高田純次の著書『50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう 東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら本が出せました』(主婦の友社)が2022年3月14日に発売された。

発売当日に行われた記者会見では、司会者や記者からの質問に当意即妙な受け答えをして大いに場を盛り上げていた高田純次。この頭の回転の速さ、常にその場に合わせたワードセンスとウィットに富んだ会話術は、あらゆるジャンルの仕事に役立つのではないだろうか?

その神髄に迫るべく、会見後の高田純次を直撃した。折りしも当日はホワイトデー。控室を訪ねると「もう何を贈るか決めました? 僕はやっぱり貴金属かな」との第一声で、期待通りの適当男ぶりを発揮してインタビューは始まった。

  • 「東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら」ことがきっかけでこの本が生まれた

■タイトル通り⁉ 書籍誕生のきっかけとは

――『50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう 東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら本が出せました』3月14日に発売、おめでとうございます!

ありがとうございます。まあ、「東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら」っていうキャッチフレーズは、実際にそういうことがあったみたいで。自分はあんまり覚えてないんだけど、どうもそのときに彼(担当編集者)に「どうぞ」って一万円をあげたのが効いたみたいね(笑)。そこからあっという間に本ができて、嬉しい限りです。

~ 東京タワーで「じゅん散歩」のロケに遭遇した担当編集者がたまたま高田純次とトイレで一緒になり、1つしかない洗面台を「どうぞ」とジェントルに譲ってくれたことがきっかけでこの本が誕生した ~

  • 『50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう 東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら本が出せました』(主婦の友社)

――先ほどの記者会見では、「パーフェクトな本」とおっしゃっていましたね。

そうですね。これ以上の本を作るとなると、もう僕が作家としてデビューしないといけないですね。

■本当は「適当」ではなく「真面目」?

――(笑)。それぐらい満足感がある本に仕上がっているわけですね。本の中で「適当って言われるけど、どのへんが適当かもわからなくなってきた」とおっしゃっていますが、最近のコンタクトレンズのCMでも適当な市長役として登場されています。「俺は本当は真面目なんだけどな」と思ったりしたことはないのでしょうか?

あれは僕の適当イメージから、ああなったんでしょうね。でもね、住民票を書くときとかは真面目だよ?

――それはそうでしょうけども(笑)。

だから、どれが真面目なのかっていうのがわからないんだよね。逆に、どれが適当なのかもわからないね。最初は、和田先生(精神科医である和田秀樹氏)と一緒に「適当論」っていう本を出したんだけど(2006年ソフトバンククリエイティブ刊)、本当は「不適当」の反対が「適当」で、「適当な人だね」っていうとピッタリ物事に当てはまる人だっていう意味なんだよね。それでも世の中的には適当っていうと「C調なやつだな!」みたいに思われるじゃない? だから僕の行動が適当だっていう風に見えるのはそれはそれでいいなって最初のうちは思ってたんだよね。でも適当っていう言葉が定着すると、今度はみんなが見ている前で、どう適当にしていいのかわからない。

  • 自身の著書をジッと見つめる。何を考えているのかは知る由もない

――周りが求める高田純次さんのイメージに応えようと思っているということですか。

そうそう。(質問表を手に取って)こういうのもクシャクシャにして食べちゃった方がいいのかなとか。

――ははははは(笑)。

そうすると、みなさんが後で「適当なやつでさ~、質問表を丸めて食べちゃったよ!」なんて言うわけじゃない? それが果たして良いのかわからないけど(笑)。でも素直に答えると真面目に思われちゃうからさ。

――そこがわからなくなってきた?

そこを追求しようとはしてないけどね。あえて真面目にやろうとか、適当にやろうとかは考えてない。ただ真面目に応えるべきときもあると思うけど。「適当男」って言われることに関しては、別になんとも思わないからね。まあ、嬉しくてお赤飯を炊くほどのことでもないけど。

■武器が見つからないジレンマ

――(笑)。そうして活動してきた結果、この本では3人の芸人さん(柴田英嗣(アンタッチャブル) / たむらけんじ / こがけん(おいでやすこが))が高田さんからの影響とリスペクトを語っています。

隣の芝生は青く見えるじゃないけど、違う分野でやっているということもあって良く見えている部分もあるんじゃないですかね。逆に僕はたむけんさん・柴田さん・こがけんさんを見て、いいなと思うから。2人組でロケをやったりすると片方がフォローしたりとかできるけど、僕はそういうことがないからね。別に笑いのネタがあるわけじゃないし。昔、ビジーフォー(グッチ裕三、モト冬樹らが所属したグループ)が、音楽もできて喋りもできるからテレビにも出てるけど、半分ぐらいは営業をしてるって聞いて、「いいなあ~営業できて」って思ってたから。自分にそういう話は来ないからね。

