どこまでも広い空と田園風景。低層の木造建築が、水を湛えた田んぼに映し出される。ここは、山形県鶴岡市。
庄内平野の象徴でもある水田のランドスケープを最大に生かしたホテルが「ショウナイホテル スイデンテラス」だ。客室は全119室。
スイデンテラスは、2018年9月、山形県鶴岡市のサイエンスパーク(※)内にオープンした。設計を手がけたのは、紙管を使った建築でも知られる世界的建築家・坂 茂(ばん・しげる)氏。坂氏は、1980年代から木や紙などの自然素材を使う環境にやさしい家づくりを実践している。
建築家・坂 茂さんの建築コンセプトとは?
2022年の夏、坂さんにお話を伺う機会があった。国内外で話題の建築物を多く手がける坂さんだが、スイデンテラスは坂氏自身も大変お気に入りのようで、去年できたスパ棟もなかなかいいですよ、と満面の笑みでおすすめしてくださった。
最初は農地を埋め立ててホテルを造る計画だったが、坂さんがこの風景を見て「貴重な風景なのであえて水田を残したい、あの場所でしかできないことをやりたい」とオーナーに提案。そしてこのスイデンテラスが実現したそうだ。このホテルが開業して以降、日本国内の宿泊施設設計のお声掛けも多くなったとか。
基本的に、坂氏の手がける建築は、家具からドアの取っ手の細部にわたり、すべてを自らがデザインする。「必ずしも高い素材を使えばよいものができるというわけではなく、ローコストでも美しいものは作れる」、「空間のおもしろさ、美しさ、心地良さを大切にする」という坂氏のコンセプトが、この宿にもそのまま生かされている。
自然美と建築美をとことん楽しむ!
まず、道路から玄関へ入るアプローチは、田んぼのあぜ道を歩くような印象だ。モダンな玄関のドアを入って2階へ上がると、まるでコンテンポラリーアートの作品の中に入り込んだよう。
柱を1本も使わない広々としたウッディな空間は、総ガラス張りの窓から見える外の田園風景と調和している。
レセプション内部には紙管の断面がズラリと並び、それぞれの筒に各部屋の鍵が入っている。これもユニーク!
敷地内は玉砂利が敷き詰められ、館内のどこからでも庄内の田んぼが見渡せる。
こちらはレセプションに向かって左に備わる図書館。「オトナもコドモ、コドモもオトナ」をコンセプトに、大人が素の自分に戻れるような本がセレクトされている。
ゲストは客室に持ちかえり読むことができる。ここの本が読みたくて、スイデンテラスにわざわざ泊まりに来るゲストもいるほど。
今回泊まった田園ビューテラス付きダブルルームで、庄内の大自然を独り占め。他にツインルーム、2階建てのメゾネットルームなど13タイプがある。全室、バスタブ付き浴室付き。
ベッドボードも紙管で作られている。
館内のどこを歩いても、つい写真を撮りたくなるこの美しさ。
水盤で絶えず流れる水は、生命の泉の象徴。
中庭には、2016年の熊本地震で倒壊した住宅の瓦が埋められていている。
早朝、サンセットテラスから見るキュービックな客室棟の一部。
2021年"サウナシュラン"にも選ばれた天然温泉&サウナ
2021年に新設されたのが、スパ棟のサウナ。木造ドーム型になっていて、外観は中東のサウナ・ハンマムを彷彿とさせる。
お風呂は3か所あり、こちらは「月白(げっぱく)の湯」の露天風呂。
フランスから取り寄せたというブルータイルを使った「天色(あまいろ)の湯」。お風呂内にはスロープが備わり、ユニバーサルデザインも意識した造りとなっている。
こちらは朱鷺色(ときいろ)の湯。独自の天井の木組みにも目を奪われる。
サウナストーンに水をかける本格的フィンランド式サウナ。水蒸気とともに木の香りが室内に広がる仕組みとなっていている
温泉エントランスは紙管を使った壁となっている。
こちらはレストラン、ムーンテラス。田んぼの景色を眺めながら、ファーム・トゥ・テーブル(Farm to table)をコンセプトとした山形庄内の旬の食材が味わえる。
四季折々の庄内の自然美、そして時間とともに変わりゆく光と影のコンテンポラリー建築を愛でながら、ゆっくりと寛いてみたい宿だ。
※鶴岡サイエンスパークは、最先端のバイオテクノロジー研究施設とバイオベンチャーが集まるエリア。2001年、「慶應義塾大学先端生命科学研究所」の誘致・開設からスタートした。欧米では一流の大学や先進的な企業ほど自然豊かな地方にある場合が多く、サイエンスパークは日本での地方創生の先駆け、成功モデルとして評価されている。
●ショウナイホテル スイデンテラス
住所: 山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
アクセス: おいしい庄内空港から車で約16分
宿泊料金 (1名1室利用時/素泊まり・ダブルルーム)7,800円 ~(入湯税別途150円)
取材協力: 庄内空港利用振興協議会
※庄内空港利用振興協議会は、県や庄内地域の市町を中心に構成され、庄内空港の利便性と利用者拡大に向けた活動をしています。