2022年度に大規模な制度改正を予定している住宅ローン『フラット35』。その他、社会的な要請が強い政策課題に対する取り組み『リバース60』『マンションストック』について、(独)住宅金融支援機構がオンラインセミナーを開催した。
住宅ローンの今後、昨今の住宅事情などについてセミナーで語られた内容を紹介する。
"創エネ"を加味した【フラット35】S(ZEH)が新登場
来月4月に創立16年目を迎える住宅金融支援機構は、住生活の向上に貢献するべく、住宅金融市場における安定的な資金供給の支援を通じた各種取り組みを行う政策実施機関。平成23年度から開始された本プレスセミナーは今回で11回目となり、昨年に引き続きオンラインでの開催となった。
『政策実施機能の最大化に向けた「フラット35」の制度改正』について説明したのは地域業務統括部地域連携グループ長・木村昌平氏。民間金融機関と機構が提携して提供する全期間固定金利の住宅ローン「フラット35」は、2003年から取り扱いが開始され、制度創設以来、2021年度までに、累計129万6000件、金額にして34.3兆円が利用されている。本年4月・10月に大きな制度改正を控える。
「より良質な住宅施設を支援するため、省エネルギー性や耐震性など備えた質の高い住宅を取得する場合の借入金利を10年、または5年引き下げる「フラット35」Sは、年間10万戸ほどでご利用いただいている状況です。現行の「フラット35」Sは主に省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久改変性の4分野があり、その住宅性能に応じて5年または10年金利を引き下げる制度となっています」
脱炭素社会実現に向け、「フラット35」Sの現行制度では省エネルギー性に関して、外壁や窓の断熱性の等級など住宅の仕様・スペックの基準で省エネ性能が高い住宅について、当初5年間0.25%引き下げる「Bプラン」。これら建物の仕様に加え、LEDライトや効率性の高い給湯器の導入など、さらにスペックの高い省エネの設備の住宅で当初10年間0.25%の引き下げる「Aプラン」がある。
令和4年度の制度改正では、省エネルギー性の高い住宅の普及の加速と取得の支援を強化。10月から「プラット35」Sでは「Bプラン」、「Aプラン」の上にエネルギーを生み出す"創エネ"を加味したプランとして「ZEH」を創設する。
「「ZEH」では借入金利を当初5年間0.5%、6年目から10年目まで0.25%引き下げます。同じく10月からは「フラット35」リノベの省エネルギー性の基準の見直しを行い、令和5年4月から「フラット35」を借りるための基準を底上げ。より省エネルギー性の高い住宅の取得、日本の住宅の省エネルギー性水準の引き上げを応援します」
新設【フラット35】維持保全型もプランの併用で最大0.5%の引き下げ
「フラット35」リノベは既存住宅の流通促進の取り組みで、中古住宅を取得してリフォームする場合、リフォーム費用も含めて融資するという制度。フラット35に占める中古住宅の割合は年々上昇し、足元では約1/4が中古住宅の購入に使われているという。
「既存住宅市場の活性化支援として、この4月からフラット35維持保全型を創設。将来的な維持・保全・管理に配慮した住宅の金利を引き下げ、長期優良住宅の普及、良質な既存住宅の市場の活性化に貢献していきたいと考えています。こちらはフラット35SAプランなどと併用ができ、当初5年間0.5%まで金利引き下げに深掘りされるお得な制度です」
多彩な金利引き下げメニューがあることから、本年10月以降は各プランを組み合わせた合計ポイントに応じて金利の引下げ幅と期間を4パターンに見直す。
60歳からの住宅ローン「リ・バース60」の応募が急増
住宅融資保険部リ・バース60推進グループ長・神戸大介氏は、リ・バース60の利用実績と借入申込者の利用実態などを紹介した。
「リ・バース60」は民間金融機関が提供する60歳からの住宅ローン。民間金融機関が融資を実行し、機構は保証会社の立場で貸し倒れリスクを引き受け、債権者となる金融機関を支援する。
自宅のリフォーム、戸建住宅の建設、マンションの購入、住宅ローンの借換えなどに利用できる。一般的なリバースモーゲージの場合は自宅を担保にするが、「リ・バース60」の場合は現状で持ち家を所有していなくても新規に取得する住宅で利用が可能だ。
「一般的な住宅ローンは35年などの有期契約で毎月元金と利息を返済しますが、「リ・バース60」は契約期間が終身、毎月の支払いは利息のみ。元金はお客様が亡くなられた時に一括でご返済いただきます。返済原資は預貯金などの自己資金でも、担保物件の売却代金でも構いません。ご自宅を遺すか否かで、返済方法が変わってきます」
