し前まで、特に若年層では「スマホがあれば時計はいらないよね」という人も少なくありませんでしたが、スマートウォッチの登場で腕時計に興味を持つ人が増えました。今回のGoogle Pixel Watchの発売も、腕時計市場を活性化する火付け役になるのではないかと考えています。

――Google Pixel Watch自体の買取価格はいくらくらいなのでしょうか?

発売されたばかりなので、現状では定価に近い金額で取引されています。まだ中古品の供給量が少ないこともあって、高価買取となっていますね。

もし人気が爆発して在庫がなくなった場合、一時的に定価より高値で取引されることもあり得ますが、現状はGoogleストアに在庫があるようなので、Apple Watchが発売されたときほどの食いつきはないように感じます。

Apple Watch同様、Google Pixel Watchも今後アップデートされていくと思うので、家電のように、新しいバージョンが出ると古いバージョンの取引額は下がっていくと考えられます。高級時計は長く持っていれば価値が上がることも珍しくありませんが、スマートウォッチは逆で、新しいものほど価値が高くなります。

■円安の影響で高級時計の相場は高騰中

――ロレックスをはじめとする高級時計の相場の現状についてお聞かせください。

現状はかなり高い相場を維持しています。高級時計の相場が一番高かったのは今年の4~6月頃で、当時に比べると今の相場は90%程度です。ただ、4~6月が過去最大相場だったので、若干下がったとはいえ、今も過去2番目くらいに高い相場と言っても過言ではありません。

例えばロレックスのロングセラーモデル「デイトナ」は、20年前の発売当時の定価が80万円くらいだったものが、今では400万円に値上がりしています。

高級時計の相場高騰の背景として、コロナ禍での渡航制限が緩和されたことで、海外バイヤーが日本で高級時計を仕入れる動きが増えていることが挙げられます。また、高級時計の資産性が注目され、"投資対象"として見る方が増えてきていることも一因です。

高級時計は限定品や職人の手作業で制作されるものが多いため、販売数に限りがあります。昔に比べると出回る数自体が減ってきているので、正規のブティックは常に品薄状態です。そうなると、「中古で買おう」と考える人も増えるため、中古品の価格も上がっているというのが最近の状況なのです。

――新品に関して言えば、円安の影響で値上げをしたブランドも多いと思います。中古時計にも円安の影響は出ているのでしょうか?

はい。高級時計は世界で流通しているものなので、「世界の相場」が日本での販売価格に影響します。円安によって新品の定価が10%程度値上がりしていますが、それに連動して中古品の価格も上がっています。

新品の定価が上がると「中古で欲しい」という人が増えるため、新品と同じ分だけ値段を上げても売れるのです。

――今後、高級時計の相場はどうなっていくと予想されていますか?

今後の見通しとしては、しばらく高い水準の相場が維持されるのではないかと考えています。2倍、3倍に高騰することは考えにくい一方、急激に下がる可能性も低いと見込んでいます。

一時期「高級時計の相場下落か」といったニュースが流れたこともありますが、ここ半月ぐらいで徐々に戻ってきており、これから年末にかけてさらに回復する可能性もあります。

10月から年末にかけては、もともと海外からの来日が増えるところにクリスマスプレゼント需要が重なり、高級品が売れやすい時期です。円安が進んでいる今、海外の方が日本で高級時計を購入する動きは今後さらに強まっていくのではないでしょうか。

最近は、物価上昇に伴うネガティブな情報が流れることが多くなっています。高級時計にしてもブランドバッグにしても、円安などを背景にさまざまな商品の価格が上がっていますが、それに伴って買取価格も上昇しています。換金性の高い商品全般の価値が上がっているので、売りたいものがある人にとっては、今がチャンスと言えるでしょう。