2004年の発売以来、化粧水の定番商品として多くの方に愛されているロート製薬のスキンケアブランド「肌ラボ」。さまざまな企業がサステナブルへの取り組みを進め、リフィル商品を販売しているが、実は化粧水の詰め替えパックは「肌ラボ」が先駆けだそう。

  • ロート製薬の化粧水「肌ラボ 極潤」

実はスキンケアが主力となっているロート製薬

1899年に創業し、目薬・アイケア商品や胃腸薬など、一般用医薬品の会社として多くの人に認知されているロート製薬。近年はスキンケア製品、健康食品にも力を入れており、ロートグループの現在の販売比率は、スキンケア62%、アイケア22%、内服・食品関連13%と、ヘルス&ビューティー事業の比重が大きくなっている。

ロート製薬の現在の総合ビジョンは「Connect for Well-being」。"体だけでなく、心や精神的に、また社会的にもすこやかに"を目指し、健康長寿社会の実現に向けた貢献を進めている。

そんなロート製薬の取り組みのひとつとして、環境への配慮がある。その立役者が、プロダクトマーケティング部 部長の塚田 歩 氏だ。1996年にロート製薬に入社し、その後、営業や調達、商品企画、広報、マーケティングと、さまざまな部署を渡り歩いてきたという。同氏が行ってきたロート製薬の環境への取り組みについて伺っていきたい。

  • ロート製薬 プロダクトマーケティング部 部長 塚田 歩 氏

製薬会社ならではの創薬的な発想で作られた「肌ラボ」

「我々が一番始めに"環境への配慮"を意識したのは、『肌ラボ』だったように思います。2004年に『肌ラボ』ブランドをスタートさせるとき、私は商品企画部門で立ち上げに関わっていました。当時、化粧品というのは"夢を買う"側面が大きく、容器などにお金をかけた、きらびやかな商品が非常に多かった時代でした」

塚田氏はこのように当時を振り返りながら、肌ラボのスタートについて話し始める。化粧品のパッケージに多くの予算が割り振られるなか、塚田氏は「日常の中で健やかな肌に貢献できる、そういうアプローチであれば製薬会社ならではの化粧品提案ができるのでは?」と考えたそうだ。

「医薬品の包装は本当に無駄なものがないじゃないですか。化粧品においてもそんな風に、『本当に必要な成分を、本当に必要な量だけ入れて、お客様の肌にとって一番いいものを作ろう』と。ある種の創薬的な発想を持って作ったのが『肌ラボ』というブランドです」

こうして発売されたのが、当時非常に高価だったヒアルロン酸をふんだんに使用し、なおかつ余分な装飾をなくした、最初の「肌ラボ」だ。いま見てもそのデザインは無駄がなく、いまに至るまでブランドコンセプトである「パーフェクトシンプル」が貫かれていることがわかる。

  • 2004年に発売された「極潤 ヒアルロン液」。当時はビン容器

実は「肌ラボ」が化粧品の世界に"詰め替え"を浸透させた!?

「とはいえ、2004年当時の容器はまだビン容器にラベルを巻いて、プラスチックのキャップがついていたんです。ですが、『使い終わった後のビンを捨てるのがもったいない』というお客さまの意見がありまして、それならばと翌年2005年には容器をプラスチックに変えました。このタイミングで一般向け化粧品としてはおそらく初となる、詰め替え用パックの販売も開始しています」

今でこそ化粧水の詰め替えパックは当たり前の存在だが、2005年の時点ではまだまだ洗剤などの日用品で使用されるパッケージだった。「詰め替えにすることで無駄をなくせるし、お客さまもつかいやすくなるだろう」と企画されたが、当時は「化粧品で詰め替えなんて」「チープ」と多くの反対意見があったという。

  • 2022年現在の「肌ラボ 極潤」。化粧水の詰め替えはもはや欠かせないアイテム

「化粧水は、化粧品の中でも一番使用量が多いものです。洗剤などと同じように、いずれ必ず詰め替えが主流になる時代が来るだろうという感覚はありました。反対意見を押し切って発売したところ、これが非常に多くのお客様に受け入れていただけまして、現在では『肌ラボ』ブランドの化粧水の約6割が詰め替えになっています」

現在では、詰め替え用パッケージの原料が植物由来の原料を用いたバイオマスのパウチパックに変更されており、より環境に配慮した商品になっているそうだ。また2021年には一部の商品でラベルレス容器を数量限定で発売した。

「最近では、商品のキャップ部分につけるポップシールをなくし、ラベル部分に一緒に印刷するという取り組みを行いました。余分なプラスチックがなくてもお客さまにメッセージを伝えられるよう、いろいろな無駄を省いています」