――そもそも、役者さんですもんね。

役者としての仕事もそんなにないんだけど(笑)。他にこれといったものもないし。そのあたりのジレンマというか、立ち位置が……まあ、立ち位置とかなんとも思ってないうちに75歳になっちゃったんだけどね(笑)。でも、ネタは持ってないよね。だから、「高田さん、何か面白いことをやってくださいよ」って言われた場合、それがむずかしいんだよ。「ガチョーン」でも「シェー」でも、何か1つ得意のフレーズがあればいいんだけど、そういうのがないから、何をしていいいかわからない。それを持っている人はいいなあ、と思うんだよね。

――でも先ほどの会見でも、何を言われても機転が利いた返しができてすごいなと思いました。

いやあ、40代、50代までは臨機応変ということをすごく要求されたけど、70歳を過ぎるとだんだん回転も遅くなるね。耳も遠くなってきたし、相手の言ってることがわからなくても適当に答えていると途中からチンプンカンプンになっちゃう(笑)。1つヒットしたネタがあれば何かしら使うんだけどそれがないから。バラエティでも中途半端だし、役者としても特にこれといったものもないし、もちろんマジシャンでもミュージシャンでもないからね。

  • おしゃれでダンディで気配り上手。こんな生き方してみたい

――そうですね(笑)。

50歳前後だったら、この本のタイトルみたいに「50歳を過ぎたら~」って言えるけど、75歳にもなったら今更チャレンジしても、それが成就する頃には、ほとんど死ぬ寸前だと思うんだよね。

――(笑)。

だから今、スケボーをやろうと思ってるんだけど、やり始めて1カ月で死んじゃうかもしれないんで、「じゃあやめようかな」って。

――やりたいことはいろいろ浮かぶんですね。持ちネタがないとおっしゃいますけど、原口あきまささんが高田さんのモノマネをするときに「どうも、レディ・ガガです」とか言うじゃないですか? あれって高田さんオリジナルの挨拶ネタだと思うんですけど。

まああれは、自分自身の楽しみだけでやってるから(笑)。特に、あってもなくてもいいんですけどね。あとは適当に下ネタも言ってるんだけど、「じゅん散歩」に限って言えば、午前中の番組だからどうせ使われないし。そのときのノリでやってるから。

――先日も、「じゅん散歩」を見ていたら「どうも、聖徳太子という者なんですけども」と言ってましたね(笑)。ああいうのはすぐパッと思いつくものですか?

それはその店が何をやっている店なのかとか、地名が松山だったら「松山容子です」って名前を出してみるとか(※「ボンカレー」のパッケージモデルで知られている女優)。その人の職業とか場所とか、そこはある程度、臨機応変にはやってますけどね。でも、自分自身だけの楽しみだから、言ったことが全然相手にわからなくてもいいし。「誰それ?」なんて言われることもあるしさ。でもそれはそれでいいかなと思ってやってます。

――やっぱりそこの瞬発力は、いろんな職業の人が見習うべき部分もあると思います。

慣れもあるだろうね? 僕は「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」でなんとか一般の人に知られるようになったんだけど、ほとんどロケ、ロケ、ロケばっかりで。それをスタジオでみんなと一緒に見てるわけだから、「何か面白いことをしなきゃいけない」っていうことにその間はず~っと縛られてましたね。(ペットボトルのお茶を手に取って)何か1つこういうモノがあって、それを生かして何か言おうという目標があればいいんだけどね。「随分おしっこが溜まりましたね」みたいな。

――今、そう言いそうな予感はしました(笑)。

そうでしょ(笑)? こういう目標があればね。そういう意味では、75歳になって今更言うのもおかしいけど、うちらの立ち位置は厳しいというか、突き詰める先が見えないよね。そのときどきでそれがどれだけ上手く当てはまるかっていう、ある意味刹那的に生きてるところがある。とりあえず、80歳になったら全裸で街を歩くっていう約束はしておこうかなって(笑)。それだったら警察も文句を言わないだろうって。

――80歳になった高田純次さんだったら許されるかもしれないという(笑)。

そういう風に持って行こうと思ってるんだけど(笑)。現実的に80歳になって全裸になるかはわからないね。

――「元気が出るテレビ!!」といえば、清川虹子さんの指輪を口に入れちゃった事件が有名ですけど、番組に思い入れはありますか?

