コロナ禍によって地域経済が疲弊するなか、地方の中小企業はより切実にIT化の道を模索している。長野県佐久市でプラスチック成形を行うエンプラも、紙書類のデータ化に悩んでいた。そんな同社の相談を受け、AI-OCR「AIよみと~る」を提供したのがNTT東日本だ。

  • (左から)エンプラ代表取締役社長 遠藤孝則氏、エンプラ成形課課長 田中 丹氏、エンプラ総務課 桜井大志氏、NTT東日本 上田営業支店 第一ビジネスイノベーション部 中村英二氏、担当課長 丸山督弘氏

高いプラスチック成形技術を持つ長野県佐久市のエンプラ

長野県佐久市のエンプラは、昭和31年に創業したプラスチック射出成形を専門とする会社だ。「プラスチックで豊かな社会を創造する」ことをモットーとし、金型設計・製作から成形・加工・組立、そして検品・出荷に至るまで、自社工場で一貫生産を行っている。民生品から産業部品までさまざまな製品作りを行っており、業務用のエアコンカバーや自転車のパーツ、セインサー系の部品など、その分野は機構部品から外装品まで種々雑多にわたる。

  • 65年以上前からプラスチック成形を専門にしてきたエンプラ

  • 大型の射出成形機を備え、分野を問わずさまざまな製品を作っている

  • 自社工場での一貫生産を実施しており、工場内ではさまざまな業務が行われている

  • プラスチック材料のひとつ、ポリプロピレン(PP)

同社は2020年より現場環境の改善に取り組んでおり、そのなかで徐々にICT化を進めてきた。近年は、NTT東日本の「ギガらくWi-FI」による営業所および工場内のWi-Fi環境を構築したり、サーバーを検討する中で「コワークストレージ」の導入を行ったりしている。

そんなエンプラが新たに導入したのが、AI技術を使って手書き文字の認識・読取を行い、データ化するOCRサービス「AIよみと~る」だ。導入の経緯とその効果について、エンプラの代表取締役社長 遠藤孝則氏、成形課課長 田中 丹氏、総務課 桜井大志氏、NTT東日本 上田営業支店 第一ビジネスイノベーション部の担当課長 丸山督弘氏、中村英二氏に伺ってみたい。

約6,000枚の成形条件表をデータベース化

射出成形は、金型を使って加工を行う、プラスチックの代表的な加工方法。不良なく製品を生産するためには、各工程において温度、圧力、時間などの条件を適切に設定しなくてはならない。そのための値を記載した書類を「成形条件表」と呼ぶ。

  • プラスチックの射出成形に使われる金型

古くからプラスチック加工を行ってきたエンプラには、これまで生産してきた製品の数だけ成形条件表がある。だが事業拡大に伴い、紙の書類のまま使い続けることが難しくなってきた。代表取締役の遠藤氏は、その理由として以下の4つの問題を挙げる。

  1. 古い成形条件表は手書きで、記入者ごとに字のクセがあり、読み間違えが発生していたこと
  2. 製品数が増えるに従い、保管する書類棚のスペースが足りなくなってきたこと
  3. これまでに作成した成形条件表は約6000枚に上り、検索に時間を要すること
  4. 成形条件表をデータベース化したいが、手入力には多くの時間と手間がかかること
  • エンプラ代表取締役社長 遠藤孝則氏

  • 成形条件表等を収めた書類棚

  • 紙に手書きされていた、従来の成形条件表

こういった課題感があるなかで、2020年8月、偶然「ギガらくWi-FI」の営業でエンプラを訪れたのがNTT東日本 上田営業支店の中村氏だ。遠藤氏が成形条件表の話をしたところ、OCRサービス「AIよみと~る」の紹介を受けたという。成形課の課長を務める田中氏は、「AIよみと~る」の導入を決めた経緯を次のように語る。

「当初は半信半疑でしたが、トライアル期間があるということでひとまず試してみました。ですがNTT東日本 上田営業支店の方に説明されてもよく使い方が分からず、東京からサービスセンターの方が講習に来て、丸一日かけて操作を教えてくれました。その後も継続的にサポートをいただき、うまく読み取れない書類については別途プログラムも組んでもらえましたね。その結果、OCRによる文字の認識精度が非常に高いことが分かりましたが、導入を決めた一番の理由は、NTT東日本さんに丁寧でわかりやすい対応をいただいたことだと思います」(エンプラ 田中氏)

  • エンプラ成形課課長 田中 丹氏

こうして、約2週間で「AIよみと~る」の使い方を把握したエンプラ。その後約2カ月間にわたり読み取りを行い、約6,000枚の成形条件表の多くをデータ化することに成功。現在も継続的に利用しているという。