改善された「ロートCキューブ」のパッケージ

化粧品の世界で環境対応が珍しくなくなっている一方で、医薬品の世界ではその歩みは緩やかといえる。これは、医薬品に品質が求められること、薬事法による規制などがからむことが大きな要因だという。そんな状況のなかで環境への配慮に挑戦したのが、同社の目薬「ロートCキューブ」だ。

  • コンタクトレンズの快適性をサポートする目薬「ロートCキューブ」

「今回、ロートCキューブのリニューアルに合わせて、"添付文書レス"をやってみました。実はこれ、もともと医薬品で環境対応しようというのが先にあったわけではなく、お客さまにとって使いやすく、無駄がないようにと改良を進めた結果なんです」

プロダクトマーケティング部では定期的に「ユーザビリティワークショップ」を行っているという。目薬などの医薬品、「パンシロン」などの内服薬、「メラノCC」などの化粧品、それぞれを開発するグループが顧客の気持ちになって他のグループの商品を使い、「愛あるダメ出し」を行うというものだ。

  • ロート製薬 プロダクトマーケティング部で行われている「ユーザビリティワークショップ」

2020年夏、このワークショップの中で「目薬の箱は畳みづらくて捨てにくい」という意見が出たという。目薬の箱は意外と強度があり、ゴミ箱に入れても案外かさばる。従来の「ロートCキューブ」のパッケージは開けやすいようにミシン目で加工してあるが、あくまで上部だけで、畳むには下部をはさみで切らなければいけない。

「そこで、上下両端にミシン目をつけて、指で押すだけで開けられるようにしました。工場の方もミシン目の形を変えたり、ピッチを変えたりといくつもの試作品を製造ラインで問題ないかテストをしてくれて、輸送中に破れたりすることもない新しいパッケージができました」

  • パッケージの上下にミシン目がつき、手で開けられるようになった

医薬品から添付文書をなくした!?

だが、ただ単に開けやすく、畳みやすくするだけに留まらないのがロート製薬流の考え方だ。

「簡単に開けられるようになったことで、『内側のスペースをもっと有効に使えるんじゃないか? という話に発展しました。一般的な医薬品には、用法・成分や使用上の注意を記載した紙の添付文書が同梱されます。この情報を内側に印刷することにしたんです」

  • 添付文書をなくし、その内容はパッケージの内側に記載した

こうして完成したのが、ロートCキューブの"添付文書レス"パッケージだ。もちろん添付文書よりもスペースが少なくなるため、読みにくくならないようにユニバーサルデザインフォントを採用したり、商品の特徴はQRコードを読み取ってスマートフォンで閲覧できるようにしたりと、さまざまな工夫も行ったという。さらに、容器に貼り付けるラベルシールを減らすため、ブランド名は容器に刻印。2枚あったラベルシールを1枚に減らしている。

  • パッケージにロゴを刻印することで前面のラベルシールを廃止

「おかげさまで売り上げは順調に推移していますが、SNSなどでお客さまの声を見ていますと、『ラベルがなくなってるよ』とか『添付文書もなくなってるね』『捨てやすくなったね』みたいなつぶやきも上がっています。このように少しずつ我々の取り組みが伝わって、ブランド価値向上に繋がっていけばいいのかなと思っています」

ユーザビリティ発想からサステナビリティを実現

SDGsやエシカル消費が謳われるいま、どの会社も環境負荷の軽減を当たり前のように考えている。だが、そのような世の中でロート製薬が柔軟な発想を展開できるのは、同社の社風に寄るところが大きいだろう。

「我々ももちろん、サステナビリティを数値目標として持っています。ですが、いかに環境負荷を減らすかというよりは、お客さまの使いにくさを一つ一つ丁寧に取り除いていくことで、結果的に無駄がなくなり、サステナビリティにも貢献していきたいと思っているんですね」

ユーザビリティ発想からのサステナビリティ実現、これがロート製薬に根付く考え方だ。「肌ラボ」や「ロートCキューブ」のリニューアルも、あくまで使いやすさの改善が起点といえる。

現在は、日焼け止め「NEXTA (ネクスタ)」の成分で環境配慮に取り組んでいるという。日焼け止めに含まれるオキシベンゾンを初めとした化学物質は、サンゴなどの海洋生物の遺伝子を傷つけるといわれているからだ。

「次のチャレンジとしては医薬品ですね。今回、目薬で思い切った取り組みを行いましたが、『メンソレータム』ブランドの使いやすさを向上させたいと思っており、この秋に向けて準備を進めているところです」

2022年のユーザビリティワークショップでは、ダイバーシティの視点から商品を使ってみるという取り組みを行う予定だという。2023年にはこのワークショップを経て開発された、高齢者や障害をお持ちの方でも使いやすい商品が展開されるかもしれない。ロート製薬の商品を使用する際は、ユーザビリティとサステナビリティへの取り組みにぜひ注目してほしい。