そのため一般的な住宅ローンより金利は高くなるものの、月々の返済額の負担額は少なくなる。
「新築マンションへの住み替え例で、1500万を借り入れた場合の月々の負担額を比較すると、「リ・バース60」では3万8000円、一般的な住宅ローンの場合は6万9000円となり、倍近い差になります。主な収入が年金となる高齢者にとって、負担感がある返済額ではありますが、一般的な住宅ローンは完済時の年齢に制限がある、団体信用生命保険の加入が必須など、高齢者にとって利用しづらい状況です。結果として貯金を取り崩して自己資金で賄っているのが現状と考えられます」
人生100年時代と言われて久しい昨今、大きなお金を一度に取り崩すことに将来不安も感じやすいなか、「リ・バース60」を利用することで預貯金などの手元資金を残しつつ、快適な住まいで暮らしやすくなるという。
「元金は亡くなった時に一括でご返済いただき、相続人の方が預貯金など返済いただければ自宅を残せます。自宅が不要な場合は物件の売却代金より返済いただき、売却額より住宅ローンの債務が大きいオーバーローン状態になると不足分が問題となります。一般的なリコース型の住宅ローンは当然、不足分をご返済いただきますが、「リ・バース60」では不足分の返済を請求しないノンリコース型。金利は年0.2%程度高く設定する金融機関が多いものの、利用者の99%が相続人の方が残りの債務を返済する必要がないノンリコース型を選択しています」
取り扱い金融機関は全国で80機関。機構は保障会社的な立場の役割を果たし、金利や手数料などの商品性は金融機関が独自に設定する。住宅ローンの契約もお客様と金融緩和の間で締結される。
「地域金融機関の参入が多く、都市銀行ではみずほ銀行、地銀では青森銀行、北陸銀行などが参入しています。金融機関にとっては「リ・バース60」の取り扱いで高齢者との取引機会が増え、一般的な住宅ローンよりも金利が高く設定でき、1件当たりの収益性が向上します。また、高齢者の居住の安定や空き家対策など地域課題の解決にも貢献できます」
2017年度以降、応募申請件数は急増。2020年度に初めて年間1000件を超え、足元では約1400件、対前年同期比で1.5倍となった。資金使途別では注文住宅が3割、次いで新築マンションの購入、住宅ローンの借換え、戸建てのリフォームが2割ずつと続く。
「金融機関が融資を実行した件数は約3000件、金額では400億円を超えたところです。今後伸びていく市場ですが、まだまだ世間の認知度が低く、受け皿となる金融機関も開拓の余地があると考えています」
高経年マンションの増加や管理への取り組み
マンション・まちづくり支援部の清水明氏は、「マンションの価値向上に資する金融支援の実施協議会」の今年度の取り組み結果と今後の方向性について語った。
高経年マンションの増加や管理が社会問題となるなか、同協議会は2018年に勉強会として立ち上げられた。関係団体同士が連携しながら管理組合への情報発信などに取り組み、金融インフラの整備を推進する。今年4月にマンション管理適正化法が施行されることを受け、大規模修繕の手引きを作成。この3月末にホームページに掲載する。
「資金計画の部分で困った際や不安解消にお役に立てる読み物にしました。管理組合の方に向けて工事内容や工法、費用などをわかりやすく網羅した100ページほどの手引きです。6月頃から40ページほどのダイジェスト版を印刷物でお配りしたいと思っています」
昨年9月には長期修繕計画のための「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」を提供開始。加えて、住宅金融支援機構のデータや国交省のマンション総合調査のデータなどを活用し、管理組合向け融資の与信モデルを構築した。
「この与信モデルは金融機関さんから「デフォルトがあまりない融資であるがゆえに、管理組合向けの貸付は通常の住宅ローンに比べてかえって難しい」といった声を受けたもの。これまで信用リスクの計量化が行われておらず、デフォルト実績もほぼない無担保の融資ということで、ローンプレーヤーが不足してきました。管理組合の収入と支出のキャッシュフローがマイナスなることを擬似デフォルトと定義し、融資のスキームとしてデフォルト率の予測に使っていただけます」
今後、機構では各金融機関での商品化について個別にサポート。後見人の問題や超寿命化などを踏まえ、長期修繕計画とは別の長期マネジメントなどに関する勉強会も立ち上げ予定とのことだ。