世界的なインフレや中央銀行の利上げなど、株式市場にまつわる話題が豊富な2022年でありますが、8月以降、国内の投資界隈の今後の盛り上がりが期待される話題がいくつか出てきています。

「貯蓄から投資へ」の取り組みは度々話題になりますが、今回こそムーブメントが実現するのでしょうか。今回は注目を浴びたNISA制度や金融教育に触れつつ、日本における資産運用を展望していきたいと思います。

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■NISAの期間拡大には期待?

個人投資家の資産形成を後押しする非課税投資制度である、NISA制度の拡充が注目を集めています。2024年から一般NISAに変わる新NISAの導入が決まっているほか、今年の8月に発表された金融庁による税制改正要望において、岸田首相が掲げる「資産所得倍増プラン」を実現する一つの策として、NISA制度の恒久化が提言に盛り込まれ、話題となりました。

内容としては、投資可能期間の恒久化、非課税期間の制限の撤廃、年間投資枠・非課税限度額の拡大など、全般的な制度のアップデートが提案されています。この恒久化の提案は、今年が初めてではなく、2017年度から2020年度にも行われており、今回で5回目となります。今回は政府による政策の後押しや、後に触れる金融教育に関する話題などと相まって、より注目度が高まっていると言えます。

投資は期間が長くなればなるほど安定したリターンが得られる確率が高まることは実証されており、資産形成と言えば長期投資が手法として真っ先に挙げられます。「資産所得倍増プラン」が投資から得られる所得を増加させることを掲げていることからも、制度の恒久化の部分は以前よりは前向きに議論されるのではないでしょうか。

一方で、投資の枠が拡大することは賛否を生むかもしれません。投資額が大きくなるほど、将来の資産形成には寄与するものの、使えるお金のうちの多くが投資に回ってしまうことは消費の抑制要因となるため、投資金額が多くなることは、幅広い家計にとってプラスとなるかは不透明と言えます。この点に関しては、富裕層に対する優遇につながるのではないかという議論にもつながっていると考えられ、慎重に議論が進むことが予想されます。

金融庁の統計によれば、NISAの利用状況は右肩上がりとなっており、2022年3月末時点での買い付け額は約27.3兆円まで増加しています。資産形成をサポートする手法は多方面で考えられますが、その中でも着実に実績を残しているNISA制度は中核として今後も話題となっていくでしょう。

■金融教育強化は世代範囲の拡大と国のサポートがカギか

すでに今年から高校の家庭科にて金融教育が強化されるなど、金融リテラシーの向上に対する動きは出てきています。そのような中で、金融庁が発表した2022事務年度の金融行政方針の金融リテラシーの向上の項目にて、「国全体として、中立的立場から、資産形成に関する金融経済教育の機会提供に向けた取り組みを推進するための体制を検討する」と明記されたことで、金融教育の国家戦略化への期待が高まっています。

株式市場でも、金融教育が国家戦略化という報道が出た際には、資産運用メディアを運用するZUU(4387)、金融教育サービスを手掛けるFinatextホールディングス(4419)、法人向けに金融教育プログラムを提供するブロードマインド(7343)など、関連銘柄と目される企業が物色される場面がありました。今後も、実際にさまざまな施策が検討されていく中で、金融教育がテーマ化することが期待されます。

学生時代から学ぶことは当然重要でありますが、より資産形成を強化していくという意味では、大人になってからの学びも重要でしょう。働き始めて自分のお金を手にしてから、実際のお金の管理をしたうえでの気づきも多いと感じます。これまでは学生など学校教育の場でのアプローチへの注目度が高かったですが、今後は社会人教育にシフトしていくかもポイントと言えるでしょう。

金融教育は株式市場でもテーマ化する銘柄が多くないことからもわかるように、市場もまだ成熟していません。まだ国としての前向きな方針が発表されただけで、具体的な施策はこれから出てくることが考えられますが、民間の力だけでは推進力に欠ける部分もあるため、国がバックアップをすることで産業として活発化することが期待されます。

NISAと合わせて、金融領域にとってポジティブなニュースであることは間違いありません。

■資産運用に留まらないグランドデザインがポイントか

NISA制度拡充や金融教育強化により、「貯蓄から投資へ」は強化されるのでしょうか。

ポイントは、これからの日本を担っていく若者を中心に長い目線で投資が広がっていくことではないでしょうか。現在の2人以上の世帯の年代別金融資産残高を見ると、年々高齢世帯の占める割合が増え続け、実に60%以上の資産が60代以上の世帯に分布していることがわかります。

一方で、時系列でみてみると、20年前にボリュームゾーンであった40代~60代以上の世代がそのまま現在もボリュームゾーンになっているのです。つまり、現在高齢世代に資産が集中している大きな要因は、人口構造の変化と一致しています。

  • 総務省「全国家計構造調査」のデータを基に筆者作成。金融資産残高は「貯蓄現在高」を用いている

もちろん金融教育や資産運用の話が進歩しなかった結果、若年層が資産を増やす環境が作れていないという問題も考えられますが、それだけにはとどまらず、少子高齢化や賃金停滞などの複合的な要因が現状の結果となっていると考えられます。

資産運用というと投資を通じて「増やす」ことに目が向きがちですが、運用を開始するためには運用の資金が必要であり、そのために収支を改善するというアプローチも必要となります。このように「増やす」だけに焦点を当てるだけでは不十分と筆者は考えます。

資産運用のサポートだけに偏重することなく、少子化対策による人口構造変化、国の経済成長率を上げるためのマクロ政策などを実施し、経済全体の浮揚までをとらえた広範囲でのグランドデザインを行うことが、国民全体の資産所得倍増に近づくための近道となるのではないでしょうか。

目先の話題にも目を向けながら、大局的な方針にも目を向けつつ、国の制度をうまく活用してご自身の資産運用も見直してみてはいかがでしょうか。