テクノロジーの発達が進み、また新型コロナウイルス感染症の影響でオフラインでのコミュニケーション機会が減っている今、注目を集めているのが、インターネット上に作られた仮想空間「メタバース」です。
「メタバース」はビジネスだけでなく、イベントやゲーム、教育などさまざまな活用方法があります。この記事では、メタバースの意味やメリット・デメリット、具体例などを解説します。
メタバースの意味、概念とは
メタバースとは何か
メタバース(metaverse)とは、「超越した」という意味の「メタ(meta)」と、「宇宙」を意味する「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語です。もとはSF作家のNeal Stephensonの著書「スノウ・クラッシュ」に登場する仮想世界を指す名称でした。
現在、具体的にはネットワーク上に作成された3次元の仮想空間のことを指すのが一般的で、利用者はアバター(分身)となって他者と交流したり、ゲームやイベントを楽しんだりできます。ビジネスとしてもバーチャル会議などで活用され始めています。
これまでの技術・仮想空間との違い
仮想空間とメタバースの大きな違いは、これまでの仮想空間はあくまでも一人で体験することが一般的であったのに対して、メタバースは仮想空間を通して他者とコミュニケーションを図ることが前提であるという点です。
また、従来は仮想空間やゲームの中での通貨はその世界でしか使えなかったのに対し、メタバースではさまざまな仮想空間を超えて通貨を使うことができるケースがあります。また、メタバースの世界と現実の社会がリンクしている場合があるという点も違いといえるでしょう。
そのため、今後は「現実世界の生活費を出稼ぎしにゲーム内に行く」といったことが可能になるのではといわれています。
メタバースが注目される理由
現在、なぜこれほどまでにメタバースが注目されているのでしょうか? その理由としては次の2つが挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の流行による、コミュニケーションのデジタル化の促進
2020年ごろからの新型コロナウイルス感染症の流行により、現実社会でのイベントが中止になったりテレワークが進んだりと、対面でのコミュニケーションが激減しました。そこで活用されるようになったのが、オンライン会議ツールやチャットツールなどのデジタルコミュニケーションです。
メタバースは非接触でビジネス上のコミュニケーションを取ったり、イベントを開催したりできることから、注目度が一気に高まったといわれています。
VRデバイスなどテクノロジーの進化
VR(Virtual Reality)デバイスなどのテクノロジーの進化も、メタバースに注目が集まった要因といえます。これまでのVRデバイスと比べて軽量化やワイヤレス化が進み、価格も以前より下がったため、誰もが気軽にメタバースを体験できるようになりました。
さらにVRを使ったコンテンツやサービスのクオリティーが向上したことで、現実により近いコミュニケーションが行えるようになりました。
メタバースとブロックチェーン・NFTとの関連性
メタバースを安全に利用するためにも「ブロックチェーン」と「NFT」が注目されています。
ブロックチェーンとは、暗号技術により取引の内容を複数のコンピューターで同期し、履歴として残せる技術で、ネット上のデータの破壊や改ざんの防止に役立ちます。ブロックチェーンは仮想通貨(暗号通貨)にも使われています。
そしてブロックチェーン技術を活用すれば、NFT(Non-Fungible Token)に役立ちます。NFTは「非代替性トークン」ともいい、画像や動画、アートや音楽といったデジタルデータに、唯一無二の資産性を持たせることができます。例えばメタバース内のアイテムや土地をNFTとして資産化する、売買するということも考えられます。
メタバースとブロックチェーンを組み合わせることで、破壊や改ざんをされる心配なくNFTデータの売買が行えるようになるとされています。
メタバースのメリット、できること
非現実的な空間であるメタバースには、現実世界とは違ったメリットがあります。どのようなメリットがあるのか、代表的なものを見ていきましょう。
バーチャルオフィスなど、場所や時間に縛られないリアルなコミュニケーション
メタバース内では、移動時間を必要とせずに、世界中の人とコミュニケーションを取ることができます。例えばメタバース上のバーチャルオフィスで勤務すれば、通勤分の時間を他の仕事に充てたり、プライベートに充てたりすることもできるでしょう。
また今までもオンライン会議ツールは存在しましたが、相手の細かな表情や反応がわかりづらいなどのデメリットがありました。しかしメタバース内でVR技術を駆使すれば、まるで相手が目の前にいて話しているような、よりリアルな空間を作ることが期待できます。
