子どもから大人まで、幅広い年代に親しまれている昔話、かぐや姫。かぐや姫といえば、主人公が最後に月へ帰ってしまう、儚い(はかない)物語ですよね。本記事では、かぐや姫のあらすじを、教訓とともにご紹介します。
また、原作といわれる竹取物語とかぐや姫の大きな違いである、結末についても詳しく解説します。この記事を読めば、かぐや姫の魅力がわかり、さらに面白く感じるでしょう。
昔話・かぐや姫とは? あらすじを簡単にまとめると
まずはかぐや姫の登場人物とあらすじを簡単にご紹介します。地域などによって細かい違いはありますが、ここでは一般的な登場人物とあらすじをまとめました。
登場人物
■かぐや姫
本作の主人公。竹の中にいたところをおじいさんに見つけてもらい、一緒に暮らすようになる。
■おじいさん
竹の中からかぐや姫を見つけ、家へ連れて帰り育てる。
■おばあさん
おじいさんの妻。おじいさんと一緒にかぐや姫を育てる。
■石作皇子(いしづくりのみこ)
1人目の求婚者。かぐや姫から仏の御石の鉢を持ってくるよう言われる。
■車持皇子(くらもちのみこ)
2人目の求婚者。かぐや姫から蓬莱(ほうらい)の玉の枝を持ってくるよう言われる。
■右大臣阿倍御主人(うだいじんあべのみうし)
3人目の求婚者。かぐや姫から火鼠の皮衣(ひねずみのかわごろも)を持ってくるよう言われる。
■大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)
4人目の求婚者。かぐや姫から竜の首にある五色の玉を持ってくるよう言われる。
■中納言石上麻呂(ちゅうなごんいそのかみのまろ)
5人目の求婚者。かぐや姫から燕の子安貝(つばめのこやすがい)を持ってくるよう言われる。
■帝(みかど)
国で一番偉い身分。かぐや姫のうわさを聞き、結婚を申し込む。
かぐや姫の簡単なあらすじ(ネタバレあり)
ある日おじいさんは、光り輝く竹の中に座っている小さなかぐや姫を見つけ、連れて帰ります。美しく成長するかぐや姫。多くの男性がかぐや姫に求婚します。しかし、かぐや姫は男性たちに無理なお願いをして結婚を断ります。
やがて、かぐや姫は自分が月から来たことを、おじいさんとおばあさんに打ち明けるのです。おじいさんたちが必死で引き留めるものの、かぐや姫は月へ帰っていきます。
かぐや姫のより詳しいあらすじ、結末(ネタバレあり)
かぐや姫のあらすじをさらに詳しく解説していきます。
竹から生まれたかぐや姫
あるところに、竹取翁(たけとりのおきな)と呼ばれるおじいさんがいました。いつものように竹を取りに山に行ったおじいさんは、光る竹を見つけます。竹の中には小さな女の子が座っていました。そこで家へ連れて帰って育てることにしました。
おじいさんとおばあさんは女の子に「かぐや姫」と名付けます。女の子は、見る見るうちに美しく成長していきました。
また不思議なことに、かぐや姫と暮らすようになってから、おじいさんが山へ竹を取りに行くたびに光り輝く竹がありました。その中にはたくさんの小判があり、おじいさんたちはお金持ちになりました。
美しく成長したかぐや姫が求婚者に出す5つの難題
やがてかぐや姫の美しさは国中でうわさになり、多くの男性たちが結婚を申し込みます。しかし、かぐや姫は誰とも結婚する気がありません。
その中でもどうしてもかぐや姫と結婚したい、身分の高い5人の男性がいました。かぐや姫は「私が望むものを持ってきてくれた人の妻になりましょう」と言います。結婚を諦めてもらうため、かぐや姫は5人の男性に無理なお願いをしたのです。お願いしたものは、以下の通りです。
石作皇子(いしづくりのみこ)…仏の御石の鉢
車持皇子(くらもちのみこ)…蓬莱(ほうらい)の玉の枝
右大臣阿倍御主人(うだいじんあべのみうし)…火鼠の皮衣(ひねずみのかわごろも)
大納言大伴御行(だいなごんおおとものみゆき)…竜の首にある五色の玉
中納言石上麻呂(ちゅうなごんいそのかみのまろ)…燕の子安貝(つばめのこやすがい)
5人の男性はかぐや姫と結婚するために、お金や権力を使って、お願いされたものをなんとか手に入れようとします。
しかし、偽物を持ってきたり、手に入れられなかったりと、結局誰もかぐや姫と結婚できませんでした。
かぐや姫のうわさは帝の耳にまで届く。かぐや姫の正体は?