  • AIよみと~るによってデータ化され、印刷された現在の成形条件表

「AIよみと~る」を導入したことで、現場の風景も変わりました。以前は紙の成形条件表を手に成形機を操作していましたが、現在はタブレットを使うようになり、現場で使用する紙の量は大幅に減っています。また、書類棚が増えることもなくなりました。読みにくい字があるため発生していたデータ入力ミスも減り、現場の評価も上々です。現在は成形機に手入力していますが、将来的にはデータ入力も自動化できればと考えています」(エンプラ 遠藤氏)

  • AIよみと~る導入後はタブレットを片手に業務を行うようになった

工場内にWi-Fiを設置しクラウドストレージも導入

エンプラでは、「AIよみと~る」導入後、「ギガらくWi-Fi」の導入も実施している。採用したプランは最新の無線規格「Wi-Fi 6」と最新の暗号化規格「WPA3」に対応した「ハイエンド6 プラン」だ。

  • サポート付きWi-Fiサービス「ギガらくWi-Fi」WEBサイトより

「当社はいくつもの建屋に分かれておりまして、すべてを有線LANで繋ぐことが困難です。とはいえIT化は進めないといけません。おいおいWi-Fiを導入しようと思っていたところ、NTT東日本 上田営業支店の中村さんからお声がけを受けたのです。コストをかけて有線LANを張り巡らせるよりも、最新のWi-Fiでコスト抑えつつ速度が出せるのならばと、導入を決めました。将来的には各種工作機械もWi-Fiに繋げたいと思っています」(エンプラ 田中氏)

  • 設置された「ギガらくWi-FI」ハイエンド6 プランのアクセスポイント

従来は数少ないネット接続端末に人が集中していたが、「ギガらくWi-FI」によって工場の隅々までWi-Fiが行き渡ったことで、だれでもノートPCやタブレットを持ち歩き作業を行えるようになったという。これによって、作業効率も大きく向上したそうだ。

同時に、共同フォルダで相互にやり取りができるよう、クラウドストレージサービス「コワークストレージ」も導入。これまでDVD-Rなどでやり取りしていたデータをネットから参照できるようにした。金型を依頼している外部の会社とのやり取りや、出張中の社員とのやり取りで活躍しているという。

  • クラウドストレージサービス「コワークストレージ」WEBサイトより

NTT東日本 上田営業支店の中村氏は、「それぞれが比較的新しい技術ゆえに、導入でご苦労をお掛けしたかなと思いますし、快適に使っていただけるかという不安はありました。ですが、実際に使って『よかった』という感想をいただけて一安心です」と胸をなで下ろした。

  • NTT東日本 上田営業支店 第一ビジネスイノベーション部 中村英二氏

中小企業のIT化を始めとした地域課題の解決に取り組むNTT東日本

こうした中、昨年エンプラ社内に作られたのがIT化プロジェクトチームだ。入社後半年で同チームに配属された総務課の桜井大志氏は、若い世代から見たエンプラのIT化について、次のように感想を話す。

「いま世の中的にも、全社的にもIT化が進められています。私自身、手作業では生産性が上がらないと実感したところです。現在は主に生産管理をIT化していますが、これからは全体の工程を繋げ、一元的に管理したいと思っています。そうすれば、エンプラにしかない付加価値を生み出せると考えています」(エンプラ 桜井氏)

  • エンプラ総務課 桜井大志氏

さらに遠藤氏は、プラスチック成形を行う会社の代表取締役としての視点から、業界の状況を踏まえ、次のように述べた。

「大企業と比べ、中小企業はやはりIT化の遅れがあります。当社も後発組ですので、その遅れを取り戻そうとがんばっています。ですが、そこまで手が出せない同業者がいることも事実で、格差は広がっていると感じます。NTT東日本さんには、引き続き良い製品の情報提供をお願いしたいと思います」(エンプラ 遠藤氏)

通信会社から、地域課題を解決するソリューション会社へと移行しつつあるNTT東日本。IT化の実現に悩む地方の中小企業は、身近にあるNTT東日本に相談するのもひとつの解決手段になるかもしれない。NTT東日本 上田営業支店の丸山氏は、そんな企業に向けて最後にメッセージを送る。

「我々は地域に根ざした企業のみなさまを支援し、お役に立ちたいと思っています。『課題を解決したい、業務を改善したい、でもどこに相談したら良いのだろう?』と思ったらNTT東日本に気軽にご相談いただければ幸いです」(NTT東日本 上田営業支店 丸山氏)

  • NTT東日本 上田営業支店 第一ビジネスイノベーション部 担当課長 丸山督弘氏