里見香奈女流五冠がプロ棋士を目指す、棋士編入試験五番勝負の第1局が8月18日(木)に関西将棋会館で行われました。試験官は新四段5名の担当で、第1局では徳田拳士四段が務めました。結果は127手で徳田四段が勝ち、里見女流五冠にとっては手痛いスタートとなりました。

本局は振り駒の結果、徳田四段の先手番となりました。里見女流五冠は得意の中飛車を採用します。5筋の位だけでなく、序盤早々に△9五歩と端の位を取ったのが趣向でしょう。対して徳田四段は中央に金銀を集め、後手の5五の歩を目標に、位の奪還を図りました。

里見玉は美濃囲いに納まっていますが、左金が3二で先手の攻撃に備えているため、この金を囲いに加えることが難しい状況です。ただ、序盤で取った位のおかげで後手玉のほうが懐が広いのは利点といえます。

■機敏なスナイパー

戦いが始まり、お互いの角と銀が交換となりました。直後に徳田四段は▲2六角と自陣にスナイパーを設置。持ち駒の角を手放すだけに決断の一手ですが、3二金型の薄みを突いたこの一着が急所を突いた好手でした。里見女流五冠は△6二銀と銀を投入して受けざるを得ませんでした。この角のにらみを生かして、形勢は徐々に徳田四段がリードしていきます。

局面が進み、里見女流五冠の飛車は端に追いやられ、盤上に打った角は2二の位置で助からない格好。さらに中央の制空権を握られています。見るからに大ピンチです。

■強烈な勝負手

ここで相手の角銀の利きにガツンと△4四銀と打ち付けた手が里見女流五冠の勝負手でした。▲同銀なら△同角で取られそうな角を助けることに成功します。徳田四段は▲2六角と、一度は角をかわしました。

対して里見女流五冠は△5五銀と進出し、先手の6六の金にぶつけました。▲5五同金には△同角が王手飛車。強引な中央突破ですが、取られそうな2二の角が8八にいる先手玉をにらんで大迫力です。にわかに景色が変わってきました。

■ひらりとかわして徳田四段が優位に

ここで徳田四段は▲7五金と体をかわしました。マタドールのような身のこなし。

2二にいる後手の角の利きが直接8八の玉に届く格好になるのでドキッとしますが、△6四銀の開き王手に対し、▲2二成桂と角を取る手がギリギリ間に合いました。ここで先手の駒得が確定。里見女流五冠は薄い先手玉へ迫りますが、徳田四段が手厚く自陣に戦力を投入すると、先手の駒得が生きてきます。

こうなっては里見女流五冠といえども手段に窮しました。乏しい攻め駒で必死に迫りますが、後手の攻めを完封しようとする徳田四段の方針は徹底しています。最後は刀折れ、矢尽きる形で里見女流五冠が投了しました。

実は徳田四段は今年の4月にデビューしてから、ここまで公式戦で12勝1敗と、9割超えのペースで勝っている、期待の新鋭です。本局に関しては勝率1位男の面目躍如といったところでしょう。

初戦は残念な敗戦となった里見女流五冠ですが、本局は後手番ということもあり、主導権を握りやすい先手番での巻き返しは大いに期待されるところ。その先手番となる次局の対戦相手は岡部怜央四段、居飛車党の新鋭です。棋士編入試験の第2局は9月22日(木)に、東京の将棋会館で行われます。

相崎修司(将棋情報局)

長丁場の編入試験、2局目以降の巻き返しに期待がかかる(写真:日本将棋連盟)
長丁場の編入試験、2局目以降の巻き返しに期待がかかる(写真:日本将棋連盟)