かぐや姫のうわさは、国で一番偉い身分である帝の耳にまで届きます。しかし「誰であってもお会いしません」と、帝からの求婚すら断るかぐや姫。
それから3年が過ぎた頃、かぐや姫は月を見るたび泣くようになりました。理由を聞くおじいさんたちに、かぐや姫は自分が月から来たことを打ち明けます。さらに、次の十五夜に月へ帰らなければいけないと告げるのです。
月へ帰るかぐや姫
おじいさんたちはかぐや姫を月へ帰らせないように帝に相談します。迎えた十五夜。帝から遣わされたたくさんの兵士が、かぐや姫を守ります。
しかし、空が昼のように突然明るくなり月の人々が降りてきた途端、誰も身動きが取れなくなってしまったのです。かぐや姫はおじいさんとおばあさんに別れを告げ、月へ帰っていきました。
かぐや姫の原作は竹取物語といわれる
かぐや姫の原作は『竹取物語』であるといわれています。竹取物語は平安時代初期に作られた、日本でもっとも古いとされる物語です。
竹取物語が最初に書かれた明確な時期や作者は不明です。しかし、紫式部が平安時代中期に書いた『源氏物語』の中に「物語の出で来はじめの祖(おや)なる竹取の翁」とあることからも、竹取物語は平安初期に成立したと推定されているのです。
かぐや姫にはモデルとなる人物が実在する?
かぐや姫は、奈良時代の歴史書である『古事記』に登場する、迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)がモデルとして有力だといわれています。迦具夜比売命は、第11代垂仁天皇(すいにんてんのう)の妃(きさき)です。
迦具夜比売命の父は、大筒木垂根王(おおつつきたりねのみこ)といいます。竹は筒状の木であることから「筒木」と関わりがあるとも考えられるでしょう。
さらに、迦具夜比売命の曾祖母は丹波竹野媛(たにわのたかのひめ)、叔父は讃岐垂根王(さぬきたりねのみこ)です。
かぐや姫に登場するおじいさんは「竹取翁」と呼ばれていますが、竹取物語によると名は「讃岐造(さぬきのみやつこ)」とあり、叔父の名前と縁が深い名前と考えることもできます。
古事記に登場していることが根拠のため、彼らが実在したのか確認はできません。しかし、成立時期や竹と関わりが深い名前の関係性から、かぐや姫のモデルは迦具夜比売命ではないかといわれているのです。
かぐや姫に登場する貴族は実在する?
かぐや姫に登場する5人の男性について、江戸時代の国学者・加納諸平(かのうもろひら)は著書「竹取物語考」にて、以下の実在する5人をモデルとしていたのではないかと指摘しました。
石作皇子
飛鳥時代の貴族である、多治比嶋(たじひのしま)。左大臣正二位まで昇る車持皇子
飛鳥時代から奈良時代に活躍した貴族の藤原不比羅(ふじわらのふひと)。母が車持氏右大臣阿倍御主人
飛鳥時代の貴族である阿倍御主人(あべのみうし)。もとは布勢御主人(ふせのみうし)だったが、694年に阿倍氏の氏上となった以降は阿倍氏を称した。大納言大伴御行
飛鳥時代の貴族である、大伴御行(おおとものみゆき)。壬申の乱で天武天皇を助けた功臣とされる中納言石上麻呂
飛鳥時代から奈良時代の貴族である石上麻呂(いそのかみのまろ)。中納言から大納言、最後は左大臣になった
かぐや姫は飛鳥時代から奈良時代にかけての物語といわれており、この5人はいずれも飛鳥時代に起こった「壬申の乱」に関係のある人々です。
かぐや姫のふるさと・ゆかりの地はどこ?
