プロボクサー転向を表明している無敗のキックボクサー那須川天心(TARGET/Cygames)が、4月2日、東京・国立競技場代々木第一体育館で同門の風音(TEAM TEPPEN)を相手に「RISE」ラストファイトに挑んだ。

  • 6月19日、東京ドームでK-1王者・武尊との「世紀の一戦」に挑む那須川天心(©RISE)

大方のファンは那須川の圧勝を予想したが、格下の風音を捕えることができずフルラウンドの末、僅差の判定決着に。キックボクシング連勝記録を「41」にのばすも、精彩を欠いた那須川─。6月19日、東京ドームでの武尊(K-1スーパーフェザー級王者/K-1ジム相模大野クレスト)戦はどうなる?

■「ジャブだけで倒せる」はずが…

「本来なら、ここで(キックボクシングを)引退するはずでしたが、6月に東京ドームで最後の試合をします。でも、こんな試合をやっているようでは(武尊に)勝てない。あと2カ月余り…しっかりと仕上げて、自分のスタイルを貫いて最後まで気持ちを出して勝ちに行きます」

RISEでのラストファイトを終えた直後、リングの中央に立ちマイクを手にした那須川天心は、そう話した。
この日の闘いに納得がいかなかったのだろう。 対戦相手は、同門でスパーリングパートナーでもあった風音。勢いはあるが実績では、はるか格下の選手だ。
「100年早い。お前ならジャブだけで倒せる」
昨年9月に挑戦を表明してきた風音に対して那須川はそう口にし、大方のファンも彼の圧勝を予想していた。
だが、そうはならなかった。

  • 「このままでは(武尊に)勝てない。しっかりと仕上げ、自分のスタイルを貫いて勝つ」。RISEラストファイト後にインタビュースペースでそう話した那須川天心(写真:SLAM JAM)

闘いはフルラウンドに及び、両者ともに決定打を放てぬまま終了のゴングが打ち鳴らされる。ほぼ互角の攻防だった。
「延長(ラウンド)だと思った」
試合後に、風音はそう話したが、場内にもそんな雰囲気が漂っていた。判定は僅差。ジャッジ2者が30-29で那須川を支持、もう一人は29-29のドローとつける。2-0で那須川が勝者となるも、大苦戦だったのだ。

  • 「今日、世界を変えるつもりだった。悔しい」と声を詰まらせた後、「プロのジャッジの判定に異議を唱えるつもりはない」とも話した風音(写真:SLAM JAM)

■ラウンド数はどうなる?

今回、那須川はイレギュラーな闘いを強いられた。
それはデビュー以来、必ずセコンドにつき作戦を授け支えてくれた父が敵に回ったことで ある。ロープを潜りリングに入ると、対角線上の敵陣にいる父から睨みつけられた。
「(天心のパンチなんか)全然効いてねえよ! 行け風音」
いつもなら自分をサポートしてくれる父が試合中に、そう叫んでいたのである。この日の試合のテーマは「大舞台での親子喧嘩」(『那須川天心の父が、対戦相手のセコンドに!「大舞台での親子喧嘩」の行方は? 4・2 RISE ELDO RADO 2022』参照)。那須川のセコンドについたのは親交のある総合格闘家の朝倉未来だった。

「未来さんには感謝しています。試合前に相手の分析もしてもらいましたし、ラウンド間にも的確なアドバイスをいただきました。
でも、もの凄く闘いにくかった。いつもは自分のコーナーにいる顔が敵陣にいるんですから。心を揺さぶられました。それにRISEでの最後の試合で勝つのは当たり前、絶対に倒して勝つとの気持ちが強く力んでしまい、普段通りの闘いができなかった」

相手の攻撃は受けず、自らの打撃をヒットさせて勝つのが那須川のファイトスタイル。だから、試合を終えた後、彼の顔は無傷なのが常である。しかし、今回は違った。風音のパンチを何発も浴び、顔面に赤みを帯びていた。心を揺さぶられ自らのファイトスタイルを崩し、無理にでも倒し切ることにこだわった結果が僅差の判定勝利だったのだ。
今回、那須川は勝利するも「絶対的強さ」をアピールできなかった。決戦まで、あと2カ月余り。彼は、どこまで調子を上げていけるのか─。

そして気になるのは、「世紀の一戦」のラウンド数である。
昨年のクリスマスイブ、東京ドームホテルでの対戦発表記者会見で武尊は言った。
「完全決着をつけるために無制限ラウンドで闘いたい」と。
これが、受け入れられるかどうか。

できることなら、引き分けや僅差での判定決着を避ける「無制限ラウンド完全決着ルール」での闘いが観たいが果たして─。
ルールの詳細は、近日中に発表される。

文/近藤隆夫