角換わりの攻め合いを制す

渡辺明名人へ斎藤慎太郎八段が挑戦する第80期名人戦七番勝負(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)の第5局が、5月28・29日(土・日)に岡山県倉敷市「倉敷市芸文館」で行われました。結果は97手で渡辺名人が勝利。今期七番勝負の成績を4勝1敗として、名人防衛を果たしました。渡辺名人は名人戦3連覇となります。

本局は渡辺名人の先手番から、角換わりの相早繰り銀となりました。31手目の▲3五歩で歩がぶつかりましたが、本格的な戦いはしばらく先。斎藤八段は△4三金右と金矢倉の形を作りました。さらに進んだ42手目の△3四銀で、後手は「銀立ち矢倉」と呼ばれる形になります。対して渡辺名人は5六と6六に2枚の銀を並べました。ここでは盤上の右辺は後手の勢力圏、中央やや左が先手の勢力圏とみえます。先手の狙いは次に▲5五銀左とぶつけるもので、斎藤八段はこれを防ぐべく△5四歩と突きました。対して渡辺名人が▲4五歩と突いた局面で封じ手を迎えます。この手に関して「ちょっと攻めさせられたかな」と局後に渡辺名人は振り返っています。

封じ手は△4五同桂で、以下桂交換となりました。お互いが手にした桂をどのように生かすかというのが2日目の展開と言えそうです。さらに局面は進み62手目の△4五桂で斎藤八段が先に活用しました。打った桂を軸にと金を作る狙いです。対して渡辺名人は▲3五歩と銀取りに打ち、△3七歩成▲3四歩△3八と、と金銀を取り合う進行になりました。敵陣にと金を作ったのは大きいですが、先手の3四歩も将来、後手玉を逃がさないための押さえの駒になりそうです。

以下は攻め合いとなりましたが、一度自玉に手を入れた83手目の▲7五歩が好手でした。これで上部が開けて先手玉は捕まらない格好です。対して後手玉は前述の3四歩が大きな拠点として残っており、受けが利かない格好です。最終手▲3三飛の王手を見て斎藤八段が投了しました。後手玉はまだ詰みませんが、3二へ合い駒を打っても▲5三飛成と金を取った手が詰めろとなり、また先手玉の上部を押さえていた要の金を外されるので、戦う術がありません。

渡辺名人は4勝1敗で名人防衛。名人戦3連覇は第74~76期の佐藤天彦名人以来で、通算では7人目の記録となります。そして第81期名人戦の挑戦者を決めるA級順位戦は6月9日に、永瀬拓矢王座―豊島将之九段の対戦で始まります。藤井聡太竜王が初参加したことも含めて、新たな順位戦からも目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

盤石の内容で3連覇を果たした渡辺名人(提供:日本将棋連盟)
盤石の内容で3連覇を果たした渡辺名人(提供:日本将棋連盟)