「鉄道模型コンテスト2022」全国大会(東京大会)が8月19~21日の3日間、新宿住友ビル三角広場を会場に開催された。例年より多くの学校がモジュール作品、1畳レイアウト、HOスケールの車両を出展したことで、非常に活気のあるイベントとなった。
高校生らが参加する「第14回全国高等学校鉄道模型コンテスト」と並行して、学生以外の一般参加が可能な「KATO T-TRAKジオラマコンテスト」が行われたほか、手のひらサイズのミニジオラマを持ち寄って展示する「KATO ミニジオラマサーカス」の各種作品も展示された。今回は一般参加部門の「T-TRAK」と「ミニジオラマサーカス」にスポットを当て、それぞれの作品をレポートする。
■「T-TRAKジオラマコンテスト」リアルからファンタジーまで作品がそろう
まずは「KATO T-TRAKジオラマコンテスト」から。世界的な統一規格のモジュールボード「T-TRAK」を使用し、ジオラマ作品を制作する。ボードには必ずKATO「ユニトラック」の複線線路を配置することが決められており、その上で幅308mm(または618mm)・奥行355mmのボードに情景を制作していく。背景板を設置する場合の厚みや高さにも指定がある。参加方法や規格についての詳細は、「T-TRAK」公式サイトを確認してほしい。
会場では、各出展者が制作した作品をひとつにつなげ、車両を走行させた状態で展示が行われた。作品ごとにまったく雰囲気が異なることも、モジュールレイアウトならではの面白さ。日本の鉄道風景を再現した作品もあれば、外国風の世界観を表現した作品や、独創的な発想の作品など、さまざまな「T-TRAK」ジオラマがつながっていた。
「KATO T-TRAKジオラマコンテスト」の結果発表も、「第14回全国高等学校鉄道模型コンテスト」と同じく3日目(8月21日)に行われ、「巨大要塞2022 ~そうだ 奥多摩、行こう!~」という作品が最優秀賞に選ばれた。「鉄コンアプリ」に掲載された内容によると、この作品は青梅線奥多摩駅の近くにある奥多摩工業氷川工場を参考に作られたという。最下層に設けられた貨物線は、このモジュール単体でも貨物列車が走行できるようにしており、会場では秩父鉄道の電気機関車と貨車が置かれていた。「T-TRAK」規格の曲線線路がその上を横断し、他のモジュールと接続する。
工場の部分は実物を参考にしつつ、既存のストラクチャーを複合して制作。LEDも点灯する。小さいトンネルからは、プラ板で自作したという専用線のトロッコも見ることができる。採掘コンベアや工場バックヤードなども作り込まれていて、省スペースながら立体的で、動きやギミックも組み込まれた作品に見受けられた。下から見上げると、要塞のような存在感がより際立つ。
「T-TRAK」ではその他、リアリティ賞、ギミック賞、ファンタジー賞、投票者が選ぶベストワン賞、協賛企業による企業賞、鉄道開業150年にちなんだ「鉄道開業150年賞」も用意された。今年は通常の「T-TRAK」に加え、「KATO 1/150パトレイバー」(『機動警察パトレイバー』イングラム、グリフォン)発売を記念した「わたしの町のパトレイバー部門(わたパト部門)」も設けられ、Nスケールの「パトレイバー」がジオラマ上に立つ作品も見られた。
今回、筆者が話を聞けた出展者は偶然にも、昨年も作品を出展した人が中心だった。日南線の作品では、海の表現が美しく仕上がっていることに加え、背景を手作業で塗っていることもポイント。国鉄民営化後の主要駅を表現した作品では、既製品を有効活用しつつ、駅名標や跨線橋の掲示で国鉄の要素を加味している。どの作品も面白く、参考になる。
中学生以上から応募可能ということで、個人として「T-TRAK」を出展した中学生2人組もいた。JR東日本・三陸鉄道の釜石駅をイメージし、ホームや転車台の一部を紙で自作したという。ダミーのポイントを作るべく、他の線路からレールを抜き取って切って曲げることに苦労したとのことだが、初のジオラマ制作を見事に成し遂げ、広い構内を盤上にまとめ上げた。
学校とみりん工場を中心に配置した作品では、上段と中段で車両が1周走れるようになっており、「T-TRAK」規格の複線線路は下段にある。KATOのスタッフに案内され、作品のもとに訪れたドイツ・ノッホ社の社長も、これひとつでレイアウトとして完結すること、奥行きの広さ、芝生の表現なども含めた情景の細かさを評価していた。
■「ミニジオラマサーカス」は小学生から参加可能、自由な発想が楽しい
続いて「KATO ミニジオラマサーカス」を見ていく。KATOが発売した「KATOミニジオラマベース」(直線線路S124・曲線線路R183のどちらか)や「ジオラマくん ミニジオラマキット」を使用し、手のひらサイズのジオラマを制作。「T-TRAK」とは異なり、小学生以上から参加できる。参加方法・レギュレーション等の詳細は、「ミニジオラマサーカス」公式サイトを確認してほしい。
「ミニジオラマサーカス」では、「鉄コンアプリ」での参加申込み時に設定したKATO登録販売店にて参加費を支払った上で、作品制作を行う。完成した作品は、参加費を支払ったKATO登録販売店に持ち込み、レギュレーションを確認した上でKATOに送られ、コンテスト会場で展示される。会場では、全国から集まった作品が登録販売店ごとのグループに分けられ、1周つながり、広島電鉄の路面電車やスイスの電気機関車といった急カーブを通行できる車両が走行していた。
「KATO ミニジオラマサーカス」からは、会期中に取材できた出展者や、筆者の印象に残った作品を紹介。洞窟や砂浜、菜の花畑を盤上にまとめた作品は、大人部門として出展されていたが、実際には親子で協力してアイデアを出し、制作を行ったという。岩の柱が車両に干渉しないように注意を払って取り組んだとのこと。手前にある海は、水の色を着色してからレジンを使用した。砂浜から梯子を登れば菜の花畑に。さまざまな要素を取り入れ、道に沿って自然と見る人の視線が移動していく。それでいてロマンチックな雰囲気も感じられた。
昨年、「ジオラマくん」を用いて初めてジオラマ制作に挑戦した小学生が今年も出展しており、今回は自分のイメージした世界観を表現したとのことだった。自身の趣味であるサッカーを生かし、ミニジオラマにもサッカーグラウンドを取り入れた。サッカーゴールは手作りで作ったという。他にも、わたらせ渓谷鐵道の神戸駅や、サッカーで行く公園を参考にしており、レベルアップしている様子がうかがえた。
「T-TRAKジオラマコンテスト」の作品を制作した出展者の一部は、「ミニジオラマサーカス」の作品も手がけている。同じ素材を使用しているようにも見受けられるが、情景が違えば素材の生かし方も違う。それらを見るに、「T-TRAK」と「ミニジオラマサーカス」は両立可能ではないかと思えた。リアルな情景を追求するだけでなく、遊び心をふんだんに取り入れた、ファンタジー要素のあるミニジオラマも多数出展されていた。
「T-TRAK」「ミニジオラマサーカス」ともに「鉄コンアプリ」ですべての出展作品を閲覧可能。アプリを持っていない場合はウェブ版も利用できる。まずはウェブでさまざまな作例に触れてみて、その上で創作意欲が湧いたなら、ぜひジオラマ制作に挑戦してみてはいかがだろうか。