「元気が出るテレビ!!」のロケって、13~14年ぐらいやってたから、全部で1,000本ぐらいあるんですよ。最初の頃は、2回3回笑わせてからやってたんだけど、そのうち1回笑わせてすぐ本編に入る感じになっていたから、「笑わせるためには何でもやるぞ!」という気構えではありましたね。しかも日曜のゴールデンタイムだったからね。

■第一線で活躍し続ける原動力とは

――そういうバラエティ番組からドラマ、クイズ番組、CMと長年活躍を続けていますが、ご自身ではどうしてここまで芸能界の第一線で活動してこれたと思いますか。

まあ、健康だね。仕事があることが健康のためになっているというか。この歳で仕事があることが嬉しいですよ。だって、僕は中京テレビに27年間番組で通ってるんだけど、社長も含めて僕が一番年上なんだから(笑)。それは読売テレビもそうだし、そういう域になってるから。最初の頃からいたADさんが部長になっていたり。でもうちらは、特にこれだっていう地位がないんだよね。

――会社みたいに課長や部長に昇進するということはないですもんね。

そうなんだよね。会社だと、課長から部長になれば、それが1つの力になるじゃない? 僕を最初に中京テレビで使ってくれた方が、ディレクターから始まって今は常務取締役なんですよ。でもうちらは、どこをどうしたらモチベーションが上がっていくのかっていう、そういう嬉しさがないんだよね。まあ、もしかしたら俳優だったらアカデミー賞を獲るとか、お笑いの人ならM-1を獲るとかっていうのはあるかもしれないけど、そういうのはひと握りの人たちだから。そういう意味ではどこに自分のモチベーションを持って行くかというのはあるよね。

  • 適当なようでいてじつに深い話をしてくれた

――実際、高田さんはどんなモチベーションで続けてきたんですか?

まず、朝起きることだね。朝起きないことにはしょうがないから(笑)。年を取るとそういうモチベーションの持ち方がわからなくなるよね。今回も、こういう本が出て記者会見やインタビューがあるっていうと、この本を1つの軸にしていろいろ喋れるけど、何もないところで何か30分やってくださいって言われると困っちゃうからね。何か1つ石を投げてくれたら、それに対して何かできるけど。自分からこういう風にっていうものができない立ち位置でやってきたから、そういう意味ではつらいといえばつらいし、どんどんそういう立場になってきたんだろうね。

――そんな中でいろんな方との出会いがあって、この本も新しい出会いから生まれたわけですが、芸能生活の中で印象的な出会いはありますか?

「じゅん散歩」は丸々6年以上やってるんだけど、前は地井武男さんの『ちい散歩』があって、次に加山雄三さんの『若大将のゆうゆう散歩』があって。加山さんがやっているときに、近所の蕎麦屋でプロデューサーに偶然会ったんですよ。そのときに、「もしかしたら散歩番組が新しくなるかもしれないから、純ちゃんの名前を候補に挙げとくよ」「そうですか、お願いしますよ」って言ってたら、本当に白羽の矢が立って。ただ、番組の最後に地井さんは絵、加山さんは書をかいていたから、自分も描かなきゃいけないのかなと思っていたら、「3種類ぐらい描いて持ってきて」って言われて。それで、靴の絵と、男性が煙草を吸ってる絵と、花の絵を描いて持って行ったら、「なんだ。そこそこ描けるじゃない」って言われて始まったんですよ。最初は似顔絵を描き始めて、週に1回は風景画も描くようになって。だからそのプロデューサーとの出会いは1つのエポックメイキングになりましたね。

――なるほど。出会いをきっかけに、番組で絵を描くというのがモチベーションも生んだわけですね。

「元気が出るテレビ!!」で言うと、テリー伊藤さんが出演者を探していて、同じ劇団(「劇団東京乾電池」)の中から、僕をベンガルにしようと思っていたらしいんです。そうしたら「ベンガルの方が演劇的で、高田の方はちょっとC調っぽいから高田を使ってみようか」ぐらいの感じで、ロケに行くようになったんです。だからきっかけはそのときのプロデューサーであり、さかのぼれば僕が宝石屋にいたときに劇団に入るきっかけになった柄本(明)との出会いもそうだしね。

■高田純次の集大成となる一冊

――今回の本は、高田さんにとってどんな本になりましたか?

本はこれまでも何冊か出したけど、今回は集大成みたいなつもりでやらせてもらいました。75歳にもなると、こうやってインタビュー形式で人と話すことってなかなかないのよ。だから、この歳でこういう本が出来てこういう喋れる場を作ってくれたことは嬉しいね。喋ってないと言葉をどんどん忘れていくからね(笑)。今、コロナ禍でロケに行ってもあんまり人に近づいちゃいけないし、喋れないのよ。そういうジレンマもあるけど、こうやって喋ることは1つの刺激になるね。眠くなったときは針で太ももをつついてるんだけどね(笑)。

  • 本のことやキャリアについてユーモアたっぷりに語ってくれた高田純次。取材現場は終始笑い声に包まれていた

――刺激を与えるために(笑)。

そうそう(笑)。この本を出版したのも刺激ですよ。お酒を飲みながら、「バカ言ってるよ~」なんて言いながら読むと何かの役に立つかもね。