今回は、天気のことわざ・有名な言い伝えを14種類ピックアップし、由来や意味、現代の知識で補足できる科学的背景を解説します。
「生き物の行動や生態、空や山などの様子などをみると、その後の天気が分かる」という意味のことわざはたくさんあります。このような天気に関することわざを見聞きして、科学的根拠やくわしい意味が気になる方も多いはず。最後まで要チェックです!
天気のことわざは、天気予報がない時代の知恵の賜物
天気にまつわることわざがなぜ多いのか、その歴史的背景も確認していきましょう。
昔から天気予測に取り入れられてきた「観天望気」
みなさんは天気予報を1日に何度チェックするでしょうか。突然の雨の心配がある時期には、自分のいる場所に限定して、5分刻みの雨雲レーダー画面とにらめっこする習慣の人もいるかもしれません。
現在、国や民間の専門機関が発表する天気予報の情報は、さまざまな先端技術を駆使した緻密なシミュレーションによって導き出されています。
科学的根拠を元にした気象予測は、世界各国で天気図が発明されたことをきっかけに、ヨーロッパで19世紀に始まりました。20世紀に入ると高速計算が可能なコンピューターが登場し、データ分析に基づいた予測も可能になりました。さらに気象衛星からの通信やAIなどの最新技術を活用することで、天気予報は年々その精度を高めています。
こうした技術が登場するまでは、天気の変化を予測する知恵は、各地域で暮らす人々の経験則にもとづいて、各地で共有されていました。その日の天気がそのまま仕事に影響する農家や漁師などを中心に伝わった、ことわざの一種ともいえるでしょう。現代でも全国各地、世界各国に残っており、これを「観天望気(かんてんぼうき)」と呼びます。
観天望気とは、雲行きや風向き、動植物の見え方や動きなどから直近の天候を予測することです。温度や湿度、動植物の生態研究など、現代では科学的に実証された知識で説明できるものもあります。
天気にまつわることわざは、スマホやテレビでチェックする日々の天気予報とは別に知っておくと役立つ場合もあるかもしれません。
天気のことわざ・有名な言い伝え(言い習わし)
天気のことわざを6つご紹介しましょう。
狐の嫁入り
空が晴れているのに雨がパラパラ降ってくることを「狐の嫁入り」と表現することがあります。
日照り雨をなぜ「狐の嫁入り」と呼ぶかには諸説ありますが、滅多に起こらない珍しい気象現象だったため、昔は「理由のわからない怪奇現象」とみなされ「狐に化かされているのでは」「狐の嫁入りの行列を人間に見せないように、雨を降らせているのでは」と考えられていたためという説が有力です。
暑さ寒さも彼岸まで
「暑さ寒さも彼岸まで」も日常生活でよく見聞きすることわざの1つです。「夏の暑さは秋の彼岸までに、冬の寒さは春の彼岸までに和らぐ」ということを表しています。
彼岸とは、春は春分の日、秋は秋分の日をちょうど中間にした前後3日間、つまりそれぞれ7日間のことです。
現代の体感では、桜が咲いていても肌寒い年や、10月前後まで厳しい暑さが続く年もありますが、彼岸の頃を季節の区切りのめやすとして覚えておくとよいかもしれません。
夕焼けは晴れ、朝焼けは雨
太陽は、朝は東から昇り、夕方に西へ沈みます。朝焼け・夕焼けとも空が赤く見える現象のことですが、「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」ということわざがあるのをご存知でしょうか。「夕焼けが見える場合は翌日晴れて、朝焼けが見える場合はその日は雨が降る」という意味のことわざです。
日本では天気は「西から東へ」の方向で変動します。日が沈む時間に西側の空が晴れていればそれ以降も晴れ、日が昇る時間に東側の空が晴れていれば、それ以降は西側から天気が崩れていく、という道理によることわざと考えられます。
煙が東になびくと晴れ
「煙が東になびくと晴れ」という言い伝えも、「天気は西から東への方向で変動する」、という原則が関係していると考えられます。
高気圧と低気圧が近くにある場所では、高気圧の方から低気圧の方へ向けて風が吹きます。すなわち、煙が東に流れるときには西側から風が吹いており、西に流れるときには東側から風が吹いているということです。
西側から風が吹く場合、観測地点よりも西の方向に高気圧があり、やがてそれがやってくるために今後は晴れるということです。
朝虹は雨 夕虹は晴れ
雨上がりの空に虹がかかることがありますが、「朝虹は雨 夕虹は晴れ」のことわざは、虹が見えるのが朝なのか夕方なのかで、その後の天気が異なるということを表しています。これも天気が西から東へ移り変わることと関連づけると、科学的な気象条件と一致します。
虹は、太陽と逆の方向に雨が降っている場合に空に現れます。朝は太陽が東にあるので、虹が出たら西側に雨雲があるということ。すなわち、雨雲は近々、虹を発見した人のいる場所へと移動してきます。夕方の太陽は西に沈むので、虹が出たら東に側に雨雲があるということです。虹を観測した地点から去った後の雨雲なので、翌日は晴れになるのです。
飛行機雲が広がると雨
飛行機雲が空に広がる、もしくは残っていると雨になるということわざです。また、同じ根拠で「飛行機雲がすぐに消えると晴れる」というパターンの言い伝えも存在します。
飛行機の排気ガスに含まれる水分が気温の低い上空で冷やされて、水滴や氷の粒になったものが飛行機雲です。上空の空気が乾燥してカラッとしている状態であれば、飛行機雲もすぐに蒸発して消えます。反対に、上空の湿度が高い状態だと、飛行機雲はいつまでも残ってしまうというわけです。雲ができやすい大気の状態は、すなわち天気が崩れやすいということにつながります。
飛行機雲を見かけたら、一度その後の天気変動もチェックしてみてはいかがでしょうか。
天気×猫のことわざ・有名な言い伝え(言い習わし)
人間にとって身近な動物、猫の動作を元にした天気のことわざをご紹介します。猫はペットとして人気ですが、野生時代の習性に由来して、天気を暗示する仕草を見せることが多いのも特徴です。
猫が顔を洗うと雨
「猫が顔を洗うと雨」ということわざは、一度は見聞きしたことがある方もいるかもしれません。猫にとって「顔を洗う」とは、おもに前足で顔を拭う動作のことを表します。特に猫を飼っている人にはなじみのある仕草でしょう。
猫は動物の中でもきれい好きで、毛づくろいを頻繁に行います。エサを食べた後に口のまわりの食べかすを取り除いたり、ヒゲや顔の毛並みを整えたりする目的で、顔を洗う動作を行います。
顔を洗う仕草と天気の関係は、猫にとってはセンサーの役割があるヒゲにヒントがあるようです。猫のヒゲは神経が集中する感覚器官で、とても敏感です。湿気や空気の変化を感じ取ることができるといわれています。
「猫が顔を洗うと雨が降る」ということわざは、雨の予兆で湿気が高くなるとヒゲが重くなり、これを整えるために顔を洗う仕草をすることと関係があるようです。
猫がよく寝ると雨
「猫がよく寝ると雨」ということわざは、もともと猫の祖先が砂漠で狩りをしていたことに関連します。
猫の祖先のおもな食料は、捕獲したネズミでした。しかし、雨が降る日に狩りに出ても、そもそも獲物も外にいないのであまり意味がありません。したがって、雨の日は狩りを休んで体力を温存するのです。
こうした猫の狩猟本能に基づく生態が、「猫がよく寝ると雨になる」という言い伝えになったと考えられます。
天気×鳥のことわざ・有名な言い伝え(言い習わし)
トンビやツバメなどの飛ぶ鳥も、天気のことわざによく登場します。特に渡り鳥は日本に飛来する季節が限られているので、天気予報のない時代、ある季節の大気の状態を教えてくれる貴重な存在だったと考えられます。
トンビが高く飛ぶと晴れ
「トンビが高く飛ぶと晴れ」も、全国的によく知られていることわざです。
トンビは日本で1年中見られ、季節による地域移動をしない鳥です。秋や冬の天気のよい日に、トンビが上空で円を描くように飛んでいる光景を目にしたことがある人は多いのではないでしょうか。トンビは高い空を大きく旋回しながら下の方にいる獲物を目ざとく見つけ、さらうように捕獲します。
トンビが高く飛ぶのは日中の風が穏やかな時間帯で、地温が上がっているときです。このとき、地面から湯気が立ちのぼる要領で、上昇気流が発生していると考えられます。トンビは上昇気流に乗って飛ぶため、高気圧に覆われていると考えられこのことわざに繋がったといえそうです。
ツバメが低く飛ぶと雨
「ツバメが低く飛ぶと雨」ということわざもあります。ツバメはトンビとは対照的に、暖かい国で冬を過ごし、日本では夏を過ごす渡り鳥です。
ツバメのエサは、ハエや蚊、ハチといった、羽がある飛んでいる虫です。雨が近づき、空気中の水分が増え湿度が上がるとこれらの虫の羽が重くなるため、滞空する高度も下がるのです。
したがって、それらの虫を捕食するツバメの飛ぶ位置も低くなると考えられます。こうした背景で「ツバメが低く飛ぶと雨」ということわざになったのです。
スズメが朝早くからさえずる時は晴れ
朝鳴く鳥といえばスズメですよね。「チュンチュン」という鳴き声が聞こえてくるのは、天気がよい日の空が明るくなる時間というイメージです。
スズメは日が昇る前から活動する習性を持つ鳥です。太陽光が刺激となって活動を始めるため、雲のある日よりも晴れた日のほうが早い時間からさえずるということがわかっています。また、夜の間に雨が降っている日でも、朝に雨が止む場合はそれを察知して鳴き始めます。
雨が止むかどうかが気になる空模様の朝には、スズメの鳴き声を参考にするとよいでしょう。
天気×虫のことわざ・有名な言い伝え(言い習わし)
トンボ、セミ、クモなど、虫が登場する天気のことわざも多く見られます。鳥と同様、それぞれが活動的になる季節と関連させて覚えておくとよさそうです。
クモの巣に朝露がかかっていると晴れ
クモの活動が目立ち始めるのは3~4月頃の春先です。
屋外の植木などにかかっているクモの巣に、玉のような細かな水滴が付いている光景を目にしたことはあるでしょうか。普段はあまりよいイメージでないクモの巣が、そのときはきれいに見えて印象に残っている人もいるかもしれません。
「クモの巣に朝露がかかっていると晴れ」は、放射冷却現象のメカニズムと関係していると考えられます。
放射冷却現象は、高気圧に覆われるなどして夜間よく晴れた日に、地面の熱が大気中に逃げていった結果、地表付近の温度が下がって冷えこむという現象です。朝露は、そうした夜間の気温変化を背景に、大気中の水蒸気が水に変わるという原理で発生するため、「クモの巣に朝露が付く=天気がよい」ということにつながるのです。
トンボが低く飛ぶ時は雨
「トンボが低く飛ぶ時は雨」は、「ツバメが低く飛ぶと雨」に類似することわざです。日本のトンボの成虫は、春から秋にかけて見かけることが多くなります。
ツバメと同様、トンボの成虫のエサは、空を飛んでいるハエや蚊、ガやチョウです。ツバメと同じ理由で、雨の日はそれらの虫が低く飛ぶために「トンボが低く飛ぶ時は雨」といわれています。
セミが鳴きやむと雨
夏の風物詩であるセミは、晴れの日は騒がしく鳴き続けていますが、雨が降る前になるとピタリと鳴きやむことが多い印象です。
暑い時期の夕立やゲリラ豪雨など、急な雨が気になるときには、セミの声の様子に耳を傾けてみるとヒントになるかもしれません。
天気のことわざ・有名な言い伝えを知ると、日常生活にも役立てられる
気象予測の技術が発展した現代でも、伝わり続けている天気のことわざを全部で14種類ご紹介しました。
気象予測には常に最新テクノロジーが反映され、予報の精度は年々上がっています。それでも昨今の世界規模での気候変動の影響や、局地的かつ突発的な降雨までカバーしきれるものではありません。
天気のことわざが現在に至るまで伝承されてきたのは、それだけ信頼性が高かった証しでもあります。天気のことわざを、予測のヒントやちょっとした話題として、生活に役立ててみてくださいね。