マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の利上げについて解説していただきます。


5月3-4日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)で、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は0.50%の利上げとQT(量的引き締め)の6月開始を決定しました。

22年ぶりの0.50%幅の利上げ

これまで主に0.25%幅で政策金利を変更してきたFRBが0.50%幅での利上げを実行するのは22年ぶりのことです。前回の0.50%幅での利上げは2000年5月16日。それは前年6月に始まった利上げの最終段階でした。NASDAQ総合指数が2000年3月にピークをつけていたので、0.50%の利上げがIT株バブル崩壊の最後の引き金を引いたと言えるかもしれません。

QTは6月に開始

QT(量的引き締め)とは、FRBのバランスシート(総資産)を縮小させること。具体的にはQE(量的緩和)で取得し、保有している国債や住宅ローン担保債券の残高を減らすことです。それらを売却するのではなく、満期償還された債券を再投資しないことで残高を減らしていきます。前回のQTは15年12月の利上げ開始から22カ月後に開始されました。今回は3月の利上げからわずか3カ月後に開始、それも前回の2倍のペースです。

大幅な利上げと早期のQT開始ということは、それだけインフレ抑制のために金融緩和のアグレッシブな縮小が必要ということでしょう。

0.75%幅の利上げは「なし」?

FOMC直後に株価は急騰し、長期金利(10年物国債利回り)は低下。米ドルは総じて軟化しました。FOMC後の会見で、市場に台頭していた0.75%幅での利上げに関してパウエルFRB議長が「積極的に検討していない」と述べたことで、市場に安心感が広がったためです。

もっとも、パウエル議長は同じ記者会見で、「高過ぎるインフレを押し下げるために迅速に行動している。FOMCでは次の2会合において0.50%の利上げを議題にすべきとの認識がある」と説明。また、政策金利を(中立水準を超えて)抑制的水準にする必要があると判断することは「確実にあり得る」とし、「必要なら躊躇(ちゅうちょ)せずに利上げする」と明言しました。(※)

(※)FOMCの結果判明の翌5日に、株価は急落、長期金利は上昇、米ドルは堅調推移しており、前日の反応を完全に巻き戻した格好です。

年内に2-3回の0.50%幅の利上げも

5日時点のOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、金融市場は22年末の政策金利を2.81%と予想しています。0.25%幅での利上げ約8回分に相当します。つまり、年内残り5回のFOMCで3回が0.50幅、残りが0.25%幅での利上げとのイメージです。

「ドット・プロット」

3月に公表された「ドット・プロット(※)」の中央値は、22年末の政策金利を1.875%、23年末と24年末を2.75%、「長期」を2.375%としていました。「ドット・プロット」が示唆しているのは、23年中に政策金利2.75%で利上げ打ち止め、24年は据え置き(違うシナリオもあり得ます)。その場合、2.75%が利上げの最終到達点、いわゆるターミナルレートです。そして、「長期」に該当する景気を刺激も抑制もしない中立水準は2.375%という政策当局者の見通しです。

※FOMCに参加する理事+地区連銀総裁の全員(定数19人)の金融政策見通し(向こう3年の年末までの利上げ・利下げ)を一人一つのドット(点)で表したもの。各個人の見解にすぎないが、市場はその中央値をFOMCのコンセンサスととらえる傾向がある。3カ月ごとに(FOMC2回につき1回)他の経済見通しと一緒に公表される。

ターミナルレートは、いつ、どの水準?

もっとも、政策当局者の予想が金融市場の予想に近いのなら、22年末の政策金利は1%程度上方修正されそうです。問題は、利上げ打ち止め、換言すればターミナルレート(利上げの最終到達点)が、いつ、どの水準になるか。また、中立水準に変化はないか。6月に公表される「ドット・プロット」は大いに注目でしょう。