かぐや姫のふるさとは諸説ありますが、有名なのは現在の奈良県北葛城郡広陵町といわれています。
かぐや姫に登場するおじいさんは、竹取物語で「讃岐造」と呼ばれています。つまりおじいさんは讃岐村を治めていた人物である可能性があるのです。讃岐村を治めていたのは豪族の讃岐氏と考えられますが、前述のように古事記には讃岐垂根王という人物の記載があります。そして、讃岐垂根王をはじめとする讃岐氏を祀ったとされる讃岐神社が、奈良県北葛城郡広陵町に存在するのです。
また前述した、かぐや姫のモデルとされる迦具夜比売命の夫・第11代垂仁天皇の御陵(皇室の墓)は、同じく奈良県内、現在の奈良市尼辻西町にあります。さらに叔父である讃岐垂根王は第9代開化天皇の孫にあたりますが、その開化天皇の御陵は、現在の奈良市油阪町にあります。
さらに、同じく前述のかぐや姫に求婚した5人の男性のモデルが住んでいたのは、当時の都があった飛鳥京(現在の奈良県高市郡明日香村)か、藤原京(現在の奈良県橿原市醍醐町)が有力です。
電車や自動車といった交通機関がない時代に、頻繁にかぐや姫のもとへ行くのであれば、自分たちとかぐや姫の住んでいる場所が近場である必要があります。これらのことから、奈良県北葛城郡広陵町がかぐや姫のふるさとではないかといわれているのです。
かぐや姫と竹取物語の違いとは
ここからはかぐや姫と竹取物語の違いについて、解説していきましょう。
かぐや姫は子ども向けのお話
男性たちからの求婚を断り、月へ帰っていく結末で終わることが多いかぐや姫。かぐや姫は、竹取物語を子ども向けにわかりやすく紹介したお話といわれています。
一方、竹取物語は滑稽な風刺を効かせつつ、貴族社会への批判を書いた物語とされています。実際に物語では、5人の貴族がかぐや姫の無理難題に挑み失敗しますが、そんな男性たちにかぐや姫が皮肉を述べるシーンも登場するのです。
竹取物語は、知的な言葉遊びを楽しみつつ、人物の性格や心理、苦悩までが書かれている現実味のある作品でもあります。
「かぐや姫の昇天」の部では不死の薬が出てくる
さらに竹取物語には、一般的なかぐや姫には描かれていない、不老不死になれる薬が登場します。竹取物語は「かぐや姫の生い立ち」「5人の貴公子と帝(みかど)の求婚」「かぐや姫の昇天」の三部構成から成りますが、その最後の部に不死の薬の記載があるのです。
別れの際、不死の薬をおじいさんとおばあさん、そして帝に渡すかぐや姫。かぐや姫がいなくなり、皆は悲しみにくれます。その後おじいさんとおばあさんは悲しみで床に伏せてしまいます。
また帝は、「かぐや姫がいない世界ならこんな薬はいらない」と、月から一番近い、つまり一番高い山で不死の薬を焼くように家来に命じ、大勢の兵士が山に登り薬を焼きました。
それ以来、駿河の国(現在の静岡県)にあるその山のことを、「不死の薬」から「不死の山」と呼ぶようになった、あるいは「(兵)士に富む山」から「富士の山」と呼ぶようになったとされ、それが現在の「富士山」の名前の由来の一つであるといわれています。
このように、登場人物が悲しみにくれて病気になってしまうなど刺激的な描写があるため、子ども向けの一般的なかぐや姫のお話では、かぐや姫が月へ帰っていくところで終わることが多いのでしょう。
かぐや姫からわかる教訓と感想
お金や権力を使っても人の気持ちは手に入らないということが、かぐや姫からわかる教訓です。実際に男性たちがあがいても、かぐや姫は結婚を断ります。
またかぐや姫が結婚を断り続けた理由は、自分が月から来たからということだけではないはず。きっと地球での限りある時間を、ほかの誰でもなく、育ててくれたおじいさんとおばあさんと一緒に過ごしたかったからではないでしょうか。お金や権力よりも大切なものがあることを、かぐや姫の物語は教えてくれます。
高畑勲監督のスタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』(2013)も話題に
2013年に公開された映画『かぐや姫の物語』は『竹取物語』を原作として、高畑勲さんが原案・脚本・監督を務めたアニメーション作品。キャッチコピーは「姫の犯した罪と罰。」です。筋書きは『竹取物語』に沿いながらも、幼馴染みの捨丸(すてまる)の登場や、『竹取物語』では触れられていなかったかぐや姫の「心」を描くなど、独自の視点で『竹取物語』を再構築しています。
故・地井武男さんをはじめとする名優たちが声優を務め、音楽は久石譲さんが担当しました。
かぐや姫のあらすじから、お金や権力よりも大切なものがわかる
本記事では、かぐや姫のあらすじをまとめました。結婚の申し込みをする男性たちに、無理難題を出すかぐや姫。男性たちはお金や権力を使って、かぐや姫となんとか結婚しようとします。
しかし、かぐや姫の気持ちは手に入りません。いくらあがいても人の気持ちは手に入らないことが、かぐや姫からわかる教訓です。
かぐや姫は子ども向けに作られたお話といわれており、結末が原作の竹取物語と異なります。その違いを知った上で改めてかぐや姫を読むと、さらに面白く感じられるかもしれません。