3月20日、丸善インテックアリーナ大阪『RIZIN.34』が目前に迫っている。2022年RIZINナンバーシリーズの開幕戦だ。メインエベントは、萩原京平(SMOKER GYM)vs.弥益ドミネーター聡志(team SOS)。そして、セミファイナルには、注目の男・皇治(TEAM ONE)が登場する。
皇治が対峙するのは、「因縁の相手」梅野源治(PHOENIX)。このカードを発表する記者会見の席上で、皇治が衝撃発言。「キックボクシングは、あと2試合でやめる」と。その真意とは?
■冬眠から目覚めるも
「冬眠していたのですが、隣の騒音おじさん(RIZIN榊原信行CEO)に無理やり叩き起こされました。いまは、非常に困惑しています。世間に顔を出すのも恥ずかしい」
3月3日、東京・目黒で開かれた『RIZIN.34』追加対戦カード発表記者会見に、ひょっとこのお面をかぶって登場した皇治は、最初にそう話した。
昨年大晦日『RIZIN.33』で7歳年下のYA-MAN(TARGET SHIBUYA)と対戦し、皇治は判定完敗を喫した。その直後に「冬眠します」─。
負けたショックは大きかったのだろう。
(当分の間は、試合はしない。強くなるために練習を積んで、それから出直す)
そんな意思表示だと周囲は受けとめていた。
しかし今回、榊原信行CEOからの熱烈なオファーを受け、皇治は『RIZIN.34』への出陣を決めた。
梅野とは、昨年6月『RIZIN.29』で開かれた「キックワンナイトトーナメント」1回戦で対戦。故意ではなかったろうが、バッティング(頭突き)で、梅野に鼻骨骨折を負わせ試合はノーコンテストに。トーナメントをぶち壊してしまった。
(梅野との再戦を、やらぬわけにはいかない)
今回の強行参戦には、そんな思いもあるのだろう。
■闘いのテーマが見つけられない
ただ今回の皇治は、いつもと様子が違う。
コメントに覇気が感じられない。相手に対する挑発も中途半端な印象を受ける。闘いのテーマが自分の中で定まっていないのだろうか。そして、まさかの言葉が飛び出した。
「キック(ボクシング)は、あと2試合でやめる」
これに対し、メディアから質問が飛ぶ。
キックボクシングをやめた後、何をするのか? MMA(総合格闘技)に転向するのか?
「トライアスロンをやりますよ」
彼は答えを濁した。
さて、なぜ皇治は「あと2試合でやめる」と口にしたのか?
おそらくは、彼の中で闘いに対するモチベーションの維持が難しくなっているのだろう。
お金は、スッカリ稼いだ。ハングリー精神がなくなった─。 いや、それは少し違う。
マッチメイクに対して、テンションが上がらないのではないか。
これまで皇治は、自分よりも強くネームバリューのある相手に噛みつくことで、存在感を示し輝き続けてきた。
K-1時代には武尊(K-1ジム相模大野クレスト)に噛みつき、対戦を実現させ判定で敗れるも好勝負を演じ観客を沸かせた。RIZINに戦場を移した直後には「お前を泣かせてやる!」と那須川天心(TARGET/Cygames)を挑発。ここでも判定負けを喫したが、地上波フジテレビ系列で全国に試合がテレビ中継されたこともあり、大いに注目を集め彼は知名度をさらにアップさせた。
だが、いま彼はターゲットが見つけられない。逆に、狙われる立場になってしまっているのだ。
「皇治と闘いたい!」と口にする選手は数多くいる。
理由は、「大して強くはない。なのにネームバリューはある。美味しい相手だ」ということか。
皇治の、これまでの戦績は29勝(10KO)18敗2分け1無効試合。RIZINのリングでは、 1勝4敗1無効試合。トップファイターの数字ではない。にもかかわらず人気選手の地位を保っている。バッティングを喰らう危険性があるとはいえ、狙われるのは必然だろう。
この状況は、皇治にとっては好ましくない。だから、流れを変えていきたい。その思いが、「あと2試合でやめる」発言につながったのではないか。
下から噛みつかれたくはない、上に噛みつきたい。
そんな皇治は、今後いかなる道を進もうとしているのか?
シバター、ボビー・オロゴンらと交わる「話題性路線」か、それとも…。皇治自身も方向性を定められていないように思う。
梅野との闘いは、目前に迫っている。この試合の結果次第で、彼の気持ちに変化が生じるかもしれない。
「勝負は勝たんとあかん。勝たんことには何も言えん」
常日頃からそう口にしている皇治が、いま何よりも欲しいのは勝利だろう。
地元・大阪のリングで復活を遂げられるのか、何を見せてくれるのか。今年33歳になる「鋼のエンペラー」の闘い、動向を注視したい。
文/近藤隆夫