第35期竜王戦2組昇級者決定戦(主催:読売新聞社)の佐藤康光九段-三枚堂達也七段戦が11月1日(火)に東京・将棋会館で行われました。結果は三枚堂七段が138手で勝利し、2組3位の座を獲得して1組への昇級を決めました。

■佐藤九段得意の力戦

開始早々の3手目に▲5六歩と突いたのが佐藤九段得意の作戦でした。自陣に角打ちの隙を作るだけに大胆な一手ですが、定跡を外れた力戦の展開に持ち込んで相手に研究の的を絞らせない狙いがあります。佐藤九段はこの作戦を時おり用いており、直近では今年6月の将棋日本シリーズ、糸谷哲郎八段戦でも採用していました。

佐藤九段の誘導に対し、三枚堂七段も2分の考慮で角交換からの馬作りで応じます。この折衝で、本局の戦型は「佐藤九段の角交換向かい飛車」対「三枚堂七段の居飛車」に決まりました。やがて局面が落ち着くと、佐藤九段は自玉を銀冠に収めながら盤面左方の金銀を玉に近づけていきます。対する三枚堂七段は玉の目の前に配した馬を中心に、先手に角の打ち込みを許さない手厚い陣形を構築しました。本局の序盤では、三枚堂七段の自陣馬と佐藤九段の手持ちの角のどちらがより働くかがポイントになりました。

■誘いの隙で佐藤九段がリード

自陣全体に広がる鶴翼の陣を築いて押さえ込みの態勢を見せる三枚堂七段に対し、金銀を一か所に固めて魚鱗の陣に構えた佐藤九段は積極的に駒交換を挑んでいきます。佐藤九段としては盤上の駒を交換して絶えず敵陣への打ち込みを見せておくことで、三枚堂七段の盤上の駒の動きに制約を与えようという目論見です。このように、本局の中盤では三枚堂七段の押さえ込みの布陣に対して佐藤九段が風穴を開けられるかがポイントとなりました。

ジリジリとした第二次駒組みが進んだところで佐藤九段が指した▲1八香が盤上に波紋を呼びました。これは、直前の68手目に三枚堂七段が打った△4四桂のプレッシャーから逃れるために銀冠から穴熊への組み換えを見せたものですが、緊迫した中盤戦の最中にのんびりとした手を指すだけに勇気の要るところです。放置していては打った桂の顔が立たないと、「桂の貴公子」こと三枚堂七段は方針を切り替えて佐藤玉への直接攻撃に打って出ました。

三枚堂七段のこの攻めは厳密にはやや無理気味だったようで、手に乗って2筋を制圧した佐藤九段が局面のリードを奪いました。攻めの糸口を探していた佐藤九段としては、▲1八香の一手によって首尾よく三枚堂七段からの攻め急ぎを引き出した格好です。

■指しすぎをとがめて三枚堂七段が逆転

優位に立った佐藤九段はその後も快調に攻め続けますが、切迫する持ち時間の中で攻めすぎが出てしまいます。99手目に打った▲6四桂は直後の角打ちとセットになった攻め筋でしたが、ここはたたきの歩の王手から▲3七桂の控えの桂などが有力な攻め筋でした。このあたり、三枚堂七段が持ち時間を1時間残していたのに対して佐藤九段には15分ほどしか残っていなかったことが凶と出ました。

佐藤九段の攻めを指しすぎと見た三枚堂七段は、自陣に持ち駒の金を打つ受けの好手を出します。この手を境に、本局で初めて三枚堂七段がリードを奪いました。このあとの三枚堂七段は自陣の広さを生かして佐藤九段の竜の追撃をかわしつつ、先に打った桂を成り込んで佐藤九段の玉を追い詰めました。終局時刻は22時13分、最後はこの成桂が拠点となって佐藤玉の死命を制しました。

勝った三枚堂七段は対佐藤九段戦5戦目にして初勝利を飾るとともに、自身初の1組昇級を決めました。これで前期の昇級に続いて2期連続での昇級となります。

水留啓(将棋情報局)

嬉しい1組入りを決めた三枚堂七段
嬉しい1組入りを決めた三枚堂七段