――これまでの人生で、何かに「飛び込んだ」経験を挙げるとすると、やはりこの世界に入ったことでしょうか?

そうですね。もともと役者になるつもりはなかったので、あんまりお芝居の興味もなかったんです。でも、舞台というものに出会って、その世界に関わろうと思って踏み出したときは、大きな決断が要りましたね。しばらくは、まあ食えなかったですよ。

――そうして俳優のお仕事を長年されてきた中で、慣習はだいぶ変わってきましたか?

圧倒的に違いますね。撮影の現場とか、舞台もそうですけど、昔はスタッフがめちゃめちゃ怖かったですから。

映画では、今はデジタルになったのでNGを出したときの申し訳なさが昔とは違ってきたと思うんですが、フィルムの時代はつらかったですね。デビューすぐのとき、立ち上がってひと言しゃべるシーンがあったんですけど、何度立っても僕にピントが合わないんですよ。それを何回かやったときに、「おめえのためにこんなにフィルム使えねえんだよ!」って怒られるんですけど、僕、立ち上がってるだけだから「ちゃんとやれよ!」って言われてもね(笑)

――またそれで萎縮しちゃいますよね(笑)

もうどうしていいか分からないですよ。でも、こっちは「すいません」って言うしかない。エラい時代でしたよ。結局そのシーンはカットになったんですけどね(笑)

■殺伐とした現場は、それが画に出てくる

あと、圧倒的に現場に女性が増えました。昔はメイクさん、スクリプターさん、衣装さん、この3つくらいの職種でしかいませんでしたけど、今はカメラマンや照明にその助手、女性の監督も増えたし、特機(=特殊機材)をやっている女性もいたりしますから。

――体力勝負の仕事でも、女性が増えてきたんですね。

真面目で我慢強い女性が多いということが大きいかもしれませんね。昔は環境が厳しいから、途中で助監督がいなくなったり、連絡取れなくなったりとか、結構ありました。今はそういうことがないから、環境はどんどん良くなってきていると思います。以前は、連ドラの助監督さんとかは、1日の睡眠時間が2時間くらいだったと聞いていましたから。

――そのように現場が健全であることは、作品にも良い影響を与えますか?

そうだと思いますね。やっぱり殺伐とした現場だとそれが画に出てくるんじゃないかなと思います。今回の作品は争いごとのシーンはありますが、殺伐としたものとは違います。

●堤真一
1964年生まれ、兵庫県出身。演劇を中心に活動を続けながら、映像では87年にドラマ『橋の上においでよ』(NHK)で主演デビュー。96年『ピュア』(フジテレビ)、00年『やまとなでしこ』(同)、03年『GOOD LUCK!!』(TBS)とヒットドラマに次々出演。映画では『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)、『容疑者Xの献身』『クライマーズ・ハイ』(08年)などで数々の賞を受賞した。近年の出演作は、ドラマでは『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ)、『青天を衝け』(NHK)、『妻、小学生になる。』(TBS)など。映画では『決算!忠臣蔵』『望み』『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』など。10月5日からドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ)がスタートする。

・スタイリスト/中川原 寛(CaNN)
・ヘアメイク/奥山信次(barrel)