バーチャルEC事業など、新しいビジネスの実現
メタバースを活用することで、新たなビジネスを手軽に実現できます。例えばユーザーにショッピング体験を提供する「バーチャル店舗」を作って、アバター同士で価格交渉をしながらデータの売買をすることなどが考えられるでしょう。
さらに、現実世界では店舗やオフィスを構えると維持費がかかりますが、メタバースを利用することで家賃や光熱費の削減も可能になります。
空を飛ぶなどの非日常的な体験を実現できる
メタバースではアバターを介して、現実ではありえない空間や実現が難しい空間を作ったり、体験したりすることが可能です。
例えば空を飛んだり、一日で世界中を旅したり、地球の裏側のイベントに参加したりと、アイデア次第でどんなことでも可能になるため、現実世界では実現できないような体験をすることができるでしょう。
メタバースのデメリット
急速な発展を遂げているメタバースですが、デメリットもあります。そこでここからは、メタバースの主なデメリットをご紹介します。
メタバースへの依存
メタバースは没入感が高く、中毒性が高いといわれています。のめり込み過ぎると、現実世界との境目がわからなくなってしまうという可能性もあります。特に子供のうちは、ゲームを止めるタイミングを自らコントロールするのが難しいものです。依存症にならないように、メタバースとの向き合い方を話し合ったり、使用時間を決めたりするなどの工夫が必要でしょう。
現実世界でのコミュニケーションが希薄になる
メタバースを活用すると、オンライン上でリアルのように他者と交流することができます。親しい友人や職場の人、学校の友達との会話もメタバース上で完結するようになると、現実世界でのコミュニケーションが希薄になる恐れがあります。
身近なメタバースサービスの具体例
「メタバースなんて自分には関係ない」と思っている人も多いかもしれませんが、実はメタバースは身近なところに既に存在しています。ここではメタバースを使った代表的なサービスを見ていきましょう。
フォートナイト
フォートナイトはEpic Games社が2017年にスタートしたオンラインゲームです。プレイできるプラットフォームはPlayStation、Xbox、Nintendo Switch、PCなどさまざま。「バトルロイヤル」「ゼロビルド」「クリエイティブ」「世界を救え」のモードがあります。特に人気の「バトルロイヤル」モードは、最大100人のプレーヤーが巨大な島に集まり、武器やアイテムを収集しながら最後の1組になるまで戦います。
ボイスチャットの機能を使ってプレーヤー同士でコミュニケーションを取りながらゲームを楽しんだり、アイテムを集めたり、資材で壁などを建築して敵の攻撃を防御したりできます。
マインクラフト
マインクラフトは仮想世界で土や石、木材などのブロックを集めて、建物や街などを作ったり、動物を育てたり、知らない場所に冒険に行ったりして楽しむゲームです。他のゲームのように決まった遊び方やゴールがなく、自由にプレイできるのが特徴です。
オンラインで他のプレイヤーと協力したり競争したり、アバターを動かすことでさまざまな体験をすることができます。
あつまれ どうぶつの森
2020年の流行語大賞にもノミネートされた、「あつ森」こと「あつまれ どうぶつの森」は、任天堂のNintendo Switch向けソフトです。仮想空間でお金を稼いだり家を建てたりしながら、自分の無人島を作っていくゲームです。釣りや虫採り、ガーデニングなどのアウトドアや、道具や家具のDIYなどさまざまな楽しみ方があります。
オンラインで友達の島へ遊びに行ったり、チャットでコミュニケーションを取ったりすることもできます。
Horizon Workrooms
Horizon Workroomsは、メタ・プラットフォームズ(旧Facebook)社が開発するアプリで、同じバーチャルルームに集まって一緒に仕事をする、会議やセミナーを開くなどができます。利用者は世界中のどこにいても同じ仮想空間に集まって会議に参加したり、ホワイトボードにアイデアを書き出したり、実際に一緒にいるような感覚でコミュニケーションを図ることができます。
さらに、OutlookやGoogle Calendarと同期することで、スケジュール管理やミーティングへの招待などが可能になります。
メタバースの今後にも注目
オンライン上で他者と交流ができる仮想空間「メタバース」は、新型コロナウイルス感染症の流行やテクノロジーの進化によって、近年注目を集めています。今後さらに新しい技術やサービスが出てくることが予想されますが、課題も多数存在しています。メタバースはどのような成長を遂げていくのか、今後の展開に注目していきましょう。