一般社団法人鉄道模型コンテストは、8月19~21日の3日間、新宿住友ビル内三角広場にて「鉄道模型コンテスト2022」全国大会(東京大会)を開催した。昨年に続いて新宿で全国大会が行われ、今年は昨年(120校が参加)を上回る160校が参加したという。

  • 「全国高等学校鉄道模型コンテスト2022」、シカゴの街並みが文部科学大臣賞(最優秀賞)に

一般の個人は、「T-TRAKジオラマコンテスト」および「ミニジオラマサーカス」に出展でき、そちらも多数の出展が見られた。その中から今回は、「第14回全国高等学校鉄道模型コンテスト」の優秀作品を紹介する。

■直線・曲線の線路沿いに情景を作り込むモジュール部門

会期中、会場前方のステージにて、各校の作品プレゼンも行われ、会場内で自身の作品を紹介した。現地に来ることのできなかった参加校はオンラインで、現地の来場者らにプレゼンを行う。それと並行して、会場内でも各校の生徒が、来場者に自身の作品について話す様子が見られ、その熱意が筆者にも十分に伝わった。一般来場者も家族連れからシニアのファン層までさまざま。写真を撮るだけでなく、生徒に質問する姿も見られた。

コンテストの審査結果は、最終日(8月21日)の16時に発表。モジュール部門、1畳レイアウト部門、HO車輌部門の3部門でそれぞれ審査が行われた。まずはモジュール部門から紹介。長辺900mm・短辺300mm・高さ100mmの直線モジュールボード、または一辺600mm・高さ100mmの曲線モジュールボードに、規定に従って情景を作り込んでいく。作品全体の高さを450mm以下に収めた上で、線路敷設や電飾などの各種規格にも沿って情景を作り込む。

  • 灘中学校・高等学校が文部科学大臣賞を受賞。シカゴの街並みを忠実に再現した

モジュール部門の最優秀賞にあたる文部科学大臣賞に選ばれた灘中学校・高等学校は、高架鉄道「Chicago L(シカゴ・L)」の走るシカゴの街並みを制作。Googleマップを参考に、ほぼすべての建物を3Dプリンターで作成した。

「Chicago L」の高架橋は、レーザーカットで作成した1,000個以上のパーツを組み合わせて制作したという。その上で、細かなパーツはプラ板やプラ角棒で自作した。「Chicago L」のダイヤモンドクロスだけでなく、展示状態では見づらい橋の裏側なども、実物を忠実に再現。シカゴ川に架かる可動橋を見ると、構造の複雑さや再現度も垣間見えるだろう。

  • 「Chicago L」のダイヤモンドクロス

  • 高架橋の下も細かく作り込んでいる

  • 高層ビル群の中に、絵本にちなんだ「ちいさいおうち」も

高層ビルには3Dプリンターの強みが生きており、複雑な装飾まで見事に再現されている。さらに、『ちいさいおうち』(文・絵 / バージニア・リー・バートン 訳 / 石井桃子 岩波書店)に登場する「ちいさいおうち」を遊び心で添えたという。総じて、上から見ても下からのぞき込んでも完成度の高さがうかがえ、なおかつ絵本にちなんだ遊び心も楽しい作品となった。

優秀賞は白梅学園清修中高一貫部と鹿児島第一高等学校が受賞した。白梅学園のモジュールは、山形県の銀山温泉をイメージした作品に。谷間に造られた温泉街を、実際の風景を参考にしながら、丁寧かつ高い密度で再現した。街を歩く人々にストーリー性があり、足湯をはじめ、浴衣モデルとカメラマン、団子の食べ歩き、ガイドツアーなど、観光地のにぎわいが聞こえてくるかのよう。旅館にある絵や看板は、銀山温泉で取材したものを再現したという。

  • 銀山温泉をイメージした、白梅学園清修中高一貫部のモジュール作品

  • 山道の下、川沿いに広がる温泉街の絶景

  • モデルとカメラマン、足湯、食べ歩きなど、温泉街の人々にも注目

しかし、それだけ力を込めて作った街並みを、線路の外周側に山を設けることであえて隠している。そのため、見る位置によって作品の見え方も変わってくる。とくに、木々の間からのぞき込むと、バスが通る山道や、その奥に街並みと滝が映る絶景となり、そのために山の木の本数も計算したとのこと。内周側の中心に配置した滝、温泉街を流れる川、足湯といった異なる水の表現も見事に作り分け、生徒らの強みも表れた作品に見受けられた。

一方、鹿児島第一高等学校は、鹿児島市電のいづろ通電停周辺をベースに、「おはら祭」を再現した作品を制作。工作用紙で自作した建物とアーケードを置き、内周側に商店街を制作した。中でも鹿児島県を代表する百貨店「山形屋」が特徴的。ドームを有するレトロな雰囲気を自作で再現した。

  • 鹿児島第一高等学校による「おはら祭」を再現したモジュール作品

  • 自作の商店街を背に踊り子が練り歩く。アーケード下に多数の観客も

  • 特設ステージと花電車も再現。このバイクはあの番組のロケか

線路を挟んで左右の端から端まで、道路上に総勢約350人の踊り子を配置しており、着物に鹿児島県の伝統工芸品「大島紬」を用いているという。お祭りの小物類、ステージ、花電車も再現。ステージ前には、あのテレビ番組のロケ風景も。じつは、踊り子の素体はすべて爪楊枝で作られており、結果発表時の講評を聞くまで筆者も気づかなかった。その上で、鹿児島県の要素も密度高く落とし込まれており、時間の許す限り眺めていたくなるような、にぎやかな作品だった。

■畳1畳までの大きさで鉄道風景を再現、1畳レイアウト部門

続いて1畳レイアウト部門を紹介。600mm×900mm~910mm×1,820mmの寸法で、Nゲージのレイアウトを制作する部門となっている。作品全体の高さは700mm以下にしつつ、各校がさまざまなレイアウトを出展。会期中、各校が用意した車両を走行させた状態で展示されていた。

その中から、岩倉高等学校によるえちごトキめき鉄道沿線のレイアウトが最優秀賞に選出された。「直江津 D51 レールパーク」のある直江津駅とその街並みを中心に配置し、スイッチバックのある妙高はねうまライン二本木駅をボードの端部に配置。山の区間へ向かっていく途中の高架線に、北越急行ほくほく線の要素を取り入れていることも注目したい。

  • 岩倉高等学校のえちごトキめき鉄道レイアウト。中心に直江津駅を制作し、「直江津 D51 レールパーク」も

  • ほくほく線風の高架区間や内陸の田んぼも再現。日本海ひすいラインのセクションには海もある

日本海ひすいラインをイメージした区間では、日本海の情景やトンネルも再現。直江津駅は開業から136年とのことで、鉄道開業150年に近い長い歴史を持っている。鉄道開業150年になぞらえつつも、飽きの来ないように越後の風景が凝縮されており、コンテストが終わった後もさまざまな車両を走らせたり、写真を撮影したりなどもできそうに思えた。

優秀賞は白梅学園清修中高一貫部。「中華ファンタジー」というテーマでレイアウトを制作した。マンガから着想を得て、実在しない世界観をめざしたという。線路の内周に置かれた建物だが、川を挟んで左側にレストラン、接骨院、銀行、右側には化粧品屋、舞台、布屋を配置。いずれも金属キットを組み立てたとのことで、金属の光沢が目を引き、吊り下げられた提灯が揺れているところも印象的だった。ハードルの高いキット組立だったことが予想されるが、見事に完成させ、レイアウト上で存在感を発揮していた。

  • 中華ファンタジーな世界観のレイアウト。水の表現にもこだわりがうかがえる

レイアウト奥にある滝にも注目。一見、何の変哲もないが、部員によると、クリアファイルをカットし、水の表現を加えて作ったという。川は、プラ板に波の表現を加えることで表現している。橋も世界観に合わせ、プラ板や角材で自作している。難しいキット工作に挑みつつも、身近なものをジオラマの情景に生かしたことに、筆者も驚いた。

■HOスケールの車両を手作りするHO車輌部門

最後にHO車輌部門の結果を見ていく。HO車輌部門の最優秀賞は、国鉄80系を制作した芝浦工業大学附属中学高等学校が受賞。鉄道開業150年を記念して、歴史に残る名車両を制作したという。車体は紙で制作したとのことだが、側面を3重にすることで、窓やドアの奥行きも再現している。前面の手すりやパンタグラフ周りの配管類には真鍮線を使用。10両分の内装・座席も作り込んでおり、もともと紙だったとは思えないほど精巧かつ迫力のある編成が学生の手によって実現した。

優秀賞は、えちごトキめき鉄道413系・クハ455-701「観光急行」を制作した大阪府立今宮工科高等学校が受賞。前面・側面ともに大部分を紙で制作した。車体の曲面の多さや、交直流電車特有の機器類の再現に苦労したようだが、見事に完成させている。413系の車体とクハ455-701の車体も作り分けており、クハ455-701の前面に「越後」のヘッドマークも掲出されていた。

  • 芝浦工業大学附属中学高等学校の80系と、今宮工科高等学校の「観光急行」が優秀作品に

これらの賞の他にも、審査員特別賞、加藤祐治賞、投票者が選ぶベストワン賞、鉄道開業150年にちなんだ「鉄道開業150年賞」など、部門ごとに多くの賞が用意され、多くの参加校が受賞を果たした。

受賞校の発表後、審査委員長を務めたジオラマ作家の諸星昭弘氏が講評を行った。モジュール部門の優秀作品3点を例に挙げ、最新技術を駆使して出力したものを組み立て、難しい作品を完成させたこと(灘中学・高校)、身近にあるもので手作りし、手間のかかる作業を諦めずに続けたこと(鹿児島第一高校)、細かく作り込んだものを隠すコンセプトや、来場者へ作品の魅力を伝える熱意(白梅学園)を評価した。

最後に諸星氏は、「デジタルとアナログに関しては、機械を自分のところでそろえられるなど、差があると思いますが、デジタルの環境がある方はそれを一生懸命やっていただいて、アナログでやる方は自分の手が生み出すものの素晴らしさを感じて、また来年ここで皆さんの作品を見させていただくことを楽しみにしております」とコメントした。

今年のコンテストでは、北は札幌から南は鹿児島まで、参加校が大幅に増え、昨年よりさらに活気のあるコンテストになったと感じる。完成度の高さも重要なことではあるが、既製品にないものを自分で作り上げる良さもジオラマ制作にはある。そうして部員らで協力し、ひとつの作品を作り上げることができたときの喜びや達成感は、学生時代の特別な思い出になるかもしれない。

「第14回全国高等学校鉄道模型コンテスト」に出展されたすべての作品は、「鉄コンアプリ」で閲覧可能。アプリをインストールしていない場合はウェブ版も閲覧できる。全国高等学校鉄道模型コンテスト公式Youtubeチャンネルにて、各参加校の作品紹介およびプレゼンテーション動画や、当日のライブ配信のアーカイブも公開されている。当記事で書ききれなかった力作が多数存在しているので、アプリや動画とも合わせ、高校生たちの作品を鑑賞